小島健輔の最新論文

販売革新2009年2月号掲載
『売上低迷でも増益出来るテクニカルソリューション』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 百年に一度という恐慌下で消費も生産も雇用も急激な縮小スパイラルに陥っており、国民は生活防衛姿勢を強め消費は一段と冷え込んでいる。『日本経済は全治3年』と言われる中、販売の低迷は長期化・深刻化せざるを得ない。こんな環境では売上回復を期待するより、売上低迷でも小売テクニカルソリューションで増益出来る体質を確立する方が遥かに確実だ。

米国ギャップ社の奇跡に学べ!

 大幅な売上減少下でも増益を続けるなど有り得ないと思われるかも知れないが、米国ギャップ社は直近3四半期連続で既存店が9掛け弱という大幅な売上減少にも係わらず増益を叩き出している。直近3四半期平均の前年比較で在庫は87掛け、原価率(店舗賃料を含む)は2.2ポイント圧縮、営業利益率は3ポイント弱向上、営業利益は33%も増加したのだから立派なものだ。その手法は初期配分から店間移動、マークダウンまで一貫するインベントリーコントロールとプロセスマネジメントが軸になっているようで、売上減少に苦しむチェーンは是非とも参考にすべきであろう。
 ギャップ社は元よりSPAチェーンの教科書と言えるほどロジスティクスとインベントリーコントロールの仕組みが確立されており、棚割とレイアウトを指定しての統一フェィス立ち上げ、エリア毎に店タイプを設定しての不振在庫のウィークリー定時移動(A⇒B⇒C)、消化回転に即してのウィークリー定時SKU単位マークダウンなど、学ぶべき事が多い。加えて、その業務プロセスが須らくタイムテーブル化されてレイバーコントロールに組み込まれており、イレギュラー業務が極めて限られる事にも注目すべきだ。その精度をさらに高め、在庫圧縮/消化回転向上でロスを圧縮し運営経費を削減して増益を実現しているのは絶賛に値する。

