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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔が指摘「迷走するライトオンの突破口はこれだ」』 (2019年05月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ジーンズカジュアルのライトオンが正念場を迎えている。長年の停滞から抜け出さんとした『ジーンズの量販店を脱してジーンズのセレクトショップを目指す』路線は一定の成果はあったものの抜本的浮上にはつながらず、『NBジーンズとアメカジに原点回帰する』という方針転換は迷走と指摘されてもやむを得まい。それが起死回生の復活をもたらすのならともかく、時代錯誤の原点回帰が顧客の間口を狭めて業績回復の芽を摘むのではと危ぶまれる。

赤字転落で商品経営の破綻が露呈

 ライトオンの19年8月中間期(18年9月〜19年2月)は前期(18年8月期)にようやく黒字転換したのもつかの間、営業損益も純損益も再び赤字に転落した。
 前中間期と比較した売上高は1.9%減と前中間期の7.1%減からはかなり改善されたものの、在庫圧縮を図った値引きや人件費、販促費の負担増で4億1900万円の営業赤字に転落し、撤退店舗の減損など13億円の特別損失も計上して純損失は17億円と大幅な赤字になった。通期(20日締めから末締めへ決算期を変更するため18年8月21日〜19年8月31日の376日変則決算)は営業黒字を目指すとしているが、これまでの経緯を見る限り難しそうだ。
 暖冬で防寒衣料が苦戦したことを要因としているが、前中間期は厳冬だったのに7.1%減と暖冬だった今期より大きく売上げを落としているし、値引きがかさんで荒利益も6.3%減と今期(0.6%減)どころじゃなく落としているのに販管費を抑えて(9.9%減)営業黒字にしているから、天候による売上減ではなく持ち越し在庫の処分と経費コントロールが主要因だったと思われる。※ライトオンのPL/BSは18年8月中間期までは単体のみ、18年8月通期は単体と連結、19年8月中間期は連結のみ開示されているが、単体と連結の差は小さく、論旨を左右するものではない。​

売上げと在庫のマッチポンプ

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 ライトオンの商品経営には前世紀のナショナルチェーンに見られたような特有のリズムが指摘される。在庫を積んで売上げを伸ばしては持ち越し在庫に苦しみ、在庫抑制に転ずれば仕入れを抑えて売上げが減り、値引きロスがかさんで大幅減益あるいは赤字転落するという構図だ。
 10.5%も売上高を伸ばして37億3300万円(61.3%増)の営業利益を計上した16年8月期末は前期末比26.2%も在庫が積み上がり、在庫圧縮に転じた17年8月期は仕入れを抑制し値引き処分を進めた結果、期末在庫は前期末比82.7%に圧縮できたが売上高も7.4%減少し、値引きで荒利益率が2.7ポイント低下した一方で販管費率が5.2ポイントも跳ね上がり、28億4900万の営業赤字に転落している。
 よほど持ち越し在庫が積み上がっていたのか18年8月期も在庫圧縮を続け、仕入れも値引きも抑制して荒利益率は3.7ポイント上向いたが売上高は4.3%減り、期末在庫は前期末比91.6%まで圧縮している。それでも商品回転は前期の2.52回から2.60回にわずかに上向いたにすぎず、3.6回近かった12〜13年ごろに比べると7掛け強に落ち込んだままだ。
 売上対比敷金および保証金比率は13.4%と、00年代以降の定借契約で多店化した新興チェーンに比べればほぼ倍だが、90年代のナショナルチェーンに比べれば3分の1程度と軽く、流動比率も216と健全な範囲にある。16〜17年は期末在庫が現預金残高を超えていたが、在庫圧縮が進んだ18年8月期末は現預金残高の8掛け強まで圧縮されている。ライトオンの在庫の積み上がりに対する恐怖症は、資金繰りというより損益の課題なのだろう。
 こんなマッチポンプを繰り返していては消耗戦の隘路を出られず、見えるべき明日も見えなくなる。セレブデニムブームの追い風もあって売上高が1000億円を超えていた07〜08年当時の勢いを取り戻すには、前世紀から続くジーンズカジュアルチェーンのマーケットポジションと運営体質を抜け出すしかないのは自明で、18年4月にバトンタッチされた川崎純平新社長が『ジーンズの量販店を脱してジーンズのセレクトショップを目指す』と打ち上げ、今春には『NBジーンズとアメカジに原点回帰する』と模索するのも当然なのだ。

「脱ジーンズ量販店」は成果があったのか

 隘路を抜け出すためには抜本的な路線転換が不可欠だったが、『ジーンズの量販店を脱してジーンズのセレクトショップを目指す』という路線転換は成果をもたらしたのだろうか。
 半期単位の既存店売上前年比を見ると、16年秋冬(9〜2月)の91.8、17年春夏(3〜8月)の89.8、17年秋冬の90.6から18年春夏は99.8、18年秋冬も99.9と、今一歩で水面は超えられなかったものの確かに上向いている。客単価は17年春夏までの前年割れから17年秋冬は102.9、18年春夏も105.0と上向いたが、客数は17年秋冬が88.0、18年春夏94.3と上向かず、18年秋冬で客単価を99.6に抑えて100.3とようやく浮上している。

