小島健輔の最新論文

ファッション販売2001年10月号掲載
『ファッション・バラエティストアを開発せよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

ファッション・バラエティストアに注目

 最近、服飾雑貨や生活雑貨を大量に取り込んでバラエティ性を訴求するファッション店が目立つ一方、雑貨系バラエティストアやドラッグストアがファッションアイテムを手掛けたり、CVS(コンビニエンスストア)が日用消耗品の枠を超えたファッションアイテムやHBCアイテムを取り込む等、幾つもの方向からファッション感度のあるバラエティストアを目指す動きが見られる。
 ファッション店ではワールドの“ハッシュアッシュ”やしまむらの“アベイル”、CVSではココストアの“エスココ”などが注目されるが、ワールドの“イッツデモ”やファイブフォックスの“スリーミニッツハピネス”のように最初からバラエテイストアを狙って開発される業態も出てきている。
 ファッション性のバラエティストアはこれまでも、ブルーグラスの“ボザール”やキャビン系の“セノゾイック”のようなライフスタイル系、“ソニープラザ”や“ショップイン”のようなHBC系、パルの“スリーコインズ”のようなプライスライン雑貨系等があったが、最近の動きはカテゴリーの際を超えて新たな提供方法で購買慣習を創造する業態開発へと向かっているようだ。その意味ではドンキホーテの“ピカソ”等も注目すべきかも知れない。 

バラエティストア志向の背景

 ファッション性のバラエティストアを志向する背景はそれぞれの立場で異なるが、その流れをもたらしたマーケット変化は共通している。
 ファッション店にとってはアパレル商品の急激な単価ダウンによる売上減少が大きく、周辺カテゴリーを取り込んで客単価と購買頻度を向上させる必要に迫られている。家計調査報告によればシューズは単価がアップしているし、服飾雑貨の単価ダウン巾はアパレルと比べれば小さい。ペット関連やガーデニング関連、帽子、コスメティックス等はマーケットが拡張しているし、ランジェリー/アンダーウェアやステイショナリー、バック等は小幅の縮小に留まっているから、これらを取り込めば客単価と売上の向上が期待出来る。
 テイストやライフスタイルのトータルな提案という面でもインパクトが高められるし、売場に賑わいも出る。デフレ下のSPA型商品調達やQRで同質化しがちなMDも、周辺カテゴリーを取り込めば変化と差別化が期待出来る。となれば、このような動きが拡がるのは当然であろう。
 雑貨系バラエティストアやドラッグストア、CVSにとっても単価ダウンと競争激化は深刻で、単価の稼げるファッションアイテムの導入に動くのは当然だ。加えて、CVSでは女性客の取り込みによる客数アップが戦略課題となっており、HBCやファッションアイテムの拡充がその決定打になると期待されている。
 これらの動きにはもうひとつ、マーケット側の変化が大きく影響している。それは購買スタイルの多様化だ。既存小売業の枠組みが外資流通業の進出や規制緩和で崩れだし、ライフスタイルの変化が一気に購買スタイルの変化に繋がってきた。それは購買立地軸、時間軸、気分軸がからみ合ったもので、これまでの業種カテゴリー軸が急激に崩れだしている。
 購買立地軸では、これまでファッション性のアパレルや服飾雑貨、化粧品はターミナルか郊外大型SCで購入する慣習だったものが、生活圏の商業施設やCVSで購入するスタイルが増えている。これは時間軸の影響が大きく、忙しい時間から解放された生活圏で焦らず選択したいという購買マインドと考えられる。女性の有職比率拡大で時間に追われる人が増え、不況の定着で日常購買圏が縮小している事が背景となっているのではないか。
 そんな購買スタイルを積極的に提供しようとするのが“ドンキホーテ”の「宝探し気分」ナイト&トレジャーショッピングだが、同じ購買スタイルに「癒し気分」で応える業態があってもよいはずだ。購買立地軸でこの変化に応えようとする“アベイル”が時間軸で対応していないのは残念だし、時間軸を訴求する“イッツデモ”が購買立地軸を放棄してしまったのはチャンスを捨てたに等しい。
 このような変化に対応すべく、既存小売業は営業時間の延長や提供方法の統一によるクイック・ショッピング等の手を打っているが、購買スタイルに応えるべくカテゴリーの全面再編を断行している訳では無いし、立地の壁は越えられない。やはり、新たな購買スタイルに応えるカテゴリー構成と提供方法を備えた新業態を最適立地に開発する者がチャンスを掴むことになる。購買スタイル変化の中核が都市圏の若い(二十代〜三十代)有職女性であるだけに、ファッションビジネスは無視する事は出来ないはずだ。

