小島健輔の最新論文

ファッション販売2013年1月号掲載
特集“2013年はこう変る”
『ネットショッピング時代のファッション販売』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 スマホの急激な普及やウェブモールの急成長でネットショッピングが日常的な購買慣習として定着し、ネットでファッション商品を買う事に抵抗の無い世代が広がった今日、ファッション商品はネットショッピング最大のカテゴリーへと成長。今や衣料品・身の回り品は物品通販の三分の一を占め、ネットの物品販売でも12%を占めて5000億円規模になり、EC化率は4.2%になったと推計される。
 家電などのコモディティ分野ではショールーミングが店舗小売業を脅かしているが、ファッション分野ではショッピングサイトがプロモーション効果を発揮して店舗へ顧客を誘導するというO2O効果の方が際立っており、ネット販売の急成長が店舗販売を浸食しているという兆候は未だ見られない。とは言ってもネット販売の急速なメジャー化は店舗販売にも様々な影響を及ぼしており、店舗小売業は新たな対応を迫られている。ネットショッピング時代にアパレル店舗小売業はどう対応すべきか、以下の5点にまとめてみた。
 1)ショールーミングは脅威とならない
 家電などでは店頭で商品を吟味選択した後、スマホでバーコードをスキャンしてネットの最低価格を検索しネット小売業で買ってしまうという「ショールーミング」が店舗小売業を脅かしているが、衣料品や身の回り品は直営店や消化仕入れインショップによる直販が主流で同一商品の小売価格を競うという流通環境にはなく、ショールーミングは脅威とはならない。とは言え、セレクトショップなどで扱われる代理店を通さない直買い付け/並行輸入ファクトリーブランドなどはショールーミングの対象となるかも知れない。
 2)O2O効果が売上を左右する
 ショッピングサイトでのブランドや商品の訴求が呼び水となって店舗へ顧客を誘引するO2O(Online to Offline)は目に見える増収効果があり、ネット販売比率の高いブランド/ストアほど店舗売上も伸びるという現象が注目される。EC化率が20%を超える状況ともなればカニバリも生じると思われるが、10%前後の段階ではO2O効果の方が大きいようだ。
 O2Oを積極的に仕組むには、該当商品の取り扱い店舗や在庫を明示してアクセスを解り易く表示するのはもちろん、店舗で使えるクーポンを発行したり、ネットで買った商品のサイズ直しや返品/交換を店舗で受け付けるようにするのが定石だ。逆O2Oには店舗でショッピングサイトの紹介カードを配ったり、ショッピングサイトで使えるクーポンを発行するなどが行われている。
 O2Oに期待するなら店舗以上にブランドイメージに徹したサイトデザインが不可欠で、エントランスが重すぎたりページ構成が解り難かったり、継ぎ接ぎな単品訴求に流れたりしないよう、店舗同様なイメージ訴求と買い易さが求められる。ショッピングサイトも店舗もVMDの大切さは変わりないのだ。
 3)ショッピングサイトとARハイブリッドする
 O2Oをもっと進めたのがショッピングサイトのビジュアル訴求を実店舗に導入するARハイブリッドだ。ICタグを導入すればジャストな接客タイミング(姿見の前に立つとセンサーがタグと交信してARが起動する)でショッピングサイトのビジュアルを起動でき、デジタルサイネージのAR画面で下手な販売員より格段に適確なプレゼンテーションが行える。そこまで出来なくても、ショッピングサイトで使っている商品説明コピーやルック写真を大きくPOP表示すれば近似した効果が得られる。ICタグを導入すれば棚卸しや在庫検索、レジ業務も格段に軽減されるから、販売員を接客に集中させる効果も期待される。
 旧「大店法」に替わって00年6月1日に施行された「大規模小売店鋪立地法」で営業時間が自由化されて以降、商業施設の営業時間が延長されて店舗要員の二交代営業が必然となり、販売員が慢性的に不足するようになって接客・陳列の劣化が著しいが、ICタグとARハイブリッドを活用すれば熟練販売員を接客に集中出来、非熟練販売員を削減して劣化に歯止めを掛けられるのではないか。
 4)販売管理費もハイブリッドする
 ショッピングサイトとのハイブリッドはコスト面でも効果が絶大だ。受注や物流のフルフィルメントだけで店舗の不動産費や運営人件費が発生しないネット販売は店舗販売より格段に低コストで、同一ブランドで14ポイント前後も経費率が低い。ゆえに、ネット販売比率を高めれば全社の経費率も確実に低減出来る事になる。
 ちなみに米国ギャップ社はEC化率が10.7%に達して15.6億ドル(1245億円)をネットで売り上げているが、オンライン事業部の営業利益率は22.0%と店舗事業部の8.4%より13.6ポイントも高い(12年1月期)。それだけ経費率が低いという事なのだ。ネット販売で先行するブランドではEC化率が10%を超えるケースも少なくないが、経費率のハイブリッド効果を狙うなら20%を目標とすべきであろう。
 5)店舗MDもハイブリッドする
 最近のコレクションシーンでは世界的な景気後退下にも拘らず柄×柄コーディネイトやカラフルな色使いが広がっているが、これもネット世界からのハイブリッド現象だと推察される。ショッピングサイトでは店舗と違って視覚効果の高い柄物・色物から売れて行く傾向が強いが、ネット販売の世界的な拡大がコレクションシーンからストリートまで柄や色の氾濫を招いたのではないか。また、ショッピングサイトでは販売動向を予測するためもあって先行受注が盛んだが、それが店頭展開も前倒すという波及効果が一部に見られる。12年10月の獣毛混パステル〜ライトカラーアイテム(梅春物)の前倒し投入も、その一例と思われる。
 店頭MDは実需の後ズレと売れ筋の深追いで鮮度を失いがちだが、ネット販売から波及した柄物や色物を拡充し、ショッピングサイトの先物受注を店頭にも波及させれば、視覚効果と鮮度効果で店頭にも活気が蘇ると期待される。店舗MDにもショッピングサイトとのハイブリッドが求められているのだ。

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