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ブログ(アパログ2019年06月04日付)
『懲りない業界だよね』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 需要に倍する過剰供給と一方的な思い込みの需給ギャップで供給量の過半が売れ残る惨状が定着しているアパレル業界だが、幾度もデータを揃え原因を列記し具体的な突破口を提示してもギョーカイは鼻しらむだけで、サプライチェーンと販売消化プロセスを根本から改革しようという動きは限られる。あっても実験的なベンチャーか成果の疑わしいスタンドプレイばかりで、サプライチェーンのプラットフォーム総体を変える動きには程遠い。
 そんな中でも私の政策提言や実務革新を真摯に聞いてくれるSPACメンバーの経営指標は業界水準を一回り上回るが、業界全体の過剰供給が解消されない中では悪化している指標も少なくない。
 比較的健全なバランスを保っていた08年集計(07年を反映)からリーマンショックを経た09年集計は極端に落ち込み、14年調査までは回復基調にあったが、15年調査から年ごとに悪化して18年調査が大底となり、19年調査ではほぼ底ばいだった。
 アパレルの総供給点数は08年の26.37億点から18年には28.99億点とほぼ10%増えた一方、推定消費数量は13.71億点から13.61億点とほぼ横ばいで、推定消化率は52.0%から46.9%に底割れした。
 この間にSPACメンバー平均の歩留まり率(投入正価総額に対する実現売上の比率)は79.4%から73.3%に6.1ポイント低下し、値引きと残品のロス率は20.6%から26.7%へ同ポイント悪化した。セール後の期末に残る残品の比率は17年からしか聞いていないが、17年調査(16年を反映)の8.6%が19年調査では10.2%に1.6ポイント肥大している。アパレルメンバーとリテイラーメンバーでは格差があり、残品率はアパレルメンバーの方が3〜4ポイント高い。
 その要因として、1)ロスを見込んだ原価率の低さ、2)値引き処理の期末集中によるロス率の高さ、3)販売消化への在庫運用スキルの格差、が挙げられる。実際、オリジナル商品の原価率はアパレルメンバーの方が4.1ポイント低いが、ロス率は8.4ポイントも高く、結果としての粗利益率はリテイラーメンバーの方が4.3ポイント凌駕する。
 商品経営の指標となる交差比率も10年調査から19年調査にかけて7掛けに低下しているが、その要因のほとんどは商品回転の悪化(ほぼ7掛け)で、上場アパレルチェーン平均でも同様な傾向が見られる。
 これらの指標推移から、この間にアパレルビジネスは原価切り下げを優先して調達が硬直化(ロットとリードタイムが肥大)する一方、過剰供給と需給ギャップ、消化運用スキルの劣化で回転が急減速してロスと残品が肥大し、収益性は一段と落ち込んだと総括される。アパレルメンバーとリテーラーメンバーの指標格差、消化促進へのDBや売価変更、再編集陳列や二次展開店舗の活用など運用スキルの指標格差を検証すれば、ものづくりより消化運用スキルに注力すべきだったことは明白だ
 5月29日に東郷記念館で開催したSPAC月例会『ロス圧縮と最速消化へのMD&DB手法総研究』を聞かれた方は肝に命じられたのではないか。業界の幅広い方々がもっと真摯に耳を傾けてくれていれば、このギョーカイはここまで堕落しなかったのにと悔やまれる。

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