小島健輔の最新論文

ファッション販売2002年8月号
『ジュングループのセレクト戦略』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

時代に先んじたジュンのセレクトショップ開発

 セレクトショップブームに乗り遅れまいと、大手アパレルからカジュアルメーカーまで、次々と本流亜流のセレクト業態、あるいはセレクト風ブランドの開発に乗り出しているが、ジュングループのセレクトショップ開発は「ユナイテッドアローズ」第一号店開設に四ヶ月遡る90年3月に始まる本格派だ。
 88年に入社した現佐々木進社長が元々、「ビームス」や「シップス」の熱烈なファンだったこともあり、ジュングループの顧客にも必ずや受け入れられると開発したのが「アダムエロペ」。90年3月に白金店と渋谷店を開設し、佐々木進氏が自らバイヤーとなって欧米から買い付けていた。
その仕入れブランドの中から「A.P.C」が頭角を現し、93年には合弁会社のイーストバイウエストによる独立店舗展開に移行。現在9店舗、年商40.5億円に至っている。
 98年には、94年頃からフレンチカジュアルのキャラクターブランドとして展開していた「ギャミヌリー」と「プーラフリーム」を核にセレクトを加えた小売業態の「VIS」を開発。一部のターミナル店舗では「アダムエロペ」も複合して急速に多店化していった。
 翌99年8月のヴィーナスフォート開設にあたり、「ロペ」のカジュアルラインとしてリミックスMDブランドの「ロペ・ピクニック」を初出店。ブランドMDでありながら巧妙に設計されたリミックスと手頃な価格が評判を呼び、一気に店数が増えていった。

グループ売上の二割を超える陣容に発展

 十余年をかけて積み上げていったジュングループのセレクトビジネスは、今やセレクトショップの「アダムエロペ」(26店)、本格的ヴィンテージも加えた「パーンソーパー・アダムエロペ」(1店)等からなるセレクティブリテイルグループが約50億円、オリジナルブランド・ミックス+セレクトの「VIS」(26店)等からなるストアビジネスグループが約75億円に達っしている。
 2002年9月決算でのグループ売上は飲食サービスやゴルフクラブ等の非アパレルを除いて約695億円が見込まれているが(上方修正の可能性が大)、セレクトビジネスの売上はその18%、リミックスMDブランドの「ロペ・ピクニック」(21店)を加えれば22%近くになる。これら既存事業の拡大とファミリー向けセレクトSPAの「セトルフ・ドットコム」、セレクトスパイスブランドの「オプティチュード」等を加えていけば、セレクトビジネスの売上シェアが4分の1を超えるのは時間の問題だ。  グループ総体の戦略構想が明らかにされていないので先は論じられないが、恐らくは近い将来、セレクト関連ビジネスが売上の3分の1程度を占めるまで拡大していくのではないか。
 これに較べれば、「アクアガール」(13店)、「ドレステリア」(4店)、「スマートピンク」(5店)等、計25店に留まるワールド、「フリーズショップ」(19店)等、計22店に留まるサンエーインターナショナルのセレクトビジネス布陣は、一歩も二歩も後塵を拝していると言わざるを得ない。

ジュンのセレクトビジネス好調の要因

 セレクト業態開発で先行しているだけではなく、既存店の販売成績も堅調〜好調で、「VIS」等は二割以上も既存店売上を伸ばしている。その要因は、セレクト業態に共通するリミックスの妙や面のバラエティに加えて、ブランドメーカーゆえのしっかりとした物創りと上質な面の仕上がり感、それでいて手頃な価格を挙げねばなるまい。「ロペ・ビクニック」など、このセンスと面でこの価格は既成セレクトショップを脅かすものと言うしかない。事実、百貨店のインショップなどでは突出した販売効率を挙げている。  ブランドメーカーゆえの品質感はベイクルーズにも共通するものだが、ベイクルーズのそれにナチュラルなフレンチワーク感覚が通底しているのに対して、ジュングループのそれには綺麗目なマドモアゼル感覚が通底しており、汚な目のセレクト商品とはハレーションを起こしてしまうほどだ。 テイストや面は違えど永年、培ってきた物作りの背景が継承されている点でも両者は共通している。開発や生産関連の組織がビジネスモデル戦略等によって手酷い解体やアウトソーシングに直面しなかった事が幸いしているのであろう。ゆえに組織体質もベイクルーズ同様、手工業的体質を色濃く残している。そこには効率重視と固定費削減のアウトソーシング政策はなく、企画・開発から生産管理へと連動する内製思想がまだ生き残っている。それゆえに実現しているのが、両社それぞれに味のある物作りなのではなかろうか。  佐々木進新社長がどのような戦略思想、あるいは企業文化思想を持ってジュングループを率いていくのか、まだ全容は見えていないが、セレクトビジネスの開発や開発組織の継承といった現在までの動きを見る限り、効率至上のビジネスモデル経営に流される事なく、現場の技を活かして明日の可能性を開いていく企業文化と人間性優先のルネサンス型経営を志向していくものと期待される。 

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