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 この指標を見る限り、品揃えの絞り込みと単価上昇を伴う「ジーンズのセレクトショップ」は必ずしも顧客に受け入れられず、「ジーンズの量販店」は脱しても単価を抑え顧客を絞らない『NBジーンズとアメカジに原点回帰する』という方針に帰着したと思われる。しかし「NBジーンズとアメカジ」では従来路線への回帰にすぎず、「NBジーンズ軸」というマーケットポジションも在庫を抱え込む商品経営体質も何も変わらず、消耗戦の隘路を抜け出す展望は見えてこない。

カジュアルの主流ではなくなった「ジーニング」

「ジーンズの量販店」も「ジーンズのセレクトショップ」も「NBジーンズとアメカジ」もすべからく「ジーンズ」が通底しているが、果たして今日、「ジーンズ」はそんなに普遍的なアイテムで「ジーニング」は普遍的なスタイリングなのだろうか。
 ワークアイテムに始まったジーンズがカウンターカルチャーを気取るファッションアイテムとしてブレイクしたのは60年代末から70年代前半で、以降はさまざまなトレンドアイテムが移り替わる中に埋没していった。90年代デフレ下の「渋カジ」で復活し、80年代の「デザイナーズデニム」を継承した「プレミアムデニム」、加工や風合いにこだわる「ヴィンテージデニム」と高価格化していった果てに00年代の「セレブデニム」でピークアウト。高価格化とともに販売数量は01年をピークに減少に転じる一方、生活に定着した日常アイテムとしてユニクロなどの手頃な「PBジーンズ」に需要が移り、08年のリーマンショックを契機にその動きが加速。09年3月のGUの990円ジーンズ発売以降、急速に低価格化してコモディティアイテムとなった。
 加えて女性就業率が急上昇に転じた13年以降、ヒップラインを強調するスタイリングが疎まれるようになり、「セレブデニム」でヒップラインを競ったイメージを引きずるジーンズは一段と人気を失い、17年から急速に広がった「ゆる抜け」「オーバーサイジング」が前時代のヒップコンシャスなジーニングに引導を渡した。
 17年以降の世界的なモードトレンド離れはカジュアルのローカル回帰をもたらし、「リーバイス」が復調して再上場し、加工デニムやリメイクデニムもアクセントアイテムとして重宝されているが、もはや「ジーンズ」は普遍的なアイテムとはいえず、「ジーニング」というスタイリングも都市部ではあまり見掛けなくなった。「ジーンズ」は生活アイテムとなり、「ジーニング」は気負わない日常のスタイリングになったというのが現実ではないか。
      

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「アメカジ」も終わっている

「アメカジ」も今日では、もはやカジュアルの主流ではなくなりつつある。「ノームコア」を経てスポーツ/アウトドアアイテムとドームアイテムを組み合わす「アスレカジュアル」がカジュアルの本流となり、カジュアルとビジカジやルームウエアとの境界も崩れてTPOレス化が進む中、ジーンズと組み合わせる伝統的な「アメカジ」がカジュアルの主流であり続けるのは難しい。

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 世界的なローカル回帰の中でアメカジアイテムは復活しているが、伝統的なアメカジブランドは米国でも復調の勢いを欠き、「ゆる抜け」なスタイリングに流れるわが国では低迷を脱せないでいる。「アスレカジュアル」や「エクストリーム」、「サロン」や「オルチャン」なウエアリングの中でパターンもサイジングも大きく変貌しており、『アメカジに原点回帰』というのは時代錯誤を否めず顧客の間口を絞りかねない。

 むしろ『伝統的な「アメカジ」にこだわらず今風のストリートカジュアルにタイムリーに対応していく』とするのが正解ではなかろうか。

絶対水位は限界を割っている

 ライトオンの提供する「NBジーンズとアメカジ」がいかに今日のマーケットとすれ違っているか、販売効率を見れば明らかだ。ライトオンの坪当たり売上高は近年で最も高かった16年8月期でも105.6万円/年(8.8万円/月)、直近の18年8月期では96.4万円/年(8.0万円/月)でしかなく、国内ユニクロの343.5万円/年(28.6万円/月)とは3倍以上の格差がある。それは顧客の間口の格差とイコールと見るべきで、マーケットポジションを抜本的に見直す必要がある。
 そんな現実に目を背けて『NBジーンズとアメカジに原点回帰する』といわれては、一段と顧客を絞るつもりかと関係者の不安を募らせるだけではないか。

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 販売効率の低さは全ての経営効率に影を落としている。NBの仕入れが6割を占めるにもかかわらず商品回転は3回転を割り込んで2.5回転寸前に低迷し、販管費率は46.7%と同期(18年8月期)の国内ユニクロの34.5%を12.2ポイントも上回り、給与水準に直結する1人当たり売上高は2091万円と同期の国内ユニクロの3052万円の68.5%に留まるが、これでは優秀な人材を採用して健全な世代構成を維持するのも難しい。

