小島健輔の最新論文

ファッション販売2001年7月号
『絶好調ユニクロに死角はあるか』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

まだ止まらないユニクロの快進撃

 ユニクロの一人勝ちがまだ続いている。その独走ぶりはファーストフードのマクドナルドと並べて“マック・クロ”、すなわち競争他社にとっては真っ黒な情況と言わせるほどだ。2001年2月中間決算は、売上高が前年同期比126.2%増の2177億円、営業利益高が同140.3%増の617.9億円、経常利益高が同140.9%増の623.1億円と、前期に続いて超のつく好決算。昨年11月に上方修正されたばかりの業績予想をさらに上回る結果となり、期首予想に対して売上高で36%、経常利益高で56%も上回った。 
 半期の営業利益高はダイエー、イトーヨーカ堂、ジャスコ三社の年間合計を遥かに超えるスケールに達し、営業利益率も28.4%、経常利益率は28.6%とともに前年同期比1.7ポイント上昇。営業利益率は欧米のサクセスSPAたるアバークロンビー&フィッチのピーク時の23.2%、GAPのピーク時の16.2%を遥かに凌駕し、グッチの 27.0%をも上回った。LVMHグループのファッション&レザーグッズ部門の36.5%には及ばないが、単価の差を考えればユニクロの30%に迫る営業利益率は驚異と言うしか無い。もはやユニクロの収益構造はデラックスブランドの領域に達しており、そのビジネスモデルの本質を現わにしている。 
 半期で68店を出店、15店を退店して直営店舗数は474店まで拡大したが、店頭売上の異常な伸びも一向に衰えを見せていない。既存店売上前年比はピークの2000年9月の231.2%から2001年2月には135.3%、3月も142.6%と減速したものの突出した伸びを続けており、中間期トータルでは167.4%と前中間期の154.1%からさらに加速。平均月坪効率は52.3万円と66.6%も上昇した。 
 2001年8月本決算では、2年足らずで150億円超のビジネスとなる通販部門を含んで売上高が74.7%増の4000億円、営業利益高が69.9%増の1030億円、経常利益高は72.0%増の1040億円を見込んでいるが、これは下期の既存店前年比を105%と極めて低く見積もったもの。上方修正は確実で、2002年8月期目標(年商5000億円)を1年前倒しで達成する事さえ無いとは言えない勢いだ。  

世界最強のSPA企業に豹変

 販売効率の急上昇であらゆる指標が好転。店舗の大型化も加わって、1店当り売上高は年換算で90964万円と80%も拡大。坪当り在庫が45%も増加したにもかかわらず、商品回転率は年換算で9.5回転と1.1回転改善。大量採用で総従業員数が2.5倍に増加したため1人当り売上高は年換算で3343万円と25%も減少したものの、パート&アルバイト比率(正社員所定労働時間換算)が87.5%と12ポイント強も上昇して1人当り賃金は逆に1割以上低下。結果、売上対比人件費率は7.8%と0.2ポイント改善された。
 不動産コストも急激に低下している。都心に大量出店を重ねているにもかかわらず、新店の単位面積当り初期投資額(保証金・敷金、建設協力金等)はここ2中間期で40%も低下。平米当たり10.4万円という今中間期の数字を見る限り、SC等では内装投資以外の負担がほとんど無い超優遇条件で出店していることが判る。人気の急騰で新設店の売上歩合も前期の推定8%から今期は同6%(もちろん、共益費等を全て含む)と局限まで低下し、強気で知られるGAPのそれを下回るに至っている。一方で、既存のロードサイド店はリースバックの固定家賃ゆえに、販売効率の急上昇で売上対比負担率が3%台半ばまで急落。結果、売上対比不動産費率は4.1%と前中間期から0.9ポイントも改善された。これは世界のあらゆるSPAが到達しえなかった驚異的な水準だ。
 大量出店でマークダウンロスは若干、上昇したと考えられるが販売効率の急騰で商品回転が改善され、SCM深耕による調達原価の圧縮もあって粗利益率は49%と前中間期から0.5ポイント向上した。系列化戦略を重視する同社の調達原価は小売価格比で推定43%程度と、工場の設備投資を支援すべく割高に設定されており、高品質を追求してもまだまだ圧縮が可能。SC展開のメーカー系SPAの調達原価率が25%程度まで低下している現状を見る限り、ユニクロのバリュー競争力とコスト圧縮余力は突出している。いざとなれば、ライバル各社が腰を抜かすようなバリュー訴求や価格訴求を仕掛ける余力を200%持っているのだ。
 業績急騰でキャッシュフロー(現預金+有価証券)も前中間期から2.2倍増の1542億円に急増しているし、その気になればこれに柳井氏個人の5300億円というキャッシュ(自社株式を含まず)が加わる。今中間期決算発表でファーストリテイリングが打ち上げた海外戦略や異分野進出戦略は、けっして荒唐無稽なものではない。資金的にもビジネスモデル的にも、ほとんどそのまま実現可能な領域と見るのが妥当であろう。
 これまで世界最強を自負してきたGAPも日本市場ではユニクロに蹴散らされて撤退さえ噂される惨状で、欧米市場でユニクロの拡張を押さえる力はない。唯一、抑止出来るとすればH&Mだけだが、品質でもSCMでも財務でもファーストリテイリングの右に出る力量は無い。ファーストリテイリングはまさに、世界最強のSPA企業に豹変してしまったのだ。

ユニクロは低価格デラックスブランドビジネスだ

 ユニクロの突出した成功の最大要因は、ブランドビジネス級生産スペックと素資材段階まで踏み込んだSCM深耕によるバリュー革新、ブランドビジネス型イメージプロモーションの連動による低価格デラックスブランド戦略にある。
 98年春以降の商社の一貫サポート体制の活用、工場の絞り込みと系列化、POS情報を元にした需要予測システムの導入、分散していたデザインチームの東京への一本化に加え、99年春以降はワールドやイッセイミヤケ、オンワードといったブランドビジネスから大量の企画・開発スタッフを招いてのレディス/メンズの企画・仕様の分離と生産スペックのブランドビジネス級高質化等、企画〜生産プロセスの改革を矢継ぎ早に断行。昨秋冬には東レと共同で新素材エアテックを開発する等、かつての仕様書発注による縫製段階のオリジナル開発から一歩も二歩も踏み込んでテキスタイル、紡績、原糸まで遡って自動車産業に通じる工業的系列生産体制を確立した。
 全調達量の約9割を占める中国には実質的に系列化している60社85の生産委託工場を抱えるが、80人の生産管理スタッフを常駐させて品質管理を徹底。加えて、生産現場経験30〜40年のベテラン技術者で“匠チーム”を組織し、工程管理や縫製等の技術を各工場に伝授している。今後、生産管理スタッフは200人まで増強され、品質管理体制のさらなる強化を図っていく。これらの改革でかつての「安かろう悪かろう」というイメージが完全に払拭されたばかりか、低価格デラックスブランドとしての品質神話さえ確立されつつある。
   2000年10月には新日鉄製のERPパッケージが本格稼働。SKUレベルの販売情報を素資材調達を含めた全生産プロセスに即座に反映する事を狙っている。ファーストリテイリングはもはや小売業の枠を遠く超え、トヨタやVWアウディ、ソニーやデルコンピュータといった製造業の最先端ビジネスモデルを追求しているのだ。
 これらの改革と大商圏型の都心店/SC店の拡大、TVキャンペーンを始めとするプロモーション効果(2001年2月中間期の広告宣伝費は売上対比4.2%の91.9億円)が重なって、販売効率の爆発的な上昇に繋がったのである。

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