小島健輔の最新論文

販売革新2009年11月号掲載
上陸1年ファストファッション総括
『ファストSPAの覇者は誰か』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 昨年9月13日にH&Mが銀座に上陸してブームに火が付き、昨11月8日のH&M原宿店、今4月29日のフォーエバー21原宿店の開店で爆発的なブームとなったファストファッション。グローバルSPAの覇権を賭けた‘速い安いトレンディ’のファスト合戦の優劣はどうなっているのだろうか。

天文学的パワーを発揮したファストSPA

 H&Mは本国の決算発表から日本での売上が解るが、09年度上半期(08年12月〜09年5月)の売上は銀座/原宿のわずか2店で何と年間算で119.6億円!1店舗当たり約60億円も売り上げる勢いだ。銀座店(1000平米)と原宿店(1500平米)が同効率と仮定すれば、原宿店の売上は年間71.76億円(月坪131.6万円)ペースと推計される。フォーエバー21が開店して喰われたのか6〜8月期は7掛け強のペースに減速しているが、それでも年間60億円近くは売ると見られる。
 フォーエバー21は未上場の私企業なので決算は公開されていないが、関係者の情報を総合すれば原宿店(1750平米)の売上は年間100億円近いペースと推計される。1750平米の大型店とは言えたった1店舗で上陸初年度に100億円近くを稼ぎ出すなど、マーケットに与えたインパクトの大きさは桁違いと言うしかない。‘速い安いトレンディ’のインパクトは天文学的パワーを発揮した事になる。
 今秋のトレンドの拡がりを見ても、国内ブランドの多くが立ち上げが遅れて前年踏襲を大きく出られずインパクトを欠いているのに対し、H&Mは抜きん出た早い立ち上げで‘グラム’‘ロック’‘バロック’など新鮮なトレンドを連打してマーケットをリードし、109系ブランドがそれを後追いしていた感さえある。フォーエバー21は端境単品を深追いして秋立ち上げが出遅れたとは言え、‘フェティッシュ’‘キュートクラシック’などのお手軽単品と雑貨で追い上げている。両者とも価格とスピードのインパクト、パワーとスケールの桁が違い、国内勢はまったく歯が立たない情況だ。

安い速いが勝ち

 グローバルSPA各社の直近業績を見ると‘安いが勝ち’という情況が看て取れる。一番高価なインディテックス社(主力は「ZARA」)の09年上期は6.6%の増収で既存店は2%の減収に留まって10.1%の減益に終わり、H&M社の09年上期は大量出店によって20.5%の増収ながら既存店は3%の減少で0.9%の微増益に留まり、第3四半期(6〜8月)は12.8%の増収で既存店は6%減とさらに減速。これに対してフォーエバー21社の09年1月期は33.5%の増収で、今期は35%以上の増収が確実視されている。
 日本での展開を見ても、“ZARA”が11年かけて47店舗を布陣しても年商300億円にも届かないのに対し、H&Mは進出わずか1年で年商120億円(銀座、原宿)近くを確保して来期は矢継ぎ早の出店で年商400億円超ペースに乗せると見られるし、フォーエバー21はたった1店舗で年商100億円近くを稼ぎ出す勢いだ。米国での経緯を見ても、インディテックス社が進出20年を経た09年1月期末で41店に留まるのに対し、00年に進出したH&M社は既に170店舗を超えている。この大差はファストファッションの必勝条件は‘絶対的な安さと鮮度(スピード)’である事を如実に示している。
 価格と鮮度でリードしているH&Mとて原宿では一段安いフォーエバー21に喰われているのが実情で、日本市場の加速度的な低価格化を見て価格を下方修正すると発表している。品質や完成度を犠牲にしても‘安い速い’トレード・オフに徹した者が勝者となり、品質や完成度にこだわって価格や鮮度が中途半端になる者は競争から落伍して行く、そんな構図が強まっている。

退化する消費

 ファストファッションがここまで爆発的なブームとなった背景をどう見るべきか。ファッションに限らず、最近はユニクロやしまむら、ニトリなど低価格ビジネスが人気を集めているが、その背景は消費の‘ボリュームゾーン’化にあると考えられる。‘ボリュームゾーン’とは経済産業省が言うところの成長途上国における中産階級の急速な形成がもたらす大衆消費市場であり、先進国で求められる過剰な機能や付加価値を乗せた高価格品ではなく、それらを削ぎ落としたシンプルな低価格商品が求められているというものだ。
 ファストファッションはトレンドデザインに特化して(品質と開発期間を圧縮して)低価格と鮮度を実現したものだし、ユニクロやニトリの商品は品質と機能に特化して余分な付加価値を削いだもので、どちらも典型的な‘ボリュームゾーン’商品と言えよう。このような‘ボリュームゾーン’商品が急速に市場を拡大しているのは、経済の衰退と下層社会の拡大、デジタルな感性圧縮によってエコ低温体質(少ない消費と付加価値で生きて行ける)に退化したデジタル世代がメジャー化し、消費の付加価値が削げ落ちて市場が途上国化しつつあるからではないか。
 デジタル世代とはおおむねアンダー37才のデジタルに圧縮された音楽や映像、ファストフードで育った若年層で、CDやアイポッドで音楽を聞き、デジカメやケータイの写メで映像を見る、味わい豊かなアナログ文明を体験せずに育った感性圧縮世代と定義される。ケータイで手軽にファッション商品を買えるのもデジタルに感性圧縮されたゆえと見れば納得が行く。
 シンプルな低価格商品が日本国内でも求められる傾向は無印良品が一世を風靡した頃からあったが、これからは自動車も家電もファッションも急速に‘ボリュームゾーン’化して途上国と同質化していくと見るべきだ。マーケットがグローバル化し先進国と途上国の生活水準が平準化して行く中、日本だけが突出した先進国で高機能高付加価値な商品が求められていると考えるのは相当に無理があるのではないか。

ODM調達こそファストMDの突破口だ

 もはやファストファッションは一過性のブームではなく、途上国的に退化して行く日本市場で急速に拡大していく衣料消費の本流と見るしかない。衣料関係者はマーケットの退化を直視して過剰な付加価値を削ぎ落としたトレード・オフに徹し、‘ボリュームゾーン’商品とファスト業態の開発に総力を投ずるべきであろう。それは途上国を含めてグローバルに通用するものだから海外進出の武器ともなり、急成長していくネット市場にもマッチしてマルチチャネル展開の武器ともなるに違いない。
 世界のSPA市場では既に旧世代化した開発射程の長い自社開発ベーシックSPA(ギャップやユニクロが相当)の幻想を一刻も早く脱し、品質や完成度に囚われない割り切ったトレード・オフによる開発射程の短いファストMDの実現を急ぐべきなのだ。自社開発やOEMでは価格もともかくスピードが追い付かない。AMS(アパレル企画開発提案型受託生産業者)活用のODM調達こそ、その突破口となるのではないか。
 リーマンショック以降の消費冷却下も好調を続けているポイントはODM調達に徹しているし、外資SPAを迎撃すべく好調に立ち上がったバロックジャパンの「アズール・バイ・マウジー」もフリーズインターナショナルの「フリーズマート」も主軸はODM調達だ。‘安い速いトレンディ’なファストMDはODM調達が実現すると胆に命ずるべきであろう。

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