小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『2次流通の新本命 古着とオフプライスの垣根なき「アーカイブストア」』
(2021年12月03日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 

 19年から20年春にかけて我が国でもオフプライスストアの開発機運が高まったが、各社とも計画通りに拡大が進まない一方、コロナ下でユーズドストアが再拡大に転じ、二次流通の主役はユーズドになったかの感がある。サステナブルが問われる中、オフプライスとユーズド、どちらが二次流通の本流となるのだろうか。

 

■伸び悩むオフプライスストア

 ゲオクリア(ゲオの子会社)が19年4月25日に横浜の港北に開業した「ラックラック」(427坪)が皮切りで、同年9月14日にはワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンの合弁会社アンドブリッジが埼玉の西大宮に「アンドブリッジ」(300坪)を開設。在庫処分業者やディスカウントストアも次々とオフプライスストアに進出したが、目論見通りに売れているという話は聞かない。

「ラックラック」こそ11月末時点で14店(他に期間限定3店舗)と3月末から4店舗増え、「アンドブリッジ」も今春開店のニューポートひたちなか店、ビバモール蕨錦町店で6店(うち2店は期間限定)となったが、販売効率は期待水準に届いていないし、出店ペースも「ラックラック」は24年までに50店、「アンドブリッジ」も22年までに30店という目論見には遠い。低価格プライスライン型の「タカハシ」も11月末で43店と、20年8月期末の41店から2店しか増えておらず、勢いを欠いている。

米国でも日本でもアウトレットモールの販売効率は通常モールの1.5倍ほど高く、米国のオフプライスストアはアウトレットストアと大差ない販売効率なのに、我が国のオフプライスストアは高くてもフルプライス店の7掛けほどにとどまっている。期待値の半分にも届かない水準だ。それでいて、オフプライスストア新規開店のTV報道などではバカ売れの混雑ぶりが紹介されたりする。

別にやらせではなく開店から暫くは本当に売れるのだが、勢いがあるのはせいぜい2週間ぐらいだろう。人気のブランドやアイテムが売り切れてしまえば客足が激減し、人気商品が入ってくると盛り返し、売れ切れると客足が引くの繰り返しで、通年では期待外れの販売効率に留まってしまう。弾さえあれば売上を伸ばせるのだが、適品の調達が思うに任せないのがオフプライスストアの泣き所のようだ。

欠品を恐れて猫マタギの不人気商品まで抱え込んでしまえば、一次流通の売れ残りをババ抜きする愚行に陥りかねず、放出品を丸抱えしてそんな隘路に陥る業者もある。オフプライスストアは適品だけを選択して継続調達できないと成り立たず、調達ルートが限定され仕分けも選択も徹底できない事業者が行き詰まるのは必然だ。

 

■ブランドとタイアップした専用開発品が不可欠

オフプライス商品はブランド側の「意図せぬ売れ残りや過剰在庫」に依存しているから都合よく揃うはずもなく、適品が売り切れてしまうと類似品の補充が思うに任せず、売上が落ち込んでしまう。その穴を埋めるのがブランド側とタイアップした計画調達品だ。旧シーズン品ばかりになりがちなオフプライスストアで、今シーズン企画のタイアップ調達品は鮮度訴求にも貢献する。

米国の大手オフプライスストアはデッドストック中心のバーリントンを除いて、半分近くがブランド側とタイアップした計画調達品だと言われるが、我が国のオフプライスストアはまだそんな事業規模には遠い。アウトレットストアでも専用開発品は品揃えを維持する必須条件と認識されており、米国ブランドでは過半どころか98%が専用開発品という例もある。我が国でも一昔前までは欠けた色・サイズの補充生産に留まって1〜2割ほどだったのが、今や専用企画が拡大して3〜4割は当たり前になって来た。専用企画品がないとアウトレット品が不足するシーズンは売上が低迷し、運営経費ばかり嵩んで赤字経営になってしまうからだ。

ならばオフプライスストアも事業規模の拡大とともに専用開発品を広げていけば良さそうなものだが、そう簡単にはいかない。アウトレットストアの専用開発品はブランドが自ら作るもので、プロパー品の生産仕様や残反・残糸を使って小ロットでも対応するが、オフプライスストアの専用開発品はブランド側にロット発注してオフプライス販売するものだから原価を抑える必要があり、それを可能にするロットを売り切るには三桁の店舗展開が必要になる。

