小島健輔の最新論文

販売革新2010年2月号掲載
特集GMS衣料品再生の技術論
『顧客を見据えて現実的な調達体制を確立せよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 GMSの衣料部門は百貨店よりましとは言え11月で48ヶ月連続して前年を割り続けており、各社が低価格訴求を強化しても単価ダウンに呑み込まれて回復の兆しさえ見られない。ほとんどの企業でアウタ−衣料は営業損失に陥っており、肌着がかろうじて利益を出しているというのが実態だ。販売効率の低下を在庫の圧縮でバランスして縮小均衡を続けるのももはや限界で、GMS衣料部門は抜本的な改革を迫られている。その技術的突破口として、調達手法の革新を提じてみよう。

硬直化した調達背景

  百貨店=百貨店アパレルと同様、GMS衣料部門=量販アパレルという図式が出来上がっていて調達手法の選択肢が狭く、商品のバラエティも調達のスピードも一定の枠内に限られていた。その壁を破るべくGMSは商社OEMや自社開発のPBに注力し、量販アパレルも売り買いの枠を超えてOEM、さらには企画提案のODMへと踏み込んでいるが、両者とも商品開発力と開発のスピードという点では従来の枠を大きくは超えられないでいる。
 商品開発力という面では、これまでも様々な企画会社やライセンサーと取り組んで来たはずだが、ブランド名やコンセプト、デザインが上滑りして顧客が求める機能性や着心地、旬のディティールや加工感などまでは踏み込めず、突破口となるような成功事例は極めて限られる。コンセプトやデザインもともかく、着心地や風合いといった生産仕様に直結する開発力が問われているのではないか。開発のスピードという面では、商社OEMや自社開発ではまったく詰められず、量販アパレルのODMでも専門店系SPAのようなスピードには程遠いのが実情であろう。
 この両面の壁を超える調達手法を見い出さない限り、GMS衣料部門は魅力もスピードも入手出来ない。古典的な自社開発を実直に積み上げるユニクロをベンチマークしても、もはや開発体制もロットも桁が違うし、GMS顧客が求める仕様やスピード感とも掛け離れている。ユニクロとは異なる様々な専門店系SPAの調達手法に目を開くべきではないのか。

調達手法の原理原則

 プロの方々に基本を語るのは面映いが、最適な調達手法を検討するには原理原則を整理した方がよいだろう。商品調達の手法はバイイングとオリジナル開発に大別されるが、バイイングでも消化仕入れ/VMI/展示会仕入れ/仕掛り現物仕入れ/現物仕入れ、オリジナル開発では調達業務の軽い順にメーカー別注/ODM/OEM/自社開発/自社生産、と別れる。
 バイイングでもブランドのインショップは消化仕入れ、パッケージ商品の補給はVMI、キャラを立てる商品は展示会仕入れ、シーズンイン後の実需に対応するのは仕掛り現物仕入れや現物仕入れ、と使い分けるものだ。オリジナル開発ではOEMとODMの線引きは微妙だが、OEMは企画と仕様を発注側が開発して生産を委託するもの、ODMはメーカー側の企画と仕様を製品買いするもの、と定義すべきだ。
 アパレル業界に限らずエレクトロニクス業界でもOEMよりODMが主流となりつつあり、コンポーネンツ製品では企画開発機能を持った受託生産業者(家電業界ならEMS/アパレル業界ならAMS)を活用するのがコスト面でもスピード面でも合理的と考えられるようになった。それがブランドメーカーのファブレス化(ソニーが好例)をもたらして開発力を低下させ、垂直統合型ブランドメーカー(シャープやサムスン電子)との収益力格差を招いた事は否めない。
 値入れやコスト圧縮を狙えばメーカー別注よりODM、ODMよりOEM、OEMより自社開発となるが、掛かる手間は値入れとスライドして重くなって行くし、調達期間も長くなってスピードが遅くなる。鮮度とスピードを狙うならODMだが、味の濃さではメーカー別注に適わない。結果論だが、一番薄味になって値崩れしがちなのが流通素材や既存仕様を使った商社OEMだ。どの調達手法も一長一短だが、狙う目的を明確にすれば手法を絞れるし、複数の手法を目的別に使い分けるのも合理的だ。

