小島健輔の最新論文

販売革新2007年2月号掲載
『テナントから見た望ましいデベロッパー像』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 「まちづくり三法」改正を控えて大型SC開発が急増し競争環境が厳しくなる中、デベロッパーのテナントサポート体制が問われている。当社が毎年10月に行っているSPACメンバー(テナントチェーン中心に86社加盟)によるデベロッパー評価アンケートでも、開発力/構成力/リーシング力とならんでオープン後のテナントサポート力(プロパティマネジメント項目)が問われており、経験豊かな有力デベロッパーと他社では評価に大きな差が見られる。

テナントがデベに期待する4項目

 1)好ましい客流を創る構成力/リーシング力
 テナントがデベロッパーに期待するのは第一義的にはテナント構成であり、周辺の構成が自店の客層と関連するよう配慮される事を求めている。もっとも恐れるのはテナント入れ替えによって客流が不利になる事で、デベロッパーには配慮する義務があると考えられている。
 デベから見ればSC全体の構成問題であり、より良い実現にはリーシング力も大いに関係する。構成力/リーシング力の弱いデベでは開設時の構成から崩れていくリスクがあるが、強いデベでは逆に時間とともに改善されていく。定期借家契約が定着した今日では現実的な課題であり、テナントにとってはデベの選択問題でもある。SCの選択は個別施設の適否はもちろんだが、デベの実績を評価して選択する事が重要と思われる(評価ランキングを参考されたい)。

 2)販売スタッフ不足問題サポート力
 近頃はSCの長時間営業に若年労働力逼迫が重なって販売スタッフ不足が深刻化しており、スタッフ不足から出店を断念したり慢性的スタッフ不足店舗を撤収したりというケースも少なからず見られる。デベロッパーのサポートが今、もっとも期待されている分野と言って良いだろう。
 具体的にはデベによる共同募集活動、販売員派遣業者や販売代行業者の紹介が主流だが、最寄り駅から離れた郊外SCなどでは通勤バスの運営なども求められている。共同募集は効率的だが需給のギャップは大きく、販売スタッフ不足解消にはほど遠い。派遣業者の活用はコストが高く、販売代行業者の活用は運営に限界があり、どちらも長期的な選択とは言い難い。結局はテナント自身が雇用の体制と条件を整えて需給ギャップを埋めるしかないのだが、営業時間の長さや通勤の不便が壁となっている。
 販売スタッフ不足は一段と深刻化しており、デベのサポートがあっても需給ギャップは埋まりそうもない。販売スタッフ不足問題を根本的に解決するには営業時間の短縮が避けられず、それが出来るか否かがデベの良否を分ける踏み絵にさえなりつつある。

 3)情報提供力
 テナントは自店/自社の販売動向は掌握しているがSC固有の周辺情報は少なく、デベロッパーによる情報提供を希求している。周辺の競合環境/アクセス環境の変化、地域催事/SCイベントや天候の前年との相違、SC内の好調店/不振店の共通傾向、カテゴリー/客層別の売れ筋など、知りたい事は山ほどある。それをきちんと整理した週報/月報などにして提供してくれるデベもあれば、わざわざ聞きに行かないと教えてくれないデベもあるし、中にはほとんど調べていないデベさえある。テナントにしてみればどちらが心強いか考えるまでもあるまい。
 一般に多数のSCを運営している大手ほど体制が整っており、業務手順やレポートの形式も統一され品質が安定している。とは言え、量販店系に見られるように多数のSCを運営していても月報さえ出さず何もかも秘密主義というケースもあるから、業界情報などで実情を知っておいたほうがよい。

 4)品揃えと陳列演出の指導力
 情報があっても個別テナントで事情は異なるから、個々に対する指導力が期待される事もある。品揃えや重点アイテムの訴求、在庫編集や陳列演出などの具体的指導がそうだが、「事もある」と言ったのはチェーン本部とデベで指導が交錯するのを迷惑と感じるケースもあるからだ。
 これらの指導を行うには小売オペレーション(店舗運営やディストリビューション)に精通していて、かつ最新の販売動向を掌握している必要があるが、実務経験者でない限り適確な指導は難しい。デベの方針は、有力百貨店のように実務者による強力な指導を行うところ、大手駅ビルなどで見られるように消費者視点からの要望に徹するところ、陳列規制などのルール管理に留めるところ、に三分されている。
 適確な指導を行えば売上や消化率の向上が望めるが、デベ側がテナント個々の商品展開予定を掌握している訳ではないから結局は対症療法に終わりがち。本当に効果を狙うなら本部と定期的に折衝して商品展開から対応を組み、そのSC固有の販売展開を仕掛けるべきであろう。コート商戦とか期末バーゲンの在庫集積などでは相応の効果が期待できるが、そこまでは一部の百貨店しか踏み込めておらず、SCデベでは極めて例外的だ。
 逆に有り難迷惑な介入も指摘しておかないといけない。「クリスマスだから全店、赤を打ち出せ」とか「バーゲン期間を統一せよ」といった指導はテナント個々のブランディングや商品政策/営業政策に介入し過ぎており、個々の活力を妨げかねない。デベロッパーが何処まで踏み込むか、テナントの活力を最大限に引き出すという視点で線引きされるべきであろう。

問われる対テナント姿勢

 デベロッパーにこれらの技量や体制があっても、テナントにとって必ずしも好ましい訳ではない。それらはデベの武器であり、テナントにとっては両刃の剣という性格があるからだ。
 最適な構成を組む上で不適と考えれば定期借家契約をたてに退店を迫るかも知れないし、販売スタッフ不足を解消出来ないテナントは見限るかも知れない。情報を開示するという事は売れていないテナントの実情を曝す事になるし、販売不振のテナントには徹底した指導を行って本部の無能ぶりを白日の下に曝してしまうかも知れない。
 武器は使いようであり、テナントを暖かくサポートしようというスタンスとすべては適者生存というスタンスでは同じ武器を使っても行動は異なる。東神開発や三井不動産にはテナントに対する固有の信念があり、永年の積み上げが相互の信頼感を醸成している。技量や体制だけでなく、デベの信念と実績を見る事も大切なのではないか。

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