小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『アパレルの「客単価」と「客数」からマーケットポジションを検証する』
(2023年11月28日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 

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10月は百貨店売上も主要アパレルチェーン売上も減速が目立ったが、コロナ前から4年間の10月売上の客単価と客数、決算期売上の客単価と客数の推移を検証し、各社の政策とマーケットポジションを探ってみた。

 

■波乱と転機の10月の既存店売上推移

 10月というと1987年10月19日のブラックマンデー(NY証券取引所の株価暴落)や昨年10月の32年ぶりの円安、19年10月の消費税増税、今年10月のインボイス制度導入など、景気や消費に関わる波乱が思い起こされるが、昨年10月は19年10月の消費税増税の反動にリベンジ消費も加わり、百貨店やアパレルチェーンの既存店売上が一斉に19年を超えたから、何かと転機となる月であって悪いことばかりではないようだ。そんな10月の上場アパレルチェーンの既存店売上を遡って客単価と客数と売上の相関を探ってみた。各社の数値は全て月次報告の10月と通期平均の前年比を積算したものだ。

 各社の売上、客単価、客数の推移は図表の通りだが、価格がコストインフレに突き上げられて大きく振れたか、政策的にコントロール出来たか、その結果として客数がどう増減し売上がどう動いたか、時系列に比較することが出来る。まずは19年10月に対する23年10月の水準だが、図表は客単価の19年比上昇率が高い順に並べてある。次いで決算期ベースでもコロナ前19年と比較してみた。直近の傾向を反映する8月決算に比べれば5月決算、3月決算、2月決算は3ヶ月から6ヶ月のラグが生じるが、いずれもコロナ前からコロナ禍の谷を経て回復した水準と捉えられる。

 

■大衆価格とは言えなくなったユニクロ

 最も客単価上昇率が高かったのは国内ユニクロで、10月だけ見ると4年で30.3%も上昇して客数は12.4%も減少したが、売上は単価に押し上げられて14.2%増えている。決算期(8月)ベースでは4期で客単価は14.1%しか上昇していないが客数は11.9%も減少し、売上は0.5%しか増えていない。

 目を引くのが10月の客単価が年毎に二桁増になったり減少したりと振れが大きいことで、売上も同様に大きく上下している。しまむらも似たような客単価の上下が見られるがユニクロほど大きくは振れておらず(売上の振れはユニクロより大きく価格に敏感だ)、他社の振れはもっと小さい。決算期ベースでは直近23年8月期を除いて大きな振れは見られないから、防寒衣料の比重が高いユニクロは10月の気温による単価と客数、売上の波動が大きいと察せられる。

ユニクロは決算期ベースで過去10年間に客単価が38.4%上昇して客数が13.9%減少し、売上は19.0%増えているが、2900円が4010円強とほぼ1100円、3900円が5400円弱とほぼ1500円上昇した計算になるから、もはや「低価格高品質」の大衆価格ポジションとは言えなくなっている。「GU」との間隙も開いてライバル他社が付け入る隙間が大きくなっており、22年10月(ユニクロの客単価が前年同月から11.3%も上昇した)からのチェーンストア衣料品(GMS衣料部門が大半)の復調をもたらしたと推察される。チェーンストア衣料品の売上は00年度から21年度(当年4月〜翌年3月)まで年々減り続けて4分の1(25.8%)に激減していたが、22年度はコロナからの回復もあって3.6%の増加に転じ、23年度上半期(4〜9月)も1.7%増えている。

万人の「ライフウエア」を志向するユニクロのテイストは最大公約数的ベーシックに収斂してNB化しており、テイストが明確な分、これ以上の客層の広がりは期待し難い。その壁を越えるには、ワークマンが取り損なった(パターンもカラーリングも野暮すぎる)機能性アクションスポーツウエアの本格的拡充が急がれるのではないか。

 

■生産システム革新と間口の拡大が問われるハニーズ

 ハニーズは10月だけ見ると4年で客単価が23.6%上昇しても客数は6.1%増えて売上は30.9%も伸びているが、上半期(6〜11月、今期は6〜10月)で見ると客単価は20.8%上昇して客数は9.0%減少し、売上は9.8%の伸びにとどまる。決算期(5月)ベースだと4期で客単価が16.9%上昇して客数は6.4%減少し、売上は9.4%しか伸びていない。21年5月期まで前年を割っていた客単価が22年5月期は6.1%増、23年5月期は10.8%増と加速しており(計17.6%)、上半期ベースでも9.6%増、7.0%増、計17.3%上昇している。この辺りがアパレルのコストインフレの平均値に近いと思われるが、流石に価格抵抗感が出て来てか23年6〜10月は客数が2.3%減少している(19年上半期比は9.0%減)。

 ミャンマーの自社工場を軸とする南アジア生産シフトでコストを抑制して来たが、生産システムが突出しているわけではなくコスト抑制が限界に近づいており、テイストの狭さもあって値上げが客数減に繋がるリスクが指摘される。

 

