小島健輔の最新論文

マネー現代
『ユニクロは高い…?
アパレル価格の「ヤバい裏側」をプロがすべて明かす!』
(2020年08月13日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

「価格」感覚は6~7クラス

世の中には様々な経済力や価値観の人々がいるので、「グッチ」や「サンローラン」のジャケットをお手頃と感じる人もいれば、「ユニクロ」のブルゾンが高すぎて手が出ない人もいる。そんな価格感は大きく6クラスに分かれるのではないか。

カジュアルパンツを例に取って今時のだいたいの価格区分(税別)を表してみた。セール価格はこの7掛けから半値になる。

A)ラグジュアリーブランド級・・・・6万円〜
B)ベターブランド級・・・・・・・・2万円5000円〜4万5000円
C)ナショナルブランド級・・・・・・1万2000円〜2万2000円
D)駅ビルブランド級・・・・・・・・5800円〜9800円
E)SCブランド級・・・・・・・・・2900円〜4900円 ※SC(Shopping Center)
F)HCブランド級・・・・・・・・・1480円〜1980円 ※HC(Home Center)

ラグジュアリーブランドでも最高クラスだとAクラスの倍にもなるし、各クラスの間(ブリッジ)を狙うブランドもある。

四半世紀前のボリュームゾーンは駅ビルブランド級とSCブランド級の間にあったが、今日ではSCブランド級(「ユニクロ」価格)からHCブランド級(「ワークマン」「しまむら」価格)に移りつつあり、激安のG)プライスライン・オフプライスストア級(680円〜980円「タカハシ」価格)も郊外やローカルで広がりつつある。

断っておきたいが、価格と品質は必ずしも相関しない。価格が倍になったから品質が倍になることはなく、せいぜい素材や副資材がワンランク上がるぐらいだ。高価格品ほど宣伝費や販売費などマーケティングコストが高く、売れ残りリスクも高くなるから、利幅を載せないと儲からない。

ライセンスブランド品には結構なライセンス料が乗っているから、同価格の自社ブランド品に比べて確実に品質は劣る。低価格帯ほど「割安」になるのは間違いなく、「貧乏人の銭失い」という格言は今日のアパレル商品には通じないようだ。

ナショナルブランド級やベターブランド級を支えていた中産階級は見る影もなく没落し、地方では百貨店の衣料品フロアが成り立たなくなって久しく、ベターブランド級からラグジュアリーブランド級を支えていた外国人観光客もコロナ禍で途絶え、都心の百貨店さえ存続が危ぶまれている。

もはや「ユニクロ」価格(SCブランド級)より上にはマスマーケットはなくなり、アパレル業界の覇権争いは「ワークマン」価格(HCブランド級)に移っている。「ユニクロ」でも高いと感じる人々が最大のマスになりつつあるのだから、日本も貧しくなったものだ。

「正価」「セール」「オフプライス」「ユーズド」…

前述したのはあくまでプロパー価格(「正価」)であり、そのまま買うのは余程お金に無頓着な人か泡銭が回っている人に限られる。同じ商品でも価格には6段階があり、同時に並行される場合もあるから、懐と用途で使い分けるのが賢明だ。

A)正価
B)会員優待価格(ハウスカード会員優待で5〜15%オフ)
C)キックオフ価格(期間限定値引きやクーポン付与で15〜25%オフが多い)
D)セール価格(期中セールで20〜30%オフ、期末セールでは30〜50%オフが多い)
E)オフプライス価格(売れ残り持ち越し品を40〜70%オフ)
F)ユーズド価格(中古品をレア物を除き60〜80%オフ)

「正価」と「会員優待価格」は百貨店などでは同時並行されるから、ハウスカード会員が「会員優待価格」(前年の購入額で割引率が異なる)で購入している横で「正価」で購入している人がいるという一物二価が常態化している。