バラエティストアとは何か

 周辺カテゴリーを加えて単に品揃えにバラエティをつけるのと、新たな購買スタイルに応える品揃えと提供方法を開発するのでは、次元が全く異なる。購買スタイル変化を捉えようとするなら、「バラエティストア」という業態を理解しなければ始らない。
 「バラエティストア」は1879年、フランク・W・ウールワースによってペンシルベニア州ランカスターに開設された“ファイブ&ダイムストア”という実用衣料と日用雑貨のツープライスストアから始まった。第一次大戦後の米国の工業社会化と都市化の波に乗り、農村から流入する都市労働者層中心に低価格の日用非食品を幅広く提供して発展。1930年代前半の世界恐慌下のデフレ局面で急成長し、40年には“ウールワース”が2.027店、“クレスゲ”(今日の“Kマート”に進化)も38年に745店に達した。第二時大戦後も健在だったが、50年代以降の郊外化とSC時代に取り残され、ダウンタウンとともに衰退していった。
 CVSの十倍から二十倍ほどのスーパーマーケット型の売場に婦人、紳士、子供の日用衣料から下着類、服飾雑貨や化粧品・化粧雑貨、手芸用品、家事用品・消耗品、金物、文具、玩具、菓子まで一万アイテム以上を揃えたコンビニエンスな総合非食品店で、食品以外のほとんどのカテゴリーが揃ったスーパーサイズのCVSと思えばよく、「とりあえず消費」に応える手頃な商品だけを扱っていた。今日なら消耗家電(電池や電球、生メディア等)やレンズ付きフイルム、AVソフト、ゲームソフト等も加わったに違いない。
 戦前の米国ダウンタウンにおいて今日の米国郊外におけるDSのような役割を果たしていたわけで、SC時代以降、一部はDSやスーパーセンターへと進化していったが多くは破綻し、「バラエティストア」という業態は過去のものとなった。あの“ウォルマート”の原点も、バラエティストアの“ベン・フランクリン”であったと言う。
 今時、何故「バラエティストア」かと思われるかもしれないが、長期に及ぶデフレ不況下の都市近郊住宅地回帰と日常購買圏の縮小、生産の空洞化による都市第三次産業勤労者の増加、100円ショップや“ドンキホーテ”の急成長を見ると、大型商業施設もCVSも応えていない巨大な最寄り購買ニーズの存在を実感させられる。都市圏のOL層や有職ヤングミセス層に焦点を当ててファッショナブルなコンセプトで業態開発すれば、新たな巨大マーケットを開く事が出来るはずだ。

ファッション・バラエティストア開発のキーポイント

 鮮度を重視するため、調達手法も引き付けたバイイングに徹している。発注から四週前後で納品されるメーカー企画の見分け仕入れが約55%、週サイクルの現物集荷が約30%と大半を占め、手頃価格にしたいベーシック商品や要確保商品のメーカー別注は15%と抑制されている。そのメーカー別注でも、リードタイムは三か月が限度という。もちろん「しまむら」同様、完全買取で値引きも歩積みも一切無く、某量販店のような未引き取りも許さないというフェアな仕入れ姿勢に徹している。
 バイヤーはトータル・コーディネイトを重視してアイテムで分けず、レディスのアメカジ系とエレガンスカジュアル系、メンズのアメカジ系とフレンチカジュアル系、靴&服飾雑貨、インナー&ソックス、キッズの七人で分担。月火が持ち込み企画の商談日、水木金が展示会や現物調達のメーカー廻りという週単位のスケジュールで動いている。仕入先は全部門計180社ほどで毎年、20社ほど入れ替わるが、バラエティを確保するため、絞り込む訳にはいかないようだ。
 各1投入、補充無しが原則と言ってもNBジーンズやインナー、ソックス、ストッキング等は例外。NBジーンズでは週単位に補充発注を行っているし、インナーの一部やソックス、ストッキング等はオンラインVMIで自動的に補充されている。
 靴だけはカジュアルウェアのようにリードタイムを短縮出来ず、補充分まで発注して確保せざるを得ない状況で、鮮度とバラエテイのメカニズムがうまく回っていない。キッズもメーカーの期中企画がほとんど期待できず、メンズやレディスのメーカーに別注している状況で、やはりメカニズムが回っていないようだ。