それでも知名度や人気のあるブランドが応じるかは疑問で、BC級のブランドとなればオフプライスでも売れ足は期待できない。我が国のオフプライスストアにとっては店舗数が三桁に近づく何年も先の課題となるのではないか。では、それまでの売上を嵩上げするにはどうしたら良いのだろうか。

 

■デッドストックとユーズドの垣根がなくなる

 中古衣料店で買い物をしていると、新品かと見紛う状態の良い商品に出会うことがある。これらはECなどで返品されたり長く倉庫に寝かせてクリーニングが必要となり、「新品」として再販も放出も困難になった商品と推察される。「新品」も一回でもクリーニングすれば「中古品」扱いとなるから、ユーズドの中にはそんなデッドストックも混じる。

 顧客に取っても程度の良いデッドストックはオフプライス品と同列に選択する価値があり(プレミアムが付くケースもある)、プロパー店舗でも最近は「ユーズドミックス」が流行るぐらいだから、ユーズド品であることをタグに明記すれば、オフプライスストアが人気ブランドやシーズンの適品をデッドストックやユーズドで補填するのは合理的な方法と思われる。なぜそのような提案をするかと言うと、ユーズド衣料は供給量が潤沢なことに加え国内外の調達ルートも多様で、適品の調達が容易だからだ。

 

■圧倒的に潤沢な古着供給

環境省によると20年に家庭から放出された衣類は75.1万トン(他に事業所から放出された衣類が3.6万トン)に及び、うちリユースされたのは15.0万トン、リサイクルに回ったのが10.4万トン、ゴミとして廃棄されたのが49.6万トンだったとされる。リユースに回った15.0万トンから4.4万トンが輸出され、0.63万トンほどが輸入されたから、国内古着市場に供給されたのは11.23万トンだったことになる。

環境省の報告書では放出衣類からの輸出は4.4万トンだが、財務省の輸出入統計では中古衣類の輸出はウエスも含めて22万7340トンで、放出衣類からウエスに分別された6.6万トンが全て輸出されたとしても11万7300トンの誤差が生じる。その実態は掴みようがないが、故繊維事業者が古着として供給した数量に少なからぬ集計漏れがあると推察される。

20年の古着輸入量は6270トンと輸出の3%弱に過ぎないが単価の高い米国が数量で24.3%、金額では46.2%を占め、マレーシア、韓国、タイ、インド、中国と続く。数量は輸出の3%弱でも輸入額は45億4600万円(725.0円/kg)と単価は20倍近く、輸出額85億4500万円(37.6円/kg)の53%になる。前回の古着ブームのピークだった05年の輸入量8082トンのうち米国が数量で69.0%、金額でも71.0%を占め、タイ、オランダ、フランス、カナダ、イタリアと続き、単価も1020円/kgと大台を超えていたことを思うと、今回のブームとの性格の相違が伺える。

トンで言うと実感がないが、軽衣料から重衣料まで平均して3点で1kgとすれば、11.23万トンの古着供給量(ほぼ全てがアパレル)は3 億3700万点ほどになる。前年から10.7%も減少した20年の新品供給数量が衣料品全体で34億1000万点、そのうちアパレルは22億8340万点ほどと推計されるから、古着供給数量は新品供給数量の15%弱に匹敵し、新品と合わせた総供給量の12.9%を占める。

 環境省の報告書ではアパレル業界が放出するオフプライス品についても推計しているが、最終的な売れ残り率13.61%の内、在庫処分業者に放出されるのは0.09%としているから205万点に過ぎない。卸や商社に戻された3.59%から放出される商品を合わせても、せいぜい600万点ほどにしかならないだろう。アウトレットで販売されるのは3.16%としているから7200万点ほどで、オフプライス品はその8%強でしかない。ましてや古着の供給量に比べれば2%にも届かない微量であり、そこから適品を選択して調達するとなれば品揃えが途切れるのは必然だ。

古着はグローバルな集荷・仕分け・再輸出のルートも確立されており、かつては韓国、現在ではマレーシアやパキスタンなどが仕分け基地化している。何年も先進国消費者のタンスに蓄積された衣類が中古衣料として放出されるのだから、ルートを辿って輸入を増やせば供給は無限と言って良い。世界全体の古着供給量は437万トン(16年)と溢れるほどだから先進国でも受け入れ途上国でもお荷物として疎まれ、国内アパレル産業保護のため受け入れを禁止・制限する途上国も多い。

米国だけでなくマレーシアやパキスタンなど多様な海外ルート、顧客が見知ったブランドが揃う国内ウエス屋ルートなどを上手く使い分ければ、人気ブランドやシーズンアイテムが時空を超えて集まる。顧客としては欲しいブランド、欲しいシーズンアイテムが手頃なお値打ち価格で揃うならオフプライス品もユーズド品も問わないから、いずれ垣根がなくなるに違いない。

