小島健輔の最新論文

ファッション販売2004年6月号掲載
『郊外RSCと都心に燃え上がるメガストア・ウォーズ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

テナントの世代交代に燃える郊外RSC

 郊外SC開発は絶対数こそ低調だが、ソレイユ(広島、3月24日開設)、アルル(橿原 4月1日開設)、ルクル(福岡 6月4日開設予定)と続くダイヤモンドシティ系を筆頭に、アップスケールなRSC開発には拍車がかかっている。これらのRSCでは従来の郊外大型SCに各駅停車出店してきた大衆的なテナントに替わって、多様化個性化する顧客層に応える洗練されたブランディング志向のテナントが求められており、新手のブランド系SPAはもちろん、これまでターミナル立地に限定していたブランドショップやセレクトショップ、ローカル系の注目セレクトショップまで続々と進出している。
 新世代RSCテナントに求められているのは、1)MD/VMDから店舗環境や接客のクオリテイまでコンセプトを貫徹する洗練されたブランド性、2)多様な世代の多様な個性にシャープに応えるニッチ・フォーカス、3)新鮮なスタイル提案/デリシャスなライフスタイル提案、に他ならない。それに応えるテナントであれば、ブランド系/専門店系、ナショナル系/ローカル系を問わないばかりか、インパクトある新業態なら実績も問わないといった世代交代期待に満ちているのが今のRSCデベロッパーなのだ。
 実績はあっても各駅停車で鮮度を失ったメジャー業態が疎まれ、ターミナルの百貨店やファッションビルからやって来る数字の読み難い新参者、斬新なコンセプトに挑戦するローカル専門店が期待を浴びている。このような熱気の中では、既存業態の手直し程度で出店するメジャーSPA、百貨店ブランドの手軽なディフュージョンで出店するブランド系ストアは志の低さが露呈し、顧客の離反を招きかねない。逆に見れば、ブランディングへの熱い志に燃えるストアなら、事業規模の大小や実績は足枷にならない。まさに千載一遇のチャンスと言ってよいのではないか。 

最注目は「フラクサス」

 今春の郊外新設RSCで突出して注目されるのがワールドのファッション・ライフスタイル・メガストア「フラクサス」であることに誰も異論はあるまい。他のすべての新業態/ブランドを総まとめにしても、その半分も注目を集められないだろう。
 その詳細な論評はカラーページに記したが、構想の巨大さと仕込みの時間不足でMDの詰めの甘さは否めず、売りに繋がるにはしばらく時間が掛かりそうだ。とは言え、その店舗環境は世界的な注目に値するほど斬新で洗練されたもので、ブランディングという視点に立てば、その志の高さが十二分に体現されたものと評価される。当初の販売成績はどうあれストアの格が画期的に高いのだから、丁寧にMDを積み上げて行けば販売効率も確実に上昇していくはずだ。
 成功か失敗かと問われれば、私は大成功と答える。大器は晩成すればよいのだ。晩成と言っても、「ハッシュアッシュ」がそうだったように年率30%台の成長を3年は続けるだろうという物指しでの話だ。
 「フラクサス」から学ぶべき事は、最初の志の高さと器の格だ。欠点は様々に指摘できようが、いったい誰があれほど壮大な構想を立案し実行できたと言うのか。「フラクサス」に比べれば、他の新業態/ブランドの多くはほどほどの志とほどほどの出来に終わっている。その手抜き感覚が顧客に見えてしまえば、ブランディングは最初から蹉跌してしまう。業態開発には『完全か無か』という志の高さが不可欠なのだ。
 もちろん、他の新業態/ブランドにも評価すべきものがある。サンエーインターナショナルの「&byピンキー&ダイアン」は洗練されたキレイ目面スタイリッシュセクシーをモールに投入して既存のブランド系SPAと一線を画したし、ヒロコビスの新業態「SATELLITES」はこれまでモールになかったクリエイティブなミセスに応えるショップとして、センソユニコの自社ブランド編集ショッブ「M2」はキャラの強いキャリア層にライフスタイル感覚の演出でアプローチする手法が評価される。新ブランドではないが、「マックスマーラ・ウィークエンド」もモール向きのMD構成とショップ演出が新たな市場を開くのではないか。
 既存業態でもキャビンの「e.a.p」は店毎にデザインを変えてジュニアチェーン的な鮮度を訴求しているし、ポイントの「ローリーズファーム」は多店化にもかかわらずセレクトショップ的感度を保っている。

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 「フラクサス」を除けば郊外RSCでのスーパーストア開発は停滞しており、既存のスーパーストアが手直し程度のリフレッシュを行うに留まっている。加えて、効率的な限界から規模を縮小するスーパーストアも目立つなど、閉塞感が強い。スーパーストアというより、多様な個性にシャープなフォーカスで応える小粒な新業態/ブランドがニッチを埋めていく局面なのであろう。
 だからこそ、「フラクサス」の登場は歓喜の声をもって迎えられたのだ。「フラクサス」に対抗して大手アパレルが超千坪級メガストア開発を競い合うという局面に発展すれば、郊外RSCはもっと面白くなるに違いない。

