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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『商業施設開発が失敗するわけ』 (2018年05月29日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 SPAC研究会で毎年4月にまとめている出店結果アンケートによれば、過去3年間に開設された商業施設の成功率は13%弱と1/8にも届かなかった。50%を超えていた2012〜14年ごろからは暗転した感があり、リーマンショック直後の10年の28.5%をも下回る。どうして売れない施設ばかり開発されるのだろうか。

成功率の低下が止まらない

 SPAC研究会の出店アンケートは実際に出店した企業に「集客力」「売上げ」「利益」が期待(予算)を上回ったか下回ったか問うもので、結果としての販売効率と撤退判断も聞いている。「集客力」と「売上げ」「利益」は必ずしも一致せず、「集客力」は期待通りなのに「売上げ」は予算に届かず「利益」は大きく下回るというケースも少なくない。結果として撤退を決断したり検討するケースも出てくる。

 過去3年間に開業した31施設で期待を裏切らなかったのは1)プライムツリー赤池、2)イオンモール長久手、3)イオンモール徳島、4)イオンモール四条畷の4施設だけで、5)ららぽーと海老名、6)イオンモール松本、7)イオンモール旭川駅前、8)トリエ京王調布、9)タカシマヤゲートタワーモールまではテナントによって好不調はあるもののボーダーラインに達したが、以下22施設は大半の出店企業が失敗だったと後悔している。評価首位となったプライムツリー赤池にしても東南約3kmにららぽーと東郷が開業すれば3割も売上げが減少すると当社は推計しているし、ららぽーと海老名は「集客」と「売上げ」はともかく「利益」が厳しい。

 過去10年間の高評価施設を振り返っても、14年まではイオンモール大高、モゾワンダーシティ、ルクア、テラスモール湘南など大半の出店テナントが予算を上回るような大ヒット施設が見られたが、15年以降は木更津、酒々井などアウトレットモールを除けば、ほどほどの成功施設しか出なくなった。

 ワースト3も1)イオンモールとなみ、2)ららぽーと立川立飛、3)セブンパークアリオ柏と好評価施設と同じデベの施設が並ぶから、商業施設デベのブランドを信用するわけにもいかない。個々の施設を吟味して出店の可否を判断するしかないが、年々成功率が低下して行く状況では慎重にならざるを得ない。

売上げは開業前に予測できる

 新たに開発される商業施設が成功するか否かは立地と規模、テナント募集パンフレットに掲載されている程度の大まかな構成を見ればあらかた、想像がつく。コンセプトやテナント構成で大きく振れる都心商業施設はともかく、郊外立地のSCなら大きな誤差なく売上げを予測できる。これまで315施設を開業前のテナント募集段階で検証し売上げを予測してきたが、郊外SCで外したのはデベが組織的に混乱したり政治的な障害に遭遇した(主要アクセス道が開通しなかった)数例だけだ。

過大な実勢商圏を想定したり特定分野で無理な占拠率を期待すると、空振る。

過大な実勢商圏を想定したり特定分野で無理な占拠率を期待すると、空振る。

 商業施設の売上げは実勢商圏内の分野別消費支出と該当施設の分野別売場面積占拠率であらかた決まる。空振るのは過大な実勢商圏を想定したり特定分野で無理な占拠率を期待するからだ。想定商圏が狭いほど食品等の近隣消費分野で無理なく売上げが取れるが(支出規模が大きいので高い占拠率を必要としない)、広域商圏を狙って支出規模の小さい衣料品等で無理な占拠率を望めば格段にリスクが高くなる。

 

 商業施設デベがテナント募集段階で分野別の賃貸面積を公表してくれれば、かなりの精度で売上げを予測できるが、そこまで公表して募集はしないし、そもそも想定する商圏が過大すぎで実勢商圏と掛け離れている。デベ側の過剰期待と募集段階の誇大広告が重なって失敗事例が増えてしまうのではないか。

 過大な商圏を期待してもライバル施設はもちろん、河川や断層など地形、道路網の未整備や渋滞、未線引き地区に阻まれれば商圏は広がらないし、インバウンドは別として商圏内の消費支出に見合わぬ売上げは成り立たないから、無理に大面積の施設を作ればかえって効率が落ちてしまう。今回の低評価施設でも、そんなケースが少なからず見られた。

投資のインフレが悲劇の元凶

 有利な立地が開発され尽くし、近年の過剰流動性政策で土地の取得費用(あるいは定期借地費用)や建築費が高騰する中、商業施設デベは投資に見合う過大な売上げと商圏を期待してしまう。投資のインフレが期待売上げと期待商圏のインフレを招くという構図が伺えるが、投資はインフレしても消費はほとんどインフレしていない(むしろデフレしている分野も多い)。

 その期待値がそのままテナント募集の誇大広告や割高な家賃につながってしまうのは、不動産取引における重要事項説明に商圏規模や売上目標は含まれないからだろう。どれほど希望的観測を打ち上げても違法性を問われることはないから、テナント募集が有利に進むよう過大な期待値をそのまま営業に使ってしまうのだ。

 出店する側も一応、玄人だから一般消費者的保護は手薄いが、玄人だからといって募集パンフから売上げを予測するスキルやシステムを持っているわけではない。かなりの大手チェーンや外資系さえ経験則と“勘”に依存しているのが現実で、“お仲間”のそろい方を見て最終判断している。それで失敗しては大量退店して溝に大枚を捨てているのだからギャンブル以外のなにものでもない。テナント出店の現実はそんなものだ。

 投資はインフレしても消費はインフレしていないのだから、デベの目論みがうまくいくケースは限られる。そのギャップは商業だけでは埋められないから、インフレしているオフィスやマンション、ホテルや病院、ケア施設などとコンプレックスして商業の負担を軽減するのが賢明だが、商業施設デベの視野狭窄は以前に指摘した通りだ。

 消費はインフレしておらずむしろデフレしているし、商業施設は同業のみならずECとも深刻な競合に直面している。投資がインフレしているからといって商圏や売上目標までインフレさせては、リスクを拡げテナントまで悲劇に巻き込むだけで誰も報われない。商圏や売上目標をインフレさせるのではなく、投資のインフレを吸収する活用分野の分散と運営コストの圧縮を図るのが賢明ではないか。

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