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ブログ(アパログ2019年04月02日付)
『ユニクロの在庫回転が急失速?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 H&M(18年11月期)とインディテックス(19年1月期/ZARAが主力)の18年度決算業績を比較検証する過程で国内ユニクロの在庫回転と比較しようとしたら、とんでもないことに気がついた。たった一期で坪当り在庫が2.4倍に膨らみ、計算上の在庫回転が半分以下(44%)に急落していたからだ。事実とすれば急激な業績の悪化ということになるが、原因は在庫計上方法の変更であって業績の暗転という事実はない。
 在庫回転は売上原価を期首期末の平均在庫(当然に原価)で除したものだから、在庫の計上手法によって大きく振れる。新聞報道やネットのレポートなどでは売上売価を在庫原価で除しているケースがあるが、原価と売価が倍以上違うSPAなどでは在庫回転が倍以上に水増しされてしまうから論外だ。ちなみに、ユナイテッドアローズの18年3月期決算説明のデータブックでは在庫回転を6.1回としているが、これは売価/原価であって原価/原価なら2.94回になる。在庫回転の実態を現すのは後者であることは言うまでもない。
 国内ユニクロは17年8月期まで国内倉庫から出荷した時点で計上していたから店舗在庫だけになり在庫回転が高く見えていたが、18年8月期から海外から国内倉庫に到着した時点での計上に変更したため店舗在庫に国内倉庫在庫が加わって813億円も上積みされ、坪当り在庫が2.4倍にも膨らんで計算上の在庫回転は17年8月期の4.91回から18年8月期は2.17回に急落した。計上方法の変更は連結ベースだったが、棚卸資産の増加額1751億円から実質増加額828億円を差し引いた計上方法変更による増加額923億円は国内ユニクロの813億円と同GUの110億円の合計だから、国内両事業に限った変更だったようだ(18年8月期決算説明会資料)。
 これが定番単品を「ダム型物流」で量販するユニクロの実態値であり、ファストとは言っても似たような「ダム型物流」のH&Mも2.79回にとどまるが、「スルー物流」でEC向けを除けば本国も各国も倉庫在庫を持たないインディテックスは4.20回とひと回り速い。ちなみに、インディテックスは決算書に製品在庫/仕掛かり在庫/原材料在庫と分けてきちんと計上しているが、H&Mの決算書にはその明記がない。
     

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 在庫は「製品買取」であれば店舗であれ倉庫であれ納品された時点で計上すべきで、「工賃払い」なら仕掛かり在庫や備蓄原材料まで計上すべきだが、一括発注品を商社などに抱かせて分納させたり、締め日段階で到着している請求書分までを計上するなど、各社様々というか極めて恣意的に操作されている印象がある。期末在庫を減損処理するかどうかも各社その時々の状況で様々で、公表される決算書だけを見ていては騙されてしまう。本当に掴みたければ、少なくとも5期と8四半期の売上/在庫/粗利益率の変化を深読みする必要がある。
 「ダム型物流」と「スルー物流」の物流フロー/マーチャンダイジング/サプライチェーンの違いについては4月11日に開催する『マーチャンダイジング技術革新ゼミ』で詳説したい。加えて、店舗物流とEC物流のプロセスとコストの違い、両者の効率的な組み合わせによるC&Cについても解説しよう。

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