販売効率と在庫回転の課題

 どの分野からアプローチするにせよ、スタートラインとなるのが購買スタイルの設定だ。どんな立地でどのような購買気分を訴求するのかがはっきりしないとインパクトを欠くし、カテゴリー構成も提供方法も定まらないからだ。
 立地は1)CVSが複数競う近隣コンビニ銀座、2)郊外住宅地の駅前 、3)ロードサイドのコンビニエンスモール、4)郊外ターミナルの駅ビルか構内立地、等が有望。ファミリーではなく若い有職女性が生活のターミナルとする立地が望まれるが、時間に追われる都心のターミナルは向かない。最低でも夜の十時、出来れば零時まで安心してショッピング出来る立地であるべきだろう。
 購買気分は、1)は「癒し気分」系、3)は「宝探し気分」系、4)は「宝探し気分」系か「クイック・ショッピング」系、2)は立地や街の匂いによって「癒し気分」系と「宝探し気分」系に分かれるだろう。クリエイティブな開発者なら、もっと斬新な購買気分を創造するかも知れない。
 購買スタイルが決まればカテゴリー構成までは組めるが、その中の品種品目構成とフェイシング量の組み方は相当なテクニックを要するし、まずバラエティストアとは何かを解っていないと組みようがない。
 バラエティストアの本質はソフトライン軸のCVSとでも言うべき「最寄り系とりあえず消費」であり、ブランドやテイストを求めての店舗間比較購買はない。それだけに、コンセプト実現に必要な品種品目はカテゴリーの際を超えてすべからく揃えながら、同一品目のバラエティは限定し(「宝探し気分」系では必要)、プライスラインも「とりあえず感覚」に絞り込む。
 カジュアル衣料やインテリア関連等を除けば100円単位のスリープライスとかファイブプライスとかが妥当で、メイクアップ・コスメ等、200円、300円、400円のスリープライスが当たり前(100円、200円、300円でもよい)。カジュアル衣料でも500円、700円、900円、1,200円、1,500円といったファイブプライスであるべきで、高くても1,900円が上限だろう。その意味では“ユニクロ”のはるか下を潜る価格破壊者でもある。時間からも価格からも解放されてフリーな気分でショッピング出来ることが肝要なのだ。
 品揃えの感覚は100円ショップに近いから、“大創”や“ドンキ”が感性に目覚めてファッション・バラエティストアのコンセプトを追求すれば脅威となるのは必定だ。もちろん、ファッション系バラエティストアはもっと感度も鮮度も高いが、品揃えと価格の感覚は大きく異なるものではない。
 調達手法はSCMが硬直的なSPA方式は適さないから、産地工場調達(100円ショップ方式=バラエティストア方式)とベンダー調達、「宝探し気分」系ではバッタ調達まで組み合わせて、バラエティと変化、低価格を両立させる。中小の独立店では現金問屋の活用も効果的だ。
 提供方法はCVS型の台帳フェイスがカテゴリー別にズラリと並ぶSM型レイアウトが基本で、旬のアイテムは平台に山積みされる。「クイック・ショッピング」系はこれだけでもよいが、「癒し気分」系ではもっとナチュラルな生活感演出が加えられるべきだし、「宝探し気分」系では陳列ラックをうんと高くして圧縮陳列し、足元からもゴチャゴチャと市場感覚で積み上げるべきだろう。
 チェックアウトは例えツーフロアでも出口に集中し、SM型の並列配置ではなくCVS型の大型カウンターとすべき。ギフト・ラッピングやアドバイス機能の集中はもちろん、様々なCVS的サービスの併設やエンターテイメント演出が考えられるからだ。顧客とのコミュニケーションを考えれば、店舗スタッフはすべて若い女性とすべきであろう。

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 様々な購買立地軸、時間軸、気分軸、提供方法を組み合わせて、ファッション系や生活雑貨系、100円ショップ系、HBC系、CVS系と幾つもの分野からファッション・バラエティストアが開発され、若い女性の購買スタイルは一変してしまう。アパレルという限られた衰退カテゴリーに囚われていては、チャンスを失うばかりかさらなる売上減を覚悟しなければならない。発想を転換し、チャレンジすべき時ではないか。

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