都心立地ではメガ・セレクトストアが競い合う

 一方、都心立地では新たなスーパーストア・ウォーズが勃発しようとしている。その主役はセレクトショップがアップスケール&複合したメガ・セレクトストアに他ならない。
 メガ・セレクトストアを代表する「バーニーズ」は80年代ラグジュアリー消費高揚下の米国で多店化し、MD拡充とブランド商財拡張によってNYマジソン街本店(約10,600平米)、ビバリーヒルズ店(約5,600平米)といったメガ・ストアも開設。日本でも伊勢丹との合弁でバーニーズ・ジャパンが設立され、90年11月の新宿店(2,500平米)、93年8月の横浜店(5,000平米)の2店が開設された。その後の米国バブル崩壊とバーニーズNY本体の経営悪化に伴い、バーニーズ・ジャパンは伊勢丹の百%子会社に移行。デフレと消費低迷の長いトンネルを抜けてラグジュアリー消費が復活するに及び、横浜店以来11年ぶりの新店として今十月の銀座店(6丁目交詢ビルのBF〜2F 2,900平米)開設が発表されている。
 サザビー系の「エストネーション」も01年9月の有楽町店(1,320平米)に続いて03年4月、六本木ヒルズに3,000平米の大型店を開設しているが、未だ軌道に乗っていない。
 メガ・セレクトストアに火を付けたのはこの両者ではなく、昨年秋に画期的なリモデルを果たした伊勢丹本店メンズ館に他ならない。セレクトショップで育ってきたファクトリーブランドや新手のクリエイターブランドを丸ごと取り込んで、メンズの購買慣習を一変させてしまった。これに危機感を抱いた大手セレクトショップが志向しているのが、メガ・セレクトストアなのだ。
 多店化の過程でファクトリースペックの原点を希薄化させていた大手セレクトショップは百貨店のセレクト客取り込みに危機感を抱き、オリジナルの再構築に加えてファクトリーブランド/クリエイターブランドを取り込んでクラスアップしたメガ・セレクトストアを構想。大手各社がそれぞれの手法で開発を急いでいる。その片鱗がユナイテッド・アローズ原宿本店のリモデルであり、ベイクルーズの「ルドーム・エディフス・イエナ」(04年3月、丸の内三菱ビルに開設 520平米)なのではないか。
 この二例を除けば大手セレクト各社の新業態開発は小粒なものばかりだが、基幹業態との複合も構想されているはずだ。いささか乱暴な仮説だが、ユナイテッド・アローズの原宿本店(メンズ館/ウイメンズ館計1,240平米)に同地区に展開する「ブルーレーベルストア」「アナザーエディション」「チェンジズ」「ディストリクト」を複合すれば約2,400平米(「ドゥロワー」まで加えれば約2,600平米)と、「バーニーズ」新宿店に匹敵する規模になる。
 販売効率を考えれば割り引かねばならないしストリート業態は除外しなければならないが、新規のファクトリーブランド/クリエイターブランドや飲食サービスの導入を加えるなら、二千平米級のメガ・セレクトストアは十分に現実的な射程距離にある。それは「スピック&スパン」「エディフス」「イエナ」「ジャーナル・スタンダード」「ドゥーズィエム・クラス」「エディット・フォー・ルル」を展開するベイクルーズにとっても大差ない。ビームスにしても、既に「ビームス・ジャパン」(新宿 1,500平米)という実績がある。
 すでに二千平米級「オペーク」(心斎橋)で先べんを付けているワールドも「フラクサス」のノウハウも加え、三千三百平米級メガ・セレクトストアを仕掛けてくるに違いない。今秋の「バーニーズ」銀座店開設を契機に大手セレクト各社の開発が急進し、来春には各社のメガ・セレクトストアが出揃うのではないか。

メガストア拡張の限界

 原形とするブランドショップやセレクトショップからスーパーストア/メガストアへと拡張していく手法は、1)既存MDユニットのSKU拡張(品種/品目/カラー/サイズの拡張)、2)ライン・ロビング(カテゴリー/シーン/ターゲットの拡張)、3)調達手法の複合化、4)業態/ブランド・ユニットの複合、5)飲食サービスの導入など様々だが、どの手法にもおのずと限界がある。
 上記の手法を組み合わして拡張していっても、顧客支持の原点となっているコンセプトやテイストの限界に突き当たると販売効率が低下し、売場を維持できなくなる。経験則だが、ワンブランドのスーパーストアは千平米、それにテイスト的に複合可能なブランドユニットを加えたりセレクト商品を加えたりしても、三千三百平米が効率的に維持できる限界のようだ。
 セレクトショップの場合はもともとテイストも調達手法も複合が売りだからテイスト的な限界は高いが、規模の拡大とともに客層が拡がって感性が低下したり在庫回転が悪化したりして、マネジメント出来なくなる。「バーニーズ」のマジソン街本店など明らかにその限界を超えており、MDの密度から見て五千平米程度が限界であったと思われる。「バーニーズ」の場合は調達手法が限定されているため限界面積が低いが、業態やブランドを複合する手法ならデパートメント・マネジメントが可能だから、六千六百平米級までは十分に拡張できるはずだ。
 このサイズを超えるとスペシャルティ・デパートメントストアとしての顧客ミックスと調達マネジメントに移行し、メガ・セレクトショップとしての先鋭性は失われる。「ノードストロム」や「ニーマン・マーカス」がその好例だが、それでも一般のデパートメントストアよりは遥かにフォーカスが効いている。
 「フラクサス」にせよメガ・セレクトストアにせよ、調達手法の複合化とデパートメント・マネジメントによるメガストア時代を開くものとして熱い注目を注ぎたい。郊外RSCも都心のコンセプチュアルな商業施設も、これらの登場なくしては明日への扉を開けないからだ。

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