小島健輔の最新論文

現代ビジネスオンライン
『売場が消える…!「イタロファッション」が下火になった本当の理由』
「モテるオヤジ」は「ヤバいオヤジ」に
(2018年10月23日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

バブル期には一世を風靡し今世紀に入っても『モテるオヤジ』で再ブレイクしたイタロファッションだが、昨今は「グッチ」や「モンクレール」など一部のスーパーブランドを除けば、すっかり影が薄くなった感がある。いったいどうしてイタロファッションは人気を失ったのだろうか。

若者にもおじさんにも不人気

この夏、楽天がフリマアプリ「ラクマ」のユーザーに『ファッションの参考にする国』を聞いたところ、10代〜20代では韓国、米国、30代では米国、韓国、40代では米国、フランスが1、2位を占め、イタリアは10代〜30代では5位、40代でも4位と不人気で、50代でようやく米国、フランスに次ぐ3位に顔を出すに留まった。

名称未設定

フリマアプリのユーザーゆえ市場全体の傾向を代弁しているとは言い切れないが、『イタロファッションは高年齢層にしか受けない』という近年のイメージを裏付けた。

若い世代には受けなくてもアダルト層には根強い人気があると思われて来たが、それも最近は怪しいようだ。

『モテるオヤジ』で一世を風靡したメンズファッション誌「LEON」の発行部数もイタリアからの衣料輸入数量と軌を一にするように14年頃からジリジリと下降しており(下図)、若々しいサーフやアメカジ、スポーツやアウトドアがライフスタイルを彩る「Safari」や「OCEANS」に読者が流れている。

現代

 “モテる”を強調してはセクハラおやじと誤解されかねない今時の風潮も逆風で、脱税やパワハラなどイタロファッション企業の“脱法”イメージもコンプライアンスが問われる昨今ではマイナスが大きいようだ。

実際、イタロファッションには艶なイメージが定着して“正直”“公正”なイメージには遠く、お遊びのシーンはともかくビジネスシーンには憚られてしまう。ビジネスシーンでは“正直”“公正”なイメージが漂うブリティッシュスタイルが根強い人気を保っているのもうなづける。

売れなくなった4つの理由

衣料品の輸入統計を見ると、イタリアからの輸入数量はリーマンショックの08年以降、かなりのペースで減少している。円高局面で一時、戻すことがあっても右肩下がりは止まりそうもない。

売れなくなったのは不人気に加え価格の高騰や品質不信、売場の減少やボディコンなパターンも響いているようだ。

1)価格が高騰してお値打ち感が薄れた

ユーロ高になって価格が高騰したのは数年前で、価格とお値打ちのバランスが崩れた。それでも無理して買ったりセールを狙ったりする顧客もいたが、イタロファッションがオワコンになるにつれ、そこまでして買う顧客も少なくなった。

2)感性優先の柔な品質に愛想が尽きた

見た目のデザインや風合い色合いにこだわった分、耐久性やクリーニング堅牢度に難があってメンテに気遣いを要し、高価な割に長くは着られないというコスパの悪さに愛想を尽かす人が増えた。

3)売場も減り品揃えも細って買い難くなった

価格の高騰もあってかイタロブランドを扱う売場が減り、品揃えも細って選択の巾が限られ、色柄やサイズを妥協して買うには高価に過ぎて買う人が減った。

4)抜け感を欠くボディコンな立体パターンが疎まれた

日本では抜けて軽快に着こなすのが今風だが、ボディコンシャスなイタロブランドは凝った立体パターンで出来ており、抜けた緩い着こなしにはそぐわない。今時、ボディライン剥き出しでパンパンに着るイタロスタイルは見るからに違和感がある。

アパレル業界の知られざる事情

売場が減り品揃えが細って行くのには、インポートブランドに特有の業界事情もあるようだ。

1)例外的な買い取り商品ゆえ売れないと売場が消える

外資ジャパン社やインポーター(輸入代理店)との合弁販社が販売するラグジュアリーブランドは百貨店でもブランド直営のブティックだが、イタロブランドの多くは百貨店が買い取る平場商材で、売上が落ちるといの一番に取引が打ち切られる。価格が高止まりして売り難くなると品揃えを絞らざるを得ず、それが顧客の失望を招いて売上がさらに落ちるという悪循環に陥りがちだ。

2)ミニマムオーダーのハードルが高い

インポーターとて半年以上前の現地展示会でオーダーする買い取りで、ジャパンフィット別注に必要なミニマムロットの負担も重い。

百貨店の直買い付け品などは別注ロット未満のセレクト調達でジャパンフィットになっておらず胴を合わせると丈が余ったりするが、百貨店バイヤーの厳しい目に晒されるインポーターの商品はジャパンフィットが必定だ。ゆえに売場が減ってミニマムロットをこなせなくなると買い付け商品が絞られて品揃えが細り、総体のミニマム取引額も割り込めば代理店契約も破綻する。

3)セレクトショップの扱いも細る

もとよりブランド商品を買い取りでセレクトして品揃えするはずのセレクトショップも、多店化とともに利幅の厚いオリジナル商品の比率が上昇し、今や名の知れたチェーンは6〜8割方がオリジナルとなってSPA化し、セレクト商品はスパイス程度になっている。イタロブランドの販路としても先細りで、百貨店売場の減少を穴埋めする勢いは期待すべくもない。

地方や郊外の百貨店が次々と閉まり、閉店まで行かなくても買い取りのイタロブランドは売場が消えて行く。

オリジナルに流れるセレクトショップ販路も先細りで、インポーターもミニマムロットを維持出来なくなり、ブランドそのものが日本市場から消えて行く。14年以降のイタリアからの衣料品輸入数量減少はそんな事情を反映しているのではないか。

イタロファッションに復活はあるのか

イタロファッションはこのまま衰退していくのだろうか。

ファッショントレンドでは「グッチ」が牽引して70年代の「レノマ」を彷彿させるスタイルが復活しているが、業界事情が変わらない限り、平場のイタロファッションが復活するのは期待薄だ。復活の契機となりうるのがイタロファッションにフォーカスするセレクトショップの登場だが、そんな気配も見られない。

少子高齢化で女性が社会戦力化していく今日では『モテるオヤジ』を謳うのも憚られるし、セクハラと受け取られては身も蓋もない。

日本から見れば男性天国で、紳士服の市場規模が婦人服と大差ないイタリアと婦人服の半分にも遠い(44.3%)我が国とは男のお洒落の勢いも違う。日本社会の時勢はますますイタロファッションに逆行しており、『モテるオヤジ』が大手を振って表を歩ける日は遠ざかるばかりだ。

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