売上減少下の増益手法

  売上減少下の増益手法は、1)在庫圧縮/消化回転向上によるロス削減とキャッシュフロー改善、2)固定費の圧縮と変動費化による運営経費の削減、の2点に尽きる。
 ●在庫圧縮/消化回転向上のキーポイント
 消化回転を向上させるには在庫の圧縮が第一で、売上減少に見合った在庫に抑制して回転率を向上させるのは当然だが、総額だけを見た機械的な抑制では売上減少を加速させかねない。直近の店別/カテゴリー別/品番別の回転に即してきめ細かく在庫を管理し、あるべき在庫をあるべき店舗に回して売上を下支えしないと消化回転の向上は望めない。在庫を抑制しても売上減少を最小に抑えるには、店ストックや物流センターの在庫を店頭に出してボリューム感を維持するのがポイントだ(店間移動量が多少増えるが、エリア内定時集中移動体制ならコスト増は知れている)。
 回転に同調して在庫を抑制すると新たな商品を投入出来ず、売場が陳腐化して売上減少に輪がかかるから、新規投入は絶対に抑制せず不振品を処理店舗に移動して投入枠を空けるべきだ。新規投入を押さえると新鮮品が物流センターや納入業者に滞貨して販売機会が損なわれ、実質総在庫も肥大してしまうから絶対にやってはならない。処理店舗に移動した不振品は直ちにマークダウンし、一刻も早くキャッシュに替える。
 エリア毎にフラッグシップ店/レギュラー店/処理店を布陣し、エリア内で不振品をウィークリーに定時移動してフラッグシップ店/レギュラー店のフェイスを新鮮に維持し、処理店で迅速なマークダウン処分を行なうのはチェーンストアの定石だ。フラッグシップ店はVMDの基準店としてエリアで最初に立ち上げ、レギュラー店より多数のルックVPでスタイリングを訴求するイメージ優先店舗。レギュラー店は標準的なVMDで定型ルックや単品バラエティを訴求する売上重視店舗。処理店はシーズン立ち上げこそレギュラー店だが、シーズンイン後は次々と不振品を引き受け(プロパー好調品は逆にレギュラー店などに回収される)単品集積VMDとマークダウンで訴求する処分特化店で、エリア内の価格志向の強い人口密集地に布陣する。
 不振品は品番毎の消化率だけで判断せず、SKU単位の消化率を見て特定の色やサイズだけ部分的に移動処理したり、投入間もない非稼動品番はキッオフ(10〜20%程度の初期値引き)をかけて消化を促進するなど、マークダウンロスを極小化すべくキメ細かい対応が必要だ。また、多重露出やルック組み換え、カセット再編などの再編集で消化をドライブする運用努力も当然で、その上で1週間情況を見て消化が進まないなら移動処理するなど、再編集運用と移動処理の手順を定めておく必要がある。バラ残品は移動処理しても埋没するだけだから、元店舗内で差し込み運用や出前訴求で消化を図るべきだ。
 ●運営経費削減のキーポイント
 売上が低下する局面で運営経費が固定したままでは経費率が上昇して収益が圧迫されるから、如何に運営経費を流動費化出来るかがポイントとなる。最大経費たる運営人件費は時間帯別の売上や入店客数、陳列作業量などにスライドするレイバーコントロール体制を確立していれば自動的に削減出来るが、正社員の変則勤務制とパート&アルバイトを組み合わす運用を欠いては固定費比率が高く抑制が難しい。
 延べ数十人を運用するような大型店ではレイバーコントロールによる流動費化も容易だが、固定勤務制の数人で運用するような小型店では流動費化は極めて困難で、人員を削減すれば販売力の低下に直結してしまう。厳しいようだがレイバーコントロールによる運営人件費流動費化が困難な小型店舗は設けないのが鉄則で、その下限は概ね月商2000万円程度と考えられる。チェーンストアはこれ以下のフォーマットを布陣すべきではないのだ。
 運営人件費を抑制するもうひとつのアプローチがプロセスマネジメントだ。業務遂行に係わる社内外の工程を無理なく整合してタイムテーブル管理すれば、イレギュラーな業務やトラブルが発生せず人件費は極小化出来る。それば現場だけでなく幹部やトップの業務まで一貫したものでなければならない。なぜなら、プロセスマネジメントの欠落している企業では勝手に仕事をつくり出す人と振り回される人でゲームが進むだけで、不要な仕事が発生する一方でその時必要な仕事が蔑ろにされるからだ。ガンガン仕事を片している気分でも、実際には必要な業務が遅れたり飛ばされたりと酷いフラつき走行になっているのが実体ではないか。
 プロセスマネジメントは企業の業務効率と収益性を決定付けるキーテクノロジーであり、一度定めたタイムテーブルにはトップと言えども従わなければならない。それを変えるには社内各部門のみならず取引先や物流業者までプロセスの整合を精緻に検証しなければならないから思いつきで弄れるものでは到底ないが、抜本的に見直せば売上低迷下で増益を叩き出す決定打となりうる。
 運営経費の流動費化で忘れてはならないのが店舗賃料だ。固定賃料や最低保証の水準が高いと売上減少局面では流動費化どころか逆に負担率が加速度的に上昇してしまうから、是非とも交渉して水準を下げねばならない。SC濫造と売上不振でテナントの売手市場と化した今ならデベロッパーも交渉のテーブルに付かざるを得ず、改善出来る物件も少なくないはずだ。

今こそ小売テクノロジーを追求せよ

 未曾有の恐慌に直面してすべてがシュリンクしていく中、これまでのインベントリーコントロール、コストマネジメントとプロセスマネジメントの常識は一変せざるを得ない。小売テクノロジーのすべてを動員してロスとコストを圧縮し業務を効率化し、売上減少下でも増益出来る体質を確立することが急務なのだ。貴社の小売テクノロジーは競争力があるのか、最新の技術革新から遅れていないか、プロセスマネジメントは確立されているのか、総点検すべき時だ。

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