小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『2021年はアパレル復興の年となるのか 「13のレス」と「5つの施策」』
(2020年12月23日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 オリンピックとインバウンド期待から一転してコロナが世界を襲って鎖国状態となり、経済も生計も生活もシュリンクしてアパレル業界は壊滅的な打撃を受けた2020年だったが、ようやくワクチン接種も始まる2021年はアパレル復興の年となるのだろうか。

2020年は清算と破局の年だった

 コロナ禍に直撃された2020年は旅行・宿泊、エンタメ・イベント、飲食から百貨店やアパレルまで売り上げが激減し、閉店や人員整理、廃業や破綻が広がったが、その多くはコロナ前から問題を抱え、あるいは崖っぷちまで追い詰められていた業界や企業だった。コロナ禍でその清算を迫られ、廃業や破綻に至ったケースもあれば、事業や資産を切り売り店舗や従業員を整理して生き延びたケースもあったが、「それで清算は終わったのか」「復興への道筋は立ったのか」が問われざるを得ない。

 過去のツケを清算し切ったのなら21年は復興あるいは新創業に注力できるが、ツケを清算できず過去のしがらみを引きずったままでは悪戦苦闘の泥沼を抜けられない。資本蓄積の厚さゆえ事業が行き詰っても何年も生き延びるのはレナウンの例を見るまでもないが、それゆえ抜本的な転換に踏み切れず場当たり対応を続ければ阿鼻叫喚の終末を迎えることになる。21年も前半まではツケの清算を引き延ばした企業のリストラや破綻が続くのではなかろうか。

 ワクチン接種が順調に進んだとしても全国民に行き渡って日常が戻るのは夏近くになるだろうし、コロナ禍で加速したアパレル離れとカジュアル化・低価格化が早々に終わるとも思えない。緊急事態宣言下で販売機会がなく持ち越された大量の春物・初夏物在庫も新作の販売を圧迫するから、春物・初夏物に期待はかけられない。本格的な回復は夏物あるいは秋冬物からになるだろうが、そこに商機を仕掛けるなら後述する5項目を着々と推し進めておくべきだ。

2021年の13の「レス」

 2020年はコロナ禍で従来の販売方法や事業体制が行き詰まり、OMO(オンラインとオフラインの融合)とDX(デジタルトランスフォーメーション)が急進してさまざまな「レス」が広がったが、21年はその流れに拍車がかかり成否・優劣が明らかになる。

 日本フードサービス学会理事の白鳥和生氏(日本経済新聞社)は「7つの『レス』が加速する」と提じているが、その多くはアパレル業界にも通じるものだ。

(1)タッチレス(非接触経済、スキャン&ゴー)
(2)キャッシュレス(現金は触らない、ポイント経済)
(3)ストアレス(EC、レジレス、売らない店舗)
(4)ストレスレス(少ストレス購買チャネルへシフト)
(5)ペーパーレス(チラシ販促からアプリへ、EDLP※1
(6)ボーダーレス(業種・業態を超えた競争と融合)
(7)コードレス(規則や常識が変わる、なくなる)

※カッコ内の説明も白鳥和生氏による

 これをアパレル業界に置き換え、ストアレスはボーダレスに吸収し、新たに7つの「レス」を加えたい。20年はサックレス(レジ袋廃止)もあったし、これらにジェンダーレスを加えたい向きもあるだろう。

(1)タッチレス(非接触販売/フィッティング、非接触精算・決済※2
(2)キャッシュレス(ID・生体認証、二次元コード・近接通信決済)
(3)ペーパーレス(オンライン発注・検品・請求)
(4)ストレスレス(C&C顧客利便、接触回避)
(5)ボーダレス(ネットと店舗の融合、業種・業態を超えた競争と融合と協業)
(6)コードレス(規則や常識、TPOが変わる)
(7)オフィスレス(リモートワーク、痛勤レス)
(8)ワークレス(無駄な作業や手続きを無くす、自動化・オンライン化する)
(9)タイムレス(リードタイムや待ち時間を短縮する、なくす)
(10)ロスレス(値引きや残品のロスを減す、なくす)
(11)在庫レス(不要な在庫を持たない、C2M受注生産とVMI)
(12)コストレス(高コストな販路や物流から低コスト販路や物流へ)
(13)マウンティングレス(無意味な優越競争や序列意識と縁を切る)

※1.EDLP(Every Day Low Price)…セールに頼らずお値打ち品を常時低価格で販売する価格政策。セール依存のH&L(High & Low)価格政策と対比して使われる
※2.決済と精算…「決済」はID認証あるいは生体認証して登録決済口座と紐づければ済むが、「精算」はどの商品を何点購入したか確認する必要があり、ICタグセンサーや画像解析AIで照合する

