小島健輔の最新論文

販売革新2012年7月号掲載
特集[業態別 革新の歴史]
『衣料チェーン革新の歴史』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 80年代から今日に至る衣料チェーンの革新を俯瞰すればドメスティックなナショナルチェーンからグローバルなSPAへの世代交代と総括されるが、五年毎の売上上位ベスト10を追って行くと様々な勢力が交錯して世代交代が進んだ事が伺える。各時代の主役とその没落理由を検証し、世代交代の背景を探ってみよう。

1)ナショナルチェーンは何故、没落したのか

  70〜80年代の主役はナショナルチェーンであり、86年にはベスト10中8社を占めていた。それが96年には3社に減り、01年にはランキングから消えてしまった(ミセスプレタSPAのレリアンを除く)。代わって台頭したのはロードサイド紳士服チェーン、一歩遅れてジーンズカジュアルチェーンで、青山商事は91年にトップに立って00年にファーストリテイリングに抜かれるまで9年間もトップの座を保ち、現在もナンバー2を維持している。
 ナショナルチェーンが没落して行った要因は幾つか指摘されるが、最大の要因は80年代までに開設された旧世代商業施設に巨額の保証金が寝て財務体質が悪化し、90年代以降に開発された投資の軽い郊外SCでの成長機会に乗り遅れた事であろう。加えて、財務体質の重さが災いして商品開発に踏み込んだ投資が出来ず、仕入れの延長のような商品開発に甘んじてSPAにはほど遠く、単品量販体質の陳列ではブランディングも果たせず、売れ筋の価格競争に陥って収益性を低下させて行った、と総括されよう。

2)息の長いロードサイド紳士服チェーン

ロードサイド紳士服チェーンの急成長期は79年の大店法規制強化(500平米規制)から94年の出店自由化(1000平米)までで、95年には青山商事が上場来初の減収減益に陥っている。91年には青山商事を筆頭にアオキインターナショナル、コナカ、はるやま商事がベスト10に入り、96年も同4社がランク入りして青山、アオキが1位2位と並び、01年にはトップの座こそファーストリテイリングに渡したものの青山、アオキが2位3位を占めてはるやま、コナカもランキングに残り、11年に至るも青山が2位、AOKIファッション事業部が6位、コナカグループが10位に入っている。
 この息の長さは素材からの大ロット垂直統合開発による低価格紳士服市場の長期にわたる寡占、ロードサイド店舗のリースバック契約による低不動産コストに加え、00年以降のツープライススーツストアへの進出や近年のSC出店も要因と思われるが、何より低価格紳士服市場に強力なライバルが現れなかった事が大きいのではないか。それだけ、大ロット垂直統合開発のアドバンテージが大きかったという事なのだろう。

3)ジーンズカジュアルチェーンとユニクロ

 ロードサイド紳士服チェーンの後を追ったのは規制緩和がもたらす郊外SC開発ブームに乗ったジーンズカジュアルチェーンで、92年から00年まで続いたSCの三桁開発ラッシュで急速に多店化し、01年にはライトオンが6位、マックハウスが10位に入った。06年でもライトオンが4位、マックハウスが10位、カジュアルチェーンのポイントが7位に入り、93年に上陸したギャップ・ジャパンも6位まで上昇したが、セレブジーンズブームが失速した08年以降はジーンズ市場も急速に縮小し、11年にはカジュアルSPA化したポイントは4位に上がったもののライトオンは9位に転落、ギャップ・ジャパンも8位に落ちている。
 そんな中で逸早く突出したのがファーストリテイリングで、95年に8位に初登場して96年には5位に上がり、00年には首位に立った。その後も急成長を継続して2位以下を引き離し、今やグローバルSPAトップの座を狙うまでになった。その急成長の秘訣は今更言うまでもないが、顧客を選ばぬ低価格ベーシックパーツを素材から垂直統合開発して機能と品質で突出する一方、ウェブを駆使したプロモーションなどで効率的にブランド価値を高めた事が相乗したと思われる。

4)セレクトSPAチェーンが勢力を拡大

 90年代のストリートに発したセレクトショップは00年代に入って定期借家契約の普及とともに駅ビルなどへ多店化し、路面から商業施設への不動産比率上昇を吸収すべくオリジナル比率を高めてセレクトSPA化し、近年はカジュアルチェーンを上回る勢力に拡大している。ベストランキングには06年にユナイテッドアローズが9位に登場し、11年にはユナイテッドアローズが5位に昇る一方、パルグループが7位に入り、ベイクルーズグループが11位、ビームスが13位、トゥモローランドが20位、シップスが24位に位置している他、アーバンリサーチやナノユニバースも急成長している。
 大手セレクトはお手頃業態を開発して郊外SCやトラフィック・チャネルの開拓を急いでいるから、5年後のランキングではカジュアルチェーンやロードサイド紳士服の下位企業を追い落としてセレクトSPA企業が過半を占める事になるかも知れない。

5)外資SPAはどうなる

 外資