 諸悪の根源は「NBジーンズとアメカジ」を基軸としたマーチャンダイジングにあるのは明らかで、それを継続する限り抜本的な経営効率の改善は望めないのではないか。

「ジーンズセレクトショップ」は空論だった

 18年8月期決算と同時に発表した『ジーンズの量販店を脱してジーンズのセレクトショップを目指す』という中期計画方針では「ジーンズ量販店」を価格訴求型・重在庫・低回転・低荒利、「ジーンズセレクトショップ」を価値訴求型・高回転・高荒利としていたが、これは現実を見ない空論だった。
         

img_963d24ab859c5fae4c1cfedd1a7a356c565219ライトオンIR資料より

「セレクトショップ」は確かに価値訴求型だが、ユナイテッドアローズは改善が進んだとはいえ3.34回転(18年3月期単体、以下同)と12〜13年ごろのライトオンと大差ない低回転だし、荒利益率も同50.8%とライトオンの48.5%と大差ない。加えてライトオンより販売効率が高いだけ(同511.5万円/坪)、格段に重在庫(同153万円/坪)だ。販管費率も同45.3%と高く、ライトオンの46.7%と大差ない。6割を超えるPBの高荒利と19年3月期で20%に達するECの高収益で利益水準を確保しているのが現実で、「ジーンズセレクトショップ」を(軽在庫)・高回転・高荒利としたのは幻想に過ぎない。

 一方で「ジーンズ量販店」を価格訴求型・重在庫・低回転・低荒利としたのは現状を是認したにすぎず、長年の体質を変えられないものと思い込んでいるが、ここにこそライトオンの悲劇がある。

 価格訴求型といっても、カジュアルトップスはともかくNBジーンズの価格は1万円前後とユニクロなどSPAのPBジーンズに比べれば法外に高価だ。値引き訴求されてしまうのは「価値」が価格に見合わないかサプライチェーンが非効率に過ぎるからと喝破すべきなのに、是認してしまうところに全ての過ちが始まっている。

NBジーンズはVMIサプライに転換せよ

 サプライチェーンが非効率だから消化歩留まりが低位に留まり、その分、原価率が切り詰められて価格に見合わない「価値」になってしまう。80年代初期の倍も割高になって(原価率が半分に切り詰められて)顧客が離反した百貨店NBとNBジーンズは大差ないのが現実で、ならば百貨店NBのように消化仕入れにして小売店の在庫負担を軽減すべきだった。

 NBとはそもそもブランド価値と流通をメーカーがコントロールするもので、小売店や問屋に在庫を買い取らせては価格維持が困難になる。ゆえにNBメーカーは消化仕入れやオンラインVMIで店頭在庫と生産ラインを連携し、サプライチェーンを自主管理するのが好ましい。アパレルでは例外的に国内生産を維持してきたNBジーンズ業界なら十分に実現可能だったはずだ。本来、そうなるべきだったNBジーンズ流通がそうならなかった責任はトップバイヤーだったライトオンにあり、そのツケでNBジーンズ業界もライトオンも凋落していったと見るべきだ。

※VMI(Vendor Managed Inventory):フェイシング設定に基づいて納入業者に在庫管理と補給を委託する方法

 売上高が1000億円を超えていたピーク時のライトオンはジーンズカジュアルチェーン売上げの3割強を占めていたから、SPA化するかNBジーンズメーカーにVMIを要求するか、どちらも実現可能だったと思われる。なのにSPA化も中途半端に終わり、NBジーンズのVMI化は議論にも上がらなかったのが後悔される。

 今やライトオンの売上高はピークの7掛け寸前まで萎縮し、NBジーンズ業界はそれ以上にシュリンクしている。この流れを逆転させるにはウエアリングのアップデートと間口の拡大はもちろんだが、サプライチェーンの抜本的効率化が不可欠だ。

 多サイズ展開が必須のジーンズでは小売店が買い取ってはサイズ在庫を持ち切れず、補給も途絶えて欠品が常態化し、顧客を離反させてしまう。無理して在庫を抱えれば在庫回転も消化歩留まりも苦しく、値引きロスで収益が圧迫されキャッシュフローも綱渡りになる。ライトオンが旗を振って『NBジーンズはVMIでサプライするもの』という取引慣行を切り開いていれば、NBジーンズ流通がここまで凋落することはなかったのではないか。

 今からでも遅くはない。NBジーンズのサプライ慣行をVMIに転換させて在庫効率を抜本から改善すれば、品揃えが豊かになり欠品も減って顧客満足が高まり、販売効率が飛躍的に高まって全てがうまく回りだす。ライトオンが復興しNBジーンズ流通の救世主となるか否か、全ては経営者の構想力とリーダーシップにかかっている。

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