■付加価値インフレ政策が奏功したアダストリア 

 10月だけ見ると4年で客単価が20.5%上昇しても客数が1.3%増加して売上は22.1%も伸びているが、上半期(3〜8月)ベースだと客単価が19.9%上昇して客数が12.1%減少し、売上は5.6%しか伸びていない。2月決算なので6ヶ月、趨勢がズレるが、23年2月期までの4期間で客単価が13.9%上昇して客数は13.8%減少し、売上は2.0%減少している。

22年2月期上期から客単価が上昇して(8.1%増)、23年2月期上期は7.6%増、24年2月期上期は9.7%増と、他社より一年先行して客単価が上昇サイクルに入っており、23年2月期下期以降の上昇率が一桁に収まって他社より値上げ抵抗感を抑制できている。通期ベースで見ても上半期ベースで見ても値上げ幅が分散平均化されており、23年8月期の客単価が前期の2.1%増から11.3%増へと跳ね上がって客数が減少したユニクロとは好対照を成す。ライバルとの直接比較を避けるプライシング(例:3900円ではなく4500円)に加え、長期的な付加価値インフレ政策が奏功したと見るべきだろう。

 

■大衆価格追求と間口の拡大がチャンスを開くしまむら

 10月だけ見ると4年で客単価が16.4%上昇しても客数は10.6%増加し売上は30.1%も伸びているが、上半期(3〜8月)ベース だと客単価が12.4%上昇して客数が3.4%の増加、売上も17.2%の伸びにとどまる。決算期(2月)ベースでは4期間で客単価が9.2%上昇して客数が0.4%減少し、売上は8.4%の伸びにとどまる。

しまむらは21年2月期(4.3%増)より22年2月期(0.7%増)、23年2月期(3.6%増)の方が客単価の上昇が抑制されており、客数減から客数増に転じている。円安が進行した24年2月上期(23年3〜8月)は流石に客単価が5.3%上昇しているが他社に比べれば抑制されており、0.1%増とかろうじて客数減には陥らず、売上も5.7%伸びている。

しまむらは上場アパレルチェーンで唯一、商品単価(「しまむら」事業)を開示しているが、価格抵抗感の強い客層ゆえ4期間で1.0%しか上昇しておらず、10期間でも13.2%(客単価は12.1%)の上昇に抑制している。この間(12〜22年)に衣料品の輸入単価が40.6%も上昇したことを思えば、仕入型なのにしまむらのサプライチェーン管理力は突出していると評価すべきだが、納入業者の涙ぐましいコスト抑制努力が推察される。

10期間に客単価が38.4%も上昇して「大衆価格」を逸脱したユニクロとは価格ポジションが大きく開いており、インフレに収入が追いつかず実質賃金の減少が続く中、単価上昇を抑制できれば成長チャンスが大きい。現状のバラエティは似たようなコンサバ系とカジュアル系に限られており(品番数は多くても客層の間口は意外と狭い)、アクションスポーツ系やモードカジュアル系を拡充しないと新手の台頭を許すことになる。

 

■顧客層の転換が問われるバロックジャパン

 10月だけ見ると4年で客単価が14.2%上昇して客数は10.3%減少し、売上は僅かに2.4%伸びているが、決算期(2月)ベースでは4期間で客単価が12.0%上昇して客数は22.5%も減少し、売上は13.4%も減少している。23年2月期の全社売上も20年2月期比89.3%と回復が鈍く、24年2月期中間期も20年2月期中間期比90.9%と状況は変わらず、営業利益も同44.0%にとどまっている。

客単価は21年2月期が+2.0%、22年2月期が+4.8%、23年2月期が+6.6%とジリジリと上昇しているが、客数の増減とは相関していない。都心立地店舗が多い分コロナのダメージが大きく、その回復とコロナ前からの伸び悩み傾向が交錯する動きと思われる。バロックはマークスタイラーよりはブランドが集約されて1店当たりの売上規模も大きく、駅ビル・ファッションビルブランド、SCブランドに加えて百貨店ブランドも広げているが、客単価の上昇はコスト相応で意図したインフレ政策は見えない。

アメカジベースのギャルカジュアルから姉ギャル、郊外のギャルママ、クリエイティブなキャリアと顧客の年齢幅を広げているが、いずれも減少が顕著なタイプだ。勢いを失っていくストレート系(筋肉質)からウェーブ系(脂肪質)のグラマラスにとどまって、ビジネスニーズが拡大するナチュラル系(骨格質)のスタイリッシュタイプが手付かずなのが課題で、客数減はターゲット顧客の減少が大きいと思われる。

 

■メトロライフウエアへの転換が問われるワークマン

10月だけ見ると4年で客単価は4.0%しか上昇しておらず、客数が15.8%増加して売上は20.6%も伸びている。決算期ベースではさらに勢いがあり、4期間で客単価が7.3%上昇して客数は39.2%も増加し、売上は49.5%も伸びているから、政策的に価格を抑制して客数を増やしている。

