小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年07月04日付)
『男も女もスーツは作業着になる!』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

スタートトゥデイのプレスリリースより

 スポーツメーカーから始まったアクティブスーツとIoT仕掛けの短納期イージーオーダーがスーツ市場を一変する中、スタートトゥデイまで「ゾゾスーツ」自動採寸仕掛けの短納期フルオーダースーツに本格参入するに至っては、既成・既製スーツ市場の崩壊はもはや決定的だ。「ゾゾスーツ」採寸のフルオーダーがマーケットに受け入れられるか否かはともかく、男達?の仕事着の一変はもう止まらない
 機能素材のアクティブスーツはスポーツメーカーに発して大手紳士服専門店や紳士服メーカーはもちろんカジュアルチェーンの“ビジカジ”代わりにも広がり、当初の3万円代から1万9800円、1万4800円と低価格品が氾濫。セールでは9800円まで値引きされるケースも見られる。アクティブスーツはテーラリング仕立てとは無縁な、極端に言えばジャージのトラックスーツのように手軽に量産できる構造だから、機能素材が低価格で氾濫すれば製品も低価格で氾濫することになる。そんなことは合繊メーカーやテキスタイルコンバーター、大手商社の素材供給を見れば火を見るよりも明らかで、来シーズンには9800円〜1万9800円に集中して2〜3万円代の製品は苦しくなるだろう。
 アクティブスーツが急激にメジャー化・低価格化したのは必然性があったからだ。2月19日の当ブログ『アクティブスーツの衝撃』で以下のように指摘したが、それが一気に現実になった。
 米国東海岸では男性のビジネススタイルは組織内階級によってエグゼクティブの「スーツ」、中間管理職の「オフィサー」、現場労働者の「ワーカー」と区分され、エグゼクティブが高価で仕立ての良いスリムなスーツを着用するのに対し、セールスマンなど“スーツを着る労働者”は安価で仕立ての雑な緩いスーツを着るという社会慣習があった・・・・・
 ロードサイド紳士服店やツープライススーツ店に流れていた“スーツを着る労働者”層や「ビジカジ」なオフィサー層が「アクティブスーツ」に流れ、マーケットのシェア関係に異変が生ずるのではないか。それはゴム底のビジネススニーカーが革底のビジネスシューズを駆逐して来た近年の靴市場に匹敵する変化であり、カジュアル市場を一変させたノームコア革命がビジネススーツに波及すると見るべきだ。
 
 短納期イージーオーダーについても6月4日の当ブログ『ダブル革命で紳士服市場が激変中!』で以下のように指摘している。
 ITの活用や生産工程の再構築で納期が劇的に短縮され、既製服を修理加工するより速く安くなったからだが、既製ビジネススーツの品揃えが消化不振で選択に耐えないほど細ったことも背景として指摘される。元より紳士既製スーツは半年以上前からの計画生産が主流で、在庫が年に二回転するかしないかという非効率な世界だから、受注先行の短納期EOという無在庫D2Cビジネスは“超”が付く効率化革命で、業界側からもEOシフトが加速するのは必然だ。
 この前門の「アクティブスーツ」、後門の「短納期EO」という二つの爆発的奔流にどう対応するかで紳士服業界の勢力図は一変するに違いない。その奔流は紳士服のみならず婦人服にも及ぶのではないか。
 
 「スーツ」階級はともかく、大多数の男性勤労者にとってスーツは「作業着」であり、ダンディな「お洒落着」として楽しむのは一部の好事家かギョーカイ人に限られる。少子高齢化で一億総動員労働力化が急進するアベノミクス下では女性とて男性同様の“勤労者”と化しており、男性勤労者同様な「勤労服革命」が避けられない。「ファッションシステム」の幻想から醒めないギョーカイはそんな現実を直視しているだろうか。

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