小島健輔の最新論文

繊研新聞2011年7月7日付掲載
ブランドの業態分類とブランドミックス
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 「11年春夏ブランドツリー」ではターゲットや立地対応でゾーン分類し、テイストや開発・調達手法、MDの組み方や編集手法でタイプ分類したが、読者の理解を深めるべく、テイストと並んでタイプ分類の主要な基準とした「開発・調達手法と編集手法による分類」を解説しておく必要がある。ターゲットやテイストに加えて商業施設でブランドミックスを組む時の要となる見方であり、広く業界に知らしめたい。

ブランドの三層構造

 ブランドはその開発・調達手法によって3層に分けられる。最上層を担うのがデザイナー/パターンナー/生産管理スタッフを抱えて企画・開発・生産管理を貫徹する自社開発型キャラクターブランドで、開発期間は5〜6ヶ月と長く、労務上の限界から年間企画サイクルは4〜6回程度に限られる。比較的高価格で、オリジナル企画でリスクを張る先行企画組に位置付けられる。その頂点に立つのがコレクション型のメゾンブランドと言えよう。
 第二層を担うのが、デザイナーは抱えても開発や生産管理はアウトソーシングする事が多いマーチャンダイザー主導のMD型キャラクターブランドだ。開発期間は3〜4ヶ月と中射程で、年間企画サイクルは8〜10回程度。モデレート価格で、オリジナル企画ながらマーケット・インも意識した中間企画組に位置づけられる。
 第三層を担うのが、デザイナーを抱えずバイヤーがODM業者の企画提案を引きつけて仕入れるファスト型ブランドだ。開発期間は4〜8週と短く、年間企画サイクルは12回以上。価格は最も手頃で、後出しジャンケンでマーケット・インする後発企画組に位置付けられる。
 自社開発型キャラクターブランドばかりではマーケットと乖離するリスクがあり、価格の高さもあって客層の広がりも限界がある。ファスト型ブランドばかりでは後出しのコピー商品が氾濫し、同質化と値崩れが避けられない。MD型キャラクターブランドは両者の中間にあって独自のマーケットを捉え、両極の欠点を補う事が期待される。この三層のバランスがとれていれば館の人気が高まって売上が伸びるが、自社開発型に偏れば顧客層が広がらず、ファスト型に偏れば値崩れして売上が低下し、やがては人気も離散してしまう。
 現状の商業施設を位置付けるなら、渋谷109は自社開発型やMD型の新手キャラクターブランドが限られる中、ファスト型ブランドばかりが増えて同質化と値崩れが蔓延し、人気が離散して末期状態に陥っていると見る。ルミネエストは三層のバランスがとれて人気が頂点に達した後、さらなる客層の広がりを狙ってファスト型ブランドを増やし過ぎ、単価が落ちて頭打ち気味と見る。新宿ルミネはテナントの鮮度は気になるものの大きくバランスを崩す事なく安定しており、アミュプラザ博多も手堅くルミネ型のバランスを踏襲している。大阪駅のルクアは尖ったローカルブランドや新手の雑貨ブランドも揃え、自社開発型とMD型の比重を高めた意欲的な構成が注目される。

編集手法による3分類

 現実のテナントミックスでは、この三層バランスに加えてワンブランド型、自社ブランド複合型、自社ブランド軸編集型の三分類が問われる。ワンブランド型とは単一ブランドによる構成であり、大半のブランドショップがこれに当たる。自社ブランド複合型とは自社の複数ブランドによる編集であり、中大型のストア業態によく見られる。自社ブランド軸編集型とは自社ブランドを軸にセレクト商品をミックスするもので、ブランドが立地に対応してテイストに巾を持たせる場合によく見られる。ストアブランドを核としたセレクトショップもこの一種と見てもよい。
 ワンブランド型ばかりではテイストのバラエティが限られ、リミックスも欠いて平板な構成になりがちだから、自社ブランド複合型や自社ブランド軸編集型を組み合わせてバラエティとリミックス感を出す必要がある。自社ブランド複合型は巧みにテイスト編集すればリミックスの楽しさが出るが、ブランド揃えの域を出ない大味な構成に終わるケースも多々見られる。自社ブランド軸編集型はブランド単体よりテイストに巾が出てリミックスも楽しくなるが、下手な編集でブランドのテイストが暈けただけという失敗もある。
 保守的な客層の館では手堅くワンブランド型中心の構成にして自社ブランド複合型や自社ブランド軸編集型は鏤める程度に留めるのが無難だが、お洒落好きなヤングやOLの多い館では自社ブランド軸編集型を主体にワンブランド型や自社ブランド複合型を加えるという逆転構成が良い結果をもたらしている。長期的な推移を見ても、ワンブランド型主体からセレクトSPAを含めた自社ブランド軸編集型主体への移行が加速しており、マーケットはワンブランドのまとまりよりリミックスの楽しさを志向しているように見える。

ブランドショップとSPA

 今日ではブランドショップとSPAは境を失って同列に扱われる事も多いが、開発・調達手法による三層分類と編集手法による三分類をクロスすれば自ずと境目が見えて来る。メゾンブランドを含めた自社開発型ブランドはブランドショップ(ブランド直営店)、MD型ブランドとファスト型ブランドはSPAと見るのが見識であろう。ワンブランド型か自社ブランド複合型かは手法の差でしかなく、セレクト商品を加えた自社開発型もブランドショップの変形と見るべきだ。セレクトSPAは、自社開発型かMD型のストアブランドを軸にセレクト商品を揃える業態と位置づけられる。
 ブランドショップはオリジナル企画をMDテクで水増しせずに原液のまま提供するもの、SPAはオリジナル企画をディティールやカラー、サイズなど様々なMD軸で水増ししてお手頃に提供するもの、という区分けが要だと思われるが、近年はマーケット・インなMD展開で水増しするブランドショップも多く、両者の境が曖昧になっていた。商業施設のブランドミックスに当たる目利きは三層分類と編集手法による三分類に加え、こんな境目も厳格に見分けて欲しい。

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