 

■中古衣料の運営スキルが不可欠

 日本のオフプライスストアが期待通りに離陸しないのには、もう一つの要因がある。それは仕分けと再編集運用、VMDのスキルを欠くことだ。

米国の大手オフプライスストアはシーズンの立ち上げから末期まで、週サイクルできめ細かく店内在庫を編集運用してVMDを切り替え消化を促進しているが、我が国のオフプライスストアにはそのスキルが欠けている。店内在庫以前に、調達した在庫をブランドのクラス/タイプ、アイテム毎に仕分けてストックし、シーズン毎に各店に配分・補給するとともに、動きの良い店舗に移動・集約して消化を図り、期末の残在庫は倉庫に戻して次シーズンの仕分けに回していると推察される。

このような仕分けと在庫運用はB2B集荷型中古衣料業界(もう一つはC2B2C再販型)では一般的なルーティンワークだが、B2B転売主体のバッタ屋が供給のバッククラウンドを握る我が国オフプライス業界では定着していない。中古衣料業界に比べれば、仕分けや在庫運用のスキルが格段に劣るのが現実だ。ならば、スキルを確立したB2B集荷型の中古衣料業界がオフプライスストアを手がける方が効率的で、オフプライス品とユーズド品から隔てなく適品を品揃えするサステナブルな「アーカイブストア」が有望と思われる。しかし、中古衣料業界が「アーカイブストア」を成功させるには観念の切り替えが必要かもしれない。

※B2B集荷型とC2B2C再販型・・・・中古衣料業界は国内外の業者ルートから調達するB2B集荷型、店舗毎に地域の顧客が持ち込む商品を買い取って販売するC2B2C再販型に二分される。下北や原宿で見られる多くの中古衣料店はB2B集荷型だが、国内だけで737店(他に海外21店)を展開する「2nd Street」はC2B2C再販が主体だ。

 

■ポスト・アポカリプスのメジャービジネス

 これまで何回かあった古着ブームはヴィンテージ通のマニアがリードしたが、コロナ禍を契機に盛り上がった今回は若者から中年層まで広範な一般客の支持によるもので、古着が日常の生活衣料として定着しつつある。その背景にあるのが、長期にわたる経済の停滞と少子高齢化による社会負担増(国民負担率は45%に迫る!)、貧富差の拡大がもたらす社会の貧困化だ。コロナ禍でそれが一段と加速し、外出機会の減少もあってファッションへの関心も薄れ、一部の富裕層と泡銭が回る人たちを除けばブランドにも新品にも拘らなくなって来た。今や勢いに乗る中国や韓国の方がトレンドにもブランドにも敏感なのではないか。

 「終わった」感が漂う落日の日本の大衆はポスト・アポカリプス(文明崩壊後)の遺民的生活感覚へ流されつつあり、背伸びしてブランドやトレンドを追うより、手頃で味わいがあり生計に無理のないユーズドに利便と愛着を感じる人々が増えている。新品よりユーズドの方がエシカルだというシンパシーもあるのかも知れないが、経済的合理性は突出している。「バーバリー」のトレンチコートは今や30万円近くするが、程度の良いユーズドがその十分の一ほどで手に入るし、「チャンピオン」のスウェットも新品の三分の一以下で売られている。

 見込み生産のリスクと流通コストがたっぷり乗った新品価格の法外さは広く一般の知るところとなり、メルカリなどでユーズドへの抵抗感も薄れ、コロナ禍で生計が逼迫して割高な新品が敬遠され、ユーズドが手頃でエシカルな日常衣料として国民生活に定着する中、マニア好みという観念を脱した万人感覚の品揃えが求められている。

 古着通向けならテイスト編集のブティックスタイルかも知れないが、一般向けならアイテム編集のストアスタイル、それも品揃えが豊富な大型店が買い易い。ならば、調達もお宝期待の米国ルートに拘らず、マレーシアルートやパキスタンルート、見知ったブランドが揃う国内ウエス屋ルートを組み合わせ、季節の必要アイテムを確実に揃えるべきだろう。

 デッドストック(オフプライス)とユーズドの垣根を超えて多様なルートから調達し、顧客が期待するブランドやシーズンアイテムが豊富に揃う大型の「アーカイブストア」は落日の日本に急速に浸透し、ポスト・アポカリプスのメジャービジネスとなるに違いない。

 

 

 

 

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