小島健輔の最新論文

オリジナル提言
2005年8月26日開催SPAC“ビッグコンベンション”レポートより抜粋
『2006年度への経営課題』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

コストはデフレからインフレへ

 91年来のデフレ局面もようやく終焉。産業素材市況は03年第2四半期頃からインフレに転じ、原材料価格水準を示すCRB指数は04年3月に283.8と15年ぶりの高水準を記録。その後も急騰し続ける原油価格(8月初には瞬間風速で1バレル67ドルと03年末の27ドル前後から2.5倍に上昇)のあおりを受け、7月末には308.0まで上昇している。製品市場もインフレに転じており、国内企業物価指数前年比は04年2月に100を超えた後、04年第2四半期には101.7まで上昇。消費者物価指数前年比も04年第4四半期以降はプラスの月が目立っている。
 人件費も既にインフレに転じており、04年のサラリーマン世帯の平均実収入は1.5%増と7年ぶりに増加。今夏のボーナスも3.3%増と3年連続して増加している。卸・小売業は販売力強化を目指してパート削減/正社員増強という動きに転じており、労働単価もジリジリと上昇している。有効求人倍率は02年第1四半期に二番底を打った後、今6月には0.96まで回復。24才以下の若年層では既に1.30と1倍を大きく超えている。大半の企業は既にリストラ局面を脱し、団塊世代の定年退職と若年労働人口の急減という労働力不足局面への対応に迫られており、人件費抑制より絶対労働力の確保を優先せざるを得ない状況だ。
 小売業においては法規制強化によるパート労働コストの上昇も加わり、営業時間延長下の人件費抑制という課題が破綻。レイバーコントロールとマニュアル化による店舗労働の工業化(パート化)も販売効率低下で壁に当たり、坪当たり人件費上昇を容認せざるを得ない状況に追い込まれている。このため、企業は付加価値や販売効率を高めて人件費の上昇を吸収するか、棚卸しや店内物流業務、販売業務をアウトソーシングしてコストを抑えるか、どちらかの方法による解決を迫られている。前者では高水準な店舗労働力の確保(正社員比率を高め高頻度に研修する)、後者では有力な販売代行業者の組織化などがキーとなるはずだ。

製品価格はインフレとデフレの二極化

 アパレル分野においても一部原糸価格の上昇が進んでおり、02年初から05年初にかけてナイロンフィラメントは2倍、ポリエステルフィラメントも1.5倍に上昇(東南アジア市況)。業者の減少集約の果てに染色整理などのキーデバイス工程もコスト上昇に転じている。元レートこそ今のところ実質変動巾は限られているが、労働コストの上昇と国内消費の過熱がコストに波及するのは時間の問題で、中国以外に調達を分散するにしても中長期的にはコスト上昇が避けられない。
 その一方で最近のアパーポピュラー価格商品の付加装飾化は著しく、同価格帯のベーシック商品(ユニクロ/量販平場)やロアーモデレート価格商品を圧迫している。ハニーズやしまむら、その追従者のバリュー競争力(短サイクル売り切り型ディティール展開MDによる高消化率が寄与)はロアーモデレート商品やアパーポピュラーのベーシック商品を駆逐する水準に達しており、ユニクロや量販平場は危機的状況に追い込まれていくだろう。
 低価格帯での実質的デフレ(バリューインフレ)が加速する一方、製品仕上げ面のキレイ目回帰(モードシフト)とクラス志向によってアパーモデレート以上の価格帯ではインフレ傾向も見られる。特に団塊Jr世代の先端が中間世代に組み込まれていく30代中盤から40代にかけてその傾向が著しく、ネオ・クチュール志向やニューブリッジ志向が百貨店中心に新たなクラスマーケットを形成しつつある。駅ビルなどではOL層のキレイ目志向でアパーモデレート価格帯が再活性化しており、同質化したロアーモデレート商品は上下から圧迫されている。総じてブリッジ、アパーモデレート、アパーポピュラーの価格帯が活性化し、ベター、ロアーモデレートの価格帯が苦戦する構図となるだろう。