GMS衣料部門の調達手法ミックス

 では、GMS衣料部門にとって現状を打破する最適な調達手法ミックスとはどのようなものであろうか。多店舗運営のチェーンストアである事を前提とすれば、インショップの消化仕入れと自動補充のVMIはともかく、バイイングは対象とならない。VMIについてはウォルマートのカテゴリーマネージャー手法に言及すべきだが、生産ライン直結の製販連動ディマンドチェーン論を展開すべき稿ではないので割愛し、オリジナル開発手法に限定しよう。
 GMS衣料部門はティーンズからマチュアまで多様な顧客に対応する大型店ゆえ、顧客の世代とテイストを詳細に捉えたマトリックスが基本となる。十人十色どころか一人十色と化した今日のマーケットではセグメント志向のマーケティングは非効率だから、マトリックス上の顧客クラスターを幾つも横断的にカバーするゴールデンアロー(黄金の矢)コンセプトを見い出して売場業態を設計し、それぞれのコンセプトに最適な提供方法と調達手法を組み上げていくべきと思われる。
 例えば、OL層からミッシーまでカバーするナチュラルレイヤード系(フェミニンミックスが不可欠)売場業態では、トレンド変化は少ないもののキーとなるレイヤードアイテムをタイムリーに追う事が重要だから、ナチュラルカジュアル系ODMベンダーのチームを固定して年間24サイクル以上のスピード感ある調達体制を組む。そうすればテイストが振れず実需をフォロー出来るから消化回転もスムースになる。
 プリントや意匠素材を好むミセス狙いの売場業態ではデザインや仕様もともかく素材背景が重要だから、コストはやや高くなってもテキスタイルコンバーター系ODM業者でチームを組む。それもブリントに強い業者/意匠素材に強い業者/意匠ニットに強い業者といった編成にし、素材開発から入って年間6サイクルぐらいの長射程な計画生産を行なうとともに、販売動向に応じて素材軸のQR生産も加えたい。
 団塊ジュニア層を中心とした幅広い顧客に低価格機能商品/ベーシックパーツを提供する売場業態では、標準仕様に流れる大手商社OEMを避けて素材背景を持った紡績系専門商社のODM部隊を編成し、生産仕様を詰められる年間6サイクルぐらいの長射程の計画生産を組む。その在庫リスクを極小化すべく、店別週サイクルの消化進行管理と価格戦略(キックオフ/マークダウンのタイミング)の仕掛けが不可欠な事は言うまでもない。
 これらは一例に過ぎないが、どのようなケースでも自社開発や商社系OEMは想定し難い。標準仕様に流れがちな商社系OEMではそれぞれの顧客の好みに適した着心地や味わいは望み難く同質化して値崩れしてしまうし、GMSが企画・開発スタッフを抱えて仕様を開発しても生産現場のインダストリアルスペックまでは詰め切れないからだ(恐らくコストも合わないし労務上も限界がある)。それは外部の企画会社を使っても同様で、素材背景と生産ライン直結の開発体制を持って味のある企画提案をしてくれるODM業者に優るものはない。小売業者の場合、自社開発とOEMのコスト差は1〜2ポイント、OEMとODMの差も2ポイント程度だから、開発スタッフの労務コストの方が大きくなってしまうのが落ちだ。
 ブランドメーカーのスタンスに立ってユニクロのような大ロットの開発を行なうなら自社開発がベストだが、GMSという上場小売業者が労務的限界を超えて開発からブランディングまで徹底するのは不可能に近い。ユニクロの成功は文字どおり「一勝九敗」のレアケースであり、別の方法を模索すべきと思われる。

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