それはセレクトショップなどで定着している購入額ランク別シークレットセールも同様で、今季の購入金額によって期末セールの開始時期が週サイクルで違うという顧客差別だ。購入額ランクの高い顧客がセール価格で購入している横で購入額ランクの低い顧客は「正価」での購入を強いられるのだから、一物二価どころか際どい差別にさえ見える。

「アウトレット用商品」を見極めるテク

「キックオフ価格」はチラシやSNSで告知して週末など特定の数日間あるいは一週間ほどだけ値引きするもので、期間が終われば「正価」に戻すから、同時に一物二価とはならない。「セール価格」は早ければ割引率が低いが選択肢は広く、遅ければ割引率は高くなるが売り切れて選択肢が限られる。

「オフプライス価格」はブランドのアウトレット店やブランドの処分品を仕入れて販売するオフプライスストアでの割引価格で、名の知れたブランドは割引率訴求、知名度のないブランドはプライスそのものを訴求する。ブランドものの割引率は今シーズン品なら30〜40%オフ、前シーズンからの持ち越し品なら50〜70%オフが一般的だ。

アウトレットで注意したいのがアウトレット用に作ったオリジナル品で、安く売るために素材を落としたりして作られている。アウトレット品よりワンランク品質が落ちるが、安くて色やサイズが揃っているのがメリットだ。

アウトレット品と違って価格タグが二重表示(元価格と値引き価格、あるいは元価格と値引率)になっていないから、よく見れば誰でも判る。国内ブランドのアウトレット店ではシーズンによって2〜3割程度だが、米国のカジュアルブランドなどでは9割を超えるケースもある。

「ユーズド価格」はフリマ価格と古着屋価格があって通常は前者のほうが安いが、個々にコンディションが違うし需給も価格を左右するから、新品や新古品のように割引率だけでは「お買い得」を判断できない。ブランドとアイテムによる相場を掴んでコンディションも判断する必要があるから目利きと手間を要するが、新品「正価」の3分の1〜5分の1で買えるから、掘り出し物を見つける醍醐味にハマる人も多い。

原価率から推測する「正価」のお買い得度

どれほど「お買い得」か判断するのに「正価」に対する「原価率」が分かりやすい指標だが、「原価率」は流通の段階と取引方法により様々で、一律な比較は難しい。 
アパレルは98%がアジアなど海外生産だから、それを前提に生産地の工場出し値から小売店の仕入れ値まで、どうコストが積み上がっていくか大まかに示してみたい。

自社工場生産は高級ブランドやテイラードアイテムの一部に限られ、ほとんどが工場や商社からの製品仕入れ(E、D)だから、自社工場生産原価(F)をベースに流通コストを積み上げてみた。同じ商品の原価が流通段階でこんなにも積み上がっていくのだ。

A)消化仕入れ原価率・・・・・・・・・・・65〜70%
B)セレクト買取仕入れ原価率・・・・・・・50〜55%
C)ロット買取仕入れ原価率・・・・・・・・40〜45%
D)ロット調達国内倉庫受け取り原価率・・・30〜35%
E)ロット調達現地工場渡し原価率・・・・・25〜30%
F)自社工場生産原価(減価償却費含む)・・・20〜25%

「お買い得」な原価率かどうかは、このA〜Fの同じ段階で比較しないと解らない。アパレル業界で一般的なDで比較すれば、最も高いのがワークマンの44.3%、次いで高いのがユニクロの36.5%、駅ビルやSCのSPAブランドの多くは31〜34%だが、タイムセールを乱発するチェーンや百貨店ブランドは20%を切る。

ラグジュアリーブランドの原価率は20%をかなり下回るが自社工場生産が多く、Dに換算すると22%前後で百貨店ブランドより「お買い得」な場合もある。

こんな原価率の「正価」からどれほど値引かれた価格で買うか、業界の仕組みを見切って利口に購入機会を選択すべきだが、自分のライフスタイルや価値観から浮き上がっては却って「高い買い物」になることもある。上手な買い物は自身を知ることから始まると心得て欲しい。

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