SCの購買局面分化と核の多様化

 開発規制の後退と敷地の潤沢な供給、資金調達の多様化と低コスト化、テナントの多様化と旺盛な出店意欲を背景に00年以降、過熱の一途であったSC開発だが、06年後期にはちょっとした転換点を迎える事になる。まず指摘されるのが開発コストの上昇だ。
 工場の海外移転も一巡し、地方行政の郊外化推進にもサービスコスト抑制からブレーキが掛かる一方、新規参入デベも加わっての用地獲得競争から05年春以降、用地コスト上昇が顕著になってきている。大手デベは既に低コストで手当てした在庫物件の開発で07年までは現状コストを維持できると見られるが、後発デベの物件は06年後半以降、コスト上昇が顕在化する可能性が高い。とは言っても07年までは現状ペースの開設が続き、テナントへのコスト転嫁は難しいだろう。勢い後発デベの採算は悪化し、先行大手との体力格差が開く事になる。
 9月衆院選で自民党が勝てば開発抑制は避けられず、民主党が勝ってもデベの格差は開いていくから、テナント企業にとっては地方行政対応も含めて開発体制が確かで成功打率の高いデベとの関係強化が課題とならざるを得ない。
 デベ間の競争が激しくなり体力差が開けば、各デベは得意分野に特化していく事になる。ここ2〜3年は各社が類似した大型SC開発を競う傾向にあり、ライフスタイルセンターを唱うなどして立地局面を無視した開発も目立ったが、06年以降はSCの立地局面が明確に分れていく。RSC/CSC/NSCの役割がSC間競争の激化とともに日本でも明確化し、核業態もそれとともに分化していく事になる。
 RSCはPDS/GMSの2核+シネコン型あるいはカテゴリーキラー集積を加えた3核+シネコン型が定型化し(40〜60万人の有効商圏をカバー)、これまでのGMS/カテゴリーキラー集積の2核+シネコン型は商圏の萎縮かリモデルかの選択を迫られる。前者のSC面積は7〜9万㎡台に達し、ワンモールの枠を超えたラウンドモールも開発されよう(米国のT字モール失敗に学ぶべき)。後者のリモデルはPDSを導入してのリアルRSC化、カテゴリーキラー集積を拡充してのパワーセンター化の二つから選択されるだろう。
 パワーセンターはPDSが成り立たない低所得サバブ商圏、あるいはローカルな商圏で疑似RSC的広域商圏を担うが、結果的な有効商圏人口はRSCとCSCの中間になる。核は大型GMS(17,000㎡以上)かメガサイズのホームセンター(20,000㎡以上)とカテゴリーキラー集積で、シネコンとモールが併設される。エンクローズドな2核ワンモール構造、オープンモール構造、両者のハイブリッドと構造は様々だ。
 CSCはスケールの大きい順に以下の3タイプに割れるが、これらの何処までに出店して採算が合うのか、テナント企業は業態毎に明確な基準を定めるべきであろう。
 1)大型GMS(17,000㎡以上)/カテゴリーキラー集積の2核ワンモール+シネコン型のパワーセンター的疑似RSCで、30万人前後の有効商圏をカバー。
 2)コンパクトGMS(15,000㎡未満)/カテゴリーキラー集積の2核ワンモール+シネコン型疑似ライフスタイルセンターで、20万人前後の有効商圏をカバー。
 3)SuCまたは大型HC(10,000㎡級)+ミニモールの箱型ないしはストリップ配置型で、10万人前後の有効商圏をカバー。