アパレル再生の2021年にやるべきこと

 前を向いて具体的な手を打つ前に、まずは過去の「清算」を終わらせておくべきだ。壁に当たった販路や事業を無理やり引きずっては傷口が広がるばかりか、ヒトモノカネの企業資産が非効率事業に寝て前へ進めなくなる。思い切り清算したうえで、ヒト・モノ・カネを集中させるべきは以下の5項目ではないか。

(1)デジタル連携で分断無きサプライ流を創る
DX投資を契機に、力任せロット勝負の水平分業で在庫も利益もリスクも抱え込み企画〜生産〜販売の商流を分断する一括調達型SPAの愚行を一掃し、在庫を抱えずオンライン連携で分断無きサプライ流を創る。スマートファクトリー※3を軸としたパターンオーダーのC2M※4、定番的継続商品のVMI※5がその回答であることは言うまでもない。

(2)短サイクル小ロット高回転のバイイングSPAに徹する
ファストなトレンド商品はC2MやVMIには向かないから、短サイクル小ロット調達で高回転させるバイイングSPAに徹するべきだ。好立地の2〜3ダースまでの店舗展開なら調達リードタイムも販売消化も4週以内で回せるから値引きや残品のロスも限られ、一括大量調達より利幅は薄くても高交叉比率で高収益が期待できる。

(3)低コスト適正規模に徹して効率と「勝てる価格」を実現する
VMIはともかくC2MやバイイングSPAには市場規模と生産・調達効率が見合った適正規模があり、それを超えると効率が落ちて収益が圧迫されることが多い。勢いに乗って拡大するとロスとコストが肥大して「お値打ち価格」が維持できなくなり、競争力が落ちて守勢を余儀なくされる。拡大を望むなら、同じ仕組みで異なるカテゴリーか異なるマーケットを切り開くべきだ。

(4)ローカルOMOとテザリング※6でサプライの最適化と顧客利便の最大化を図る
OMOによる顧客利便の最大化は店舗在庫引き当てによるクリック&コレクト(C&C)※7(受け取りが速く物流費も格段に安い)であり、ローカルマーケティングとテザリング、ローカル宅配の仕組みが不可欠だ。それは同時にサプライの最適化と在庫効率の最大化を両立させるから、顧客利便の最大化(=売り上げの最大化)と合わせて“三方良し”が実現する。その構築にはECと店舗の在庫を受注に一元引き当てするデータプロセシングが必須だが、テザリングと店舗渡しや店舗出荷のアナログな仕組みと手順が実際の運営効率を大きく左右する。一元引き当てが一時間ごとのトランザクションなどバッチ段階でもテザリングはサプライと在庫効率を大きく改善するから、先行して体制を確立しておくのが正解だ。

(5)店舗運営の省人化と販売職のOMO多能職化で人時生産性を飛躍的に向上させる
アパレル販売のがんは店舗販売の人時生産性の低さであり、ECとは10倍も格差がある(ECの1人当たり年間売上額は億単位)。その解消には店舗の大型化やレイアウト改善に加え、決済・精算のセルフ化や在庫管理・マテハン作業の効率化が不可欠だが、RFIDタグを欠いては進めようがない。テザリングや店出荷のピッキングでも、RFIDタグがあれば手早くレーダー探索できる。タグ(正確にはインレイ)の単価も急速に下がっているから、何を置いても最速最優先で全面導入するべきだ。

 コロナ禍のECシフトで業務のOMO化(デジタル化・リモート化)が急進する販売職だが、デバイス(端末機器)やアプリが揃わないとスキルの習得も遅れる。もはや実験段階でなく全員OMO戦力段階だから、投資と熟練を急ぐべきだろう。

※3.スマートファクトリー…企画段階とデジタルに連携して短時間生産するCAD/CAM装備の工場で、消費地に近い場所に立地する
※4.C2M(Customer to Manufactory)…ネットやショールームで受注してからデジタル生産や3Dプリンタで素早く生産して“個客”に届けるパーソナル対応の無在庫販売手法
※5.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給(補充生産も含む)を委任する取引形態
※6.テザリング…店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、修理加工の集約やC&Cの店出荷と連携される
※7.クリック&コレクト(C&C、Click&Collect)…ECから店舗に取り寄せて試したり受け取ったりできること。一括配送の店舗物流を使うから送料無料で、店在庫を引き当てれば倉庫から出荷するより受け取りも早くなる。コロナ禍では食品スーパーなどのカーブサイド・ピックアップ(駐車場受け取り)も広がった。売り手にとっては顧客利便と在庫効率を高め物流費を抑制するOMO(ネットと店舗の融合)戦略

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