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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『下方修正に見る「ZOZOの挫折」』 (2019年02月06日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ZOZOSUITとPBの空振りに加えてZOZOARIGATOの強行による出店アパレルの離反が広がるZOZOだが、強気も限界で19年3月期業績見通しの大幅下方修正に追い込まれた。

大幅下方修正の暗転劇

 ZOZOは1月31日、19年3月期業績見通しを大幅下方修正し、併せてPB開発などの軌道修正も発表したが、状況の悪化を認めながらも、なお強気の姿勢も崩しておらず、抜本転換の決断にはまだ至っていない。

 19年3月期業績見通しの商品取扱高を3600億円から3270億円と9.2%、売上高を1470億円から1180億円と19.7%、営業利益を400億円から265億円と33.8%、純利益を280億円から178億円と36.4%、それぞれ下方修正。商品取扱高は前期比33.0%増から20.9%増へ、売上高は同49.3%増から19.9%増へ、営業利益は同22.4%増から18.9%減へという大幅なもので、商品取扱高と売上高は伸びに急ブレーキがかかり、利益は増益から減益へと暗転した。誰が見てもワーテルローかミッドウェイかという暗転劇だが、31日の下方修正発表はまだ大本営発表的強気が垣間見えた。

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 下方修正に至った要因は、1)今期200億円を目論んでいたPB事業が第3四半期末時点で22億6000万円と11%強の進捗に留まって125億円の赤字を計上していること2)2代目ZOZOSUITも期待通りに機能せず売上拡大につながらなかったことの2点で、計画営業利益との135億円の乖離では収まらないと思われる。それを埋めるべく新規出店アパレルの手数料率をかさ上げ、拡販を焦ってZOZOARIGATOのような強硬策に走ったとすれば、墓穴を掘ったとの指摘を免れない。

ZOZO離れは広がるのか?

 昨年12月25日から強行したZOZOARIGATOによるブランドアパレルのZOZO離れは、今回の下方修正段階ではオンワードやミキハウスなどZOZO依存度が低く、百貨店売上比率の高い企業に限られており、前澤社長も『全商品の販売を見送ったのは1月31日時点で全1255ショップ中42ショップ、商品取扱高の1.1%に過ぎず影響は軽微』と発言している。

 会員制常時値引き販売のZOZOARIGATOは昨年末から唐突に始められたものでテナントアパレルとの事前調整もほとんどなく、強行したら何が起こるかきちんと検証された気配がない。ブランド価値にこだわったり、百貨店売上比率が高いアパレルの離反は想像がついたはずだが、社内で懸念する声が出なかったか(トップの思い込みに盾突く幹部や外部識者は排除されるのが一般的)、常時値引き販売による拡販効果に目がくらんだかのどちらかだろう。

 現段階ではまだ判断を迷っているアパレルも多く、大手アパレルでは世間で騒がれてようやく役員会の議題に上った段階(オンワードは明確な戦略行動に転じており、例外的に即断できた)だが、1)『百貨店売上げの比率が高い』、2)『EC売上げのZOZO依存度が低い』、3)『ZOZO出店が後手で手数料率が高い』、4)『自社運営ECが軌道に乗ってコストが下がりZOZOの手数料率を下回る』、という4条件のうち2つ以上がそろう、あるいは先でそろうようになったアパレルは必ずZOZOから離脱すると見るべきだ。

 とはいえ、そんなアパレルはまだ少数だから表立っては1月31日時点の42ショップが倍まで広がるかどうかだが、ライトオンのようにZOZO依存度が高く、1要件しかそろわないでも撤退するケース、ベイクルーズのように他で定価販売している商品は非表示にするなど実質的な対抗措置は水面下で広がっているから、ジリジリとダメージが広がるのは否めない。撤退で抜けた分を新規の低価格ブランドや服飾ブランドで埋めていけば手数料率も高まるから当面は離脱によって業績が底割れするとは考え難いが、自社ECとC&Cに注力してZOZOから離れるアパレルは確実に増えていくのではないか。

軌道修正は本気なのか?

 下方修正を発表したアナリスト向けの説明会では『非常に情けなく思うと同時に、大変申し訳なく思います』『125億円は高い勉強代になってしまった』と謝罪し、『新しい体形予測エンジンを今期末に実装する』『カジュアルアイテムについてはZOZOSUITによる計測なく購入できるようにする』『PB事業については他企業との協業も視野に低リスク中リターンによる収支均衡を図る』と軌道修正も発表したが、ZOZOARIGATOについては『9割のショップが賛同してくれている』と撤回の気配はなかった。

 ZOZOARIGATOの実施で商品取扱高の伸びは第3四半期までの19.3%から約26%と6%強しか加速しておらず、値引き分のZOZO負担による経費の肥大(結局は新規テナントの手数料率引き上げにつながる)に加え、有力アパレルの離反を招く弊害の大きさに見合うとは到底思えないが、撤回の検討さえ匂わせなかった。PB事業にしても他企業と協業してリスクを抑え、継続するわけで、今後も投資が分散してプラットフォーム事業への集中が削がれ(ライバルにつけ込む隙を与える)、圧縮されるとはいえ、赤字を垂れ流すことには変わりない。ZOZOSUITは見切るにしても新たな体形予測エンジンに替えるだけでバーチャル志向は変わらず、TBPP(お試し受け取り所)など実効性の確かなリアルサービスには目が向いていない。

 この3点を注視するなら軌道修正の本気度は極めて疑わしく、早期の業績改善は難しいと見るしかない。これまでの方向をテクニカルに軌道修正するだけで、大きな損失を招き、ライバルに付け入る隙を晒した誤てる戦略を抜本転換する意思はないと受け止めるべきだろう。

暴走を抑えるガバナンスが必要!

 ファッションECのプラットフォーマーとして寡占的地位を確立し18年7月には時価総額も1兆2000億円に迫った急成長企業が、わずか半年で失速し株価が6割も暴落してしまった根本要因は、創業経営者の暴走を止められなかったことに尽きる。

 創業経営者の独創性があったからこそ、ここまで急成長したのも事実だが、東証一部に上場し多くの取引先や株主などステークホルダーが広がるに至っては公正適切なガバナンスが問われざるを得ない。創業者の独創が暴走にならぬようアイデアを客観的に検証して作用と反作用を見極め、投資と収益を予測し、取引先や現場の意見も聞いて取締役会で決めるという当然のガバナンスが必要になるが、ZOZOSUITではまった『リープフロッグの罠』やZOZOARIGATOが招いたテナントアパレルの離反を見れば適切なプロセスを経て決定されたのか疑問が残る。

 どのような企業でも経営トップの意向に逆らって諫言するリスクは極めて大きいし、そのために招かれたはずの社外取締役も疎まれるリスクをあえて冒すのはよほどのケースに限られる。

 ZOZOSUIT への投資やPB開発、ZOZOARIGATOの実施が取締役会議決事項だったのか知る由もないが、ZOZOの役員リストを見る限り前澤氏に諫言できるような社外取締役(そもそも1人しかいない)は見当たらない。前澤氏が業績の失速を招いた自らの失策を本当に反省するなら、まずは社外取締役の陣容をそろえて自らを監督するガバナンスを確立するのが第一歩ではないか。

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