20年3月期は19.8%増、21年3月期は13.8%増と客数を伸ばしたが、22年3月期は1.0%増、23年3月期も1.1%増と急減速しており、24年3月期の上半期(4〜9月)は3.3%減と減少に転じ、10月は11.5%減と急失速している。上半期の客単価は4.1%増と他社より抑制されており、10月は0.8%減と低下しているから、客数減は価格ではなく商品への失望による顧客離れと推察される。

円安などで調達コストが上振れる中、生産段階に踏み込んでコストを抑制出来ているが、コロナ明けの日常回帰でアウトドアブームが失速する中、機能性アウトドアウエアのファッション化にこだわって機能性メトロライフウエアへの転換が出来ず、都市圏顧客が離反して客数減に陥っていると思われる。アウトドアでもメトロ感覚のブランドはまだ堅調を保っており、根本から顧客とライフスタイルを見直してワークマン流の「メトロライフウエア」を見出すべきだろう。

※「メトロ」・・・カントリー(田舎)に対するメトロポリス(大都市圏)、とりわけそのサバブ(郊外)ライフスタイルを意図した表現

 

■商品政策と出店政策の相反で躓く良品計画

※良品計画は決算期変更などで3年間の推移。衣料品だけの単価と客数は開示がないので全体の指標。

10月だけ見ると、3年で衣料品の輸入単価が14.8%上昇する中、客単価が6.8%も低下して客数は7.1%増加し売上は10.8%伸びているが、決算期(8月)ベースでは3期間で客単価が10.7%も低下して客数が8.4%増えても売上は3.3%減少している。価格を下げて客数を増やす政策が調達コスト上昇で限界を迎えて品質の劣化が問われ、23年8月期から品質重視に転換したが調達ロットがユニクロの10分の1と限られ、上昇した価格と品質が見合わず、食品スーパー隣接立地への急速なシフトもあって客数が減少し、販売効率も売上も落ち込んでいる。

前期から平均店舗面積は10.6%拡大したが平均店舗売上は5.0%減少し、坪当たり売上は前期の192.1万円から165.1万円に急落し、国内事業の営業利益率は前期の5.0%から2.5%に半減している。もとよりナチュラル&エシカルな無印のコンセプトは「ライフウエア」を確立したユニクロに比べて普遍的とは言えず、商圏内顧客のカバー率が低いまま、食品スーパー隣接立地という客数が限られる生活商圏に下ったことが要因と思われる。

品質を高めれば価格の上昇は避けられないから立地を上るべきで、立地を下るなら品質を多少は犠牲にしても低価格を継続すべきだったのではないか。基本的なコンセプトの普遍性が限られる上に、商品政策と出店政策が相反すれば客数も売上も減少して業績は苦しくなる。他山の石と参考にしてほしい。

 

■ジーニングの因習を脱せないライトオン

10月だけ見ると、4年で客単価は14.8%も低下し、客数が5.1%増えても売上は10.4%減少している。10月は特例で、決算期(8月)ベースでは4期間で客単価が4.1%上昇する一方で客数は30.8%も減少し、売上も27.9%減少している。客単価の増減は調達コストに対する価格政策というより、在庫消化の値引き販売に左右されたのが現実で、地を這うような厳しい状況が推察される。

07年でジーニングのブームが終焉して以来、客数が減少し続ける中、新たなライフスタイルとウエアリングのコンセプトを見出すことなく、旧態な価値観とウエアリングのままマーチャンダイジングが迷走し、業績の悪化が止まらなくなった。その構図はマルキュー系のギャルカジュアルと大差ない。

米国のジーンズブランドがメトロサバブのライフスタイル(スニーカーでプリウスかテスラに乗る)をコンセプトに世代交代し、ジーンズカジュアルチェーンはローカルカントリーのライフスタイル(ウエスタンブーツで大排気量のピックアップトラックに乗る)に存続基盤を見出して棲み分けたが、我が国のカントリーマーケットは衰退の一途で、ライトオンには前者の選択しか無かった。

汗も油も煙草の匂いもヴィンテージ感もない綺麗で軽快な都市郊外ライフスタイルのジーニングと機能性アクティブウエアというコンセプトにいち早く転換していれば、今日の苦境には陥らなかったのではないか。因習に囚われて新たな時代に取り残されることのないよう、他山の石と参考にしてほしい。

 

■アパレルチェーンのマーケティングは時空を鳥瞰する

 アパレルチェーンの売上は価格政策やマーチャンダイジング、サプライチェーン戦略やロジスティクス以前に「立地と顧客数」、それ以前に根本的なコンセプトが「時代の価値観やライフスタイル」に適合するかどうか、幅広い顧客に支持される「普遍性」があるかどうかに左右される。時代に取り残され顧客が離れていく旧態なコンセプトに固執したままでは、如何なるマーチャンダイジング技術も運営技術もOMOもDXも成果を発揮できない。様々に手を尽くしても成果が出ないようなら、自社の有り様と時代と立地、顧客とライフスタイルの乖離を疑うべきではないか。

 客単価と客数の検証に発して上場アパレルチェーンのマーケットポジションを問う結果となったが、手応えが分からなくなったら目前の白兵戦から一度、目を遠ざけて時空を鳥瞰してみるべきだろう。

 

 

 

 

 

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