RSCを決定付けるPDS

 RSCとパワーセンターやCSCを分けるのがPDSの存在だ。米国ではSC出店を背景とした地方百貨店の統合過程で成立し、DillardsやRobinsons&MayがMacy’s(フェデレイテッド)などの都市デパートとは異なるポジションを確立していった。両者に共通するのは名の通ったNB(DCB含む)のラインナップであり、両者を分けるのもNBのプロパー販売か実質的なディスカウント販売かの違いだ。
 PDSは独自のチェーン型調達手法でNBのディスカウント販売を実現し、都市デパートが成り立ち難い郊外SCの核デパートとして70〜80年代前半に成長した。NBの別注や品番ロット買い取りで15%程度の実質ディスカウント(プロパー価格自体の引き下げであってマークダウンではない)を実現する手法がプロパー価格販売の都市デパートとの最大の違いだ。ステイタス性の強いNBは次第にPDS専用のセカンダリーブランド(ポロ・ラルフロ−レン社の“Lauren”が好例)で対応するようになったが、今日でも大衆的なNBはファーストラインの別注や品番ロット買い取りに応じている。  ラグジュアリーブランドやステイタスブランドのファーストライン(“RalphLauren”や“DonnaKaran”)は入っていないが、それ以外の大方のNBはブリッジブランドやプレタブランドまで揃っており、質実な地方百貨店という印象だ。ブランド揃えは北花田の阪急百貨店より遥かに百貨店的で、宇都宮郊外の福田屋(テナントゾーンを除く)が近いのではないか。
 PDSのディスカウント手法をより大衆的なNBに絞って品番も集約し、色サイズを揃えてディープかつハイ&ローにディスカウントして急成長したのがKohlsだ。立地はしまむら的だが、NBのディスカウント訴求という点ではPDSの一種と見るべきだろう。さらに、NB企画を低コストなソーシングに乗せ替えたNPBで大幅なバリューディスカウントを実現したのが近年のTargetであり、ディスカウントストアからPDSへの業態転換と位置付けるべきであろう。
 どの手法を活用するかは別として、PDSがRSC開発の突破口となるのは間違いのないところだ。都市百貨店が郊外での多店化を目指したり地方百貨店の有志が連合すればDillards型のPDSが、有力GMSがRSC核を目指せばTarget型のPDSが登場する事になる。その時期は恐らく07年中になるのではないか。となれば大手アパレルの郊外SC戦略もモール業態一辺倒ではなくなるし、モールのファッション店のバラエティも大きく変化する事になろう。

主力はカップル型とファッション軸ライフスタイル型

 SCが立地局面対応の役割分化を強めれば、モールテナントも立地局面に対応したクラス分化が進む事になる。アパーポピュラー級の量販業態やファミリー向けのコモディティ業態はCSCに特化していき、一部はCuC核SCにまで展開して多店化を狙うだろう(開発数から見た成長性は高い)。広域型のSCでは客層が団塊世代まで広がり、中間世代や団塊世代を狙ったアパーモデレート〜ボリュームベター級業態が新たに台頭していく。
 アパーモデレート級では団塊Jr〜中間世代向けカップル型ファッション業態が最有望で、ミッシーミセス向けライフスタイル業態がこれに続く。ライフスタイル業態と言っても中核は衣料・服飾品であり、HBC関連やテーブルウェア、ホームファブリック、一部のグロサリーなどが加わる。
 アパーモデレート級では商品/店舗環境/接客ともクラス感が重要で、ある程度はコストをかけて付加価値を訴求する姿勢が問われる。このクラスがモールに出揃って来るとロワーモデレート級以下の品質感は見劣りが著しく、購買局面が分かれる事になろう。低価格のバラエティ雑貨業態や低品質な生活雑貨業態は短命で、シングルライナーもファクトリーダイレクトな品質感を訴求する顧客型を除き、短命に終わる可能性が高い。

外資SPAは脅威となるか

 90年代のGAPやZARA以降、一服していた外資SPAの上陸が再び活発化している。今秋にはBananaRepublicがプランタン銀座(9月1日)/六本木ヒルズ(9月3日)等、9月中に4店を開設する。来年にはAbercrombie&Fitch、07年春にはAmericanEagleOutfittersも上陸する他、AmericanApparelは既に単独資本で日本法人を設立しており、9月には直営店を出店する。消費回復と活発な商業施設開発を好機と見ての進出ラッシュで、H&Mなども進出準備を進めていると見られる。
 BananaRepublic、Abercrombie&Fitchともアパーモデレート級のコンセプチュアルなSPA業態でカジュアルラグジュアリーを訴求しており、日本でもターミナル立地や郊外RSCに展開出来るインパクトがある。
 Abercrombie&Fitchはスタイル提案や面仕上げはもちろん、店舗環境やプロモーションからスタッフのキャスティング/アクションまでブランディングが徹底されているが、WASPなアウトドアライフスタイルが原点でグラマラス感覚は弱く、キレイ目モードシフトに転じた日本市場でのアドバンテージは低下せざるを得ない。Abercrombie&Fitchはややタイミングを逸した感があるが、セレブカジュアルな上級業態であるRUHELやサーフカジュアルのHollister&Co. にはまだ新鮮なインパクトがあるし、田代氏のラグジュアリーブランド的マーケティング手腕も期待出来る。
 BananaRepublicのスタイルや面には百貨店ミッシーブランド的凡庸さが付きまとうが、最初から日本仕様のパターンと面仕上げを用意する姿勢は評価出来る。凡庸さが米国のオリジナルから改善されれば成功が望めるが、日本市場対応の手直しだけでは限界があろう。AmericanEagleOutfittersはロワーモデレート級の市場対応型カジュアルSPAで国内のカジュアルSPAと大差なく、進出が成功するとは考えられない。
 ブランディング力はともかく、いずれも日本のカジュアルSPAのような機動MD体制を欠いており、上陸のインパクトが薄れて多店化段階の実力戦になれば販売効率が低下するのは目に見えている。新鮮なインパクトがあるうちはゾーニングの目玉として有利な店舗開発も出来ようが、その段階を過ぎれば先行するTommyHilfigerなどと同列に実力が問われる事になろう。
 真に脅威となるのはインソーシング短サイクル生産・物流体制を武器とするINDITEX(ZARAなどを展開)で、臨界ロットに達すれば一気に出店攻勢をかけて来るのは間違いない。国内店舗数が14店とその段階に近付いており、脅威は現実のものになろうとしている。INDITEXが臨界に達すればH&Mも全力で上陸してくるから、モードカジュアル市場は国際価格へのバリュー革新を迫られる。これまで店舗投資を優先して来た大手SPA企業も生産プロセス(特にキーデバイス工程)やロジスティクスへの投資を重視せざるを得なくなる。

ターミナル回帰は限定的

 今春商戦以降、主要ターミナルSCの伸び率は主要郊外SCの伸び率を上回り続けている。SC協会統計でも大都市都心立地SCの伸び率は郊外立地SCの伸び率を上回っており、新規SCの開設ラッシュで競争が過熱する郊外SCに較べてターミナルSCの好調さが目立つ。とは言え地方都市ターミナル/ダウンタウンの衰退は深刻で、郊外SCの開発が抑制されたとしても復活はありえない。札幌/仙台/名古屋/博多ではターミナルと郊外の二極化が進行しており、ダウンタウンの将来に影を落としている。新幹線延長によるターミナル活性化も一部都市に限られたもので、ターミナル回帰は首都圏/京阪神圏中心部だけの傾向と見るべきだ。
 都心ターミナルでも好調施設はルミネ系などOLシフトのリモデルを継続している駅ビルに限られており、OLまで客層を広げた109を除けばカジュアル系ファッションビルに復調は見られない。百貨店のOL対応が停滞して駅ビルへの流出が続いている事が背景で、クラス感やキレイ目トレンドを訴求するOL業態には有望立地となっているが多店化には限界がある。新規開発にあたっては、百貨店にも展開出来るブランドSPA体制、あるいはローカルの駅ビルにも対応出来る手頃感あるMD展開が必要で、どちらもジュエリーを含んだファビュラスな服飾雑貨がキーになると思われる。

余剰から不足へ

 長らく続いたデフレ局面では原料・部品も労働力も過剰感が強かったが、既にインフレに転じた現在では一部を除いてどちらも逼迫傾向を強めつつある。にもかかわらず多くの流通業はデフレ局面当時のコストカッター政策を引き摺っており、労働力不足と質の低下が目立つ。パート雇用のコスト急増と高質労働力の逼迫に直面して産業界は正社員増強に転じているが、この段階においてもパート比率を高める流通業が少なくない。ファッションビジネスでも企画系専門職の逼迫とコスト上昇が顕著で、コスト抑制を維持する会社では顕著な質の低下が見られる。生産面でも特定素材や染色整理工程で逼迫が見られるなど、状況は一変しつつある。
 労働力を筆頭にコスト上昇と供給不足が進行して行く今後、ファッションビジネスの経営はコスト抑制から適人適品確保優先にシフトせざるを得ない。戦略分野の拡張を急ぐなら、組織や人材、開発・調達体制を入手する目的でのM&Aも積極的に行使されるべきであろう。開発・調達のキープロセスにおいては、アウトソーシングからインソーシングへの転換も重要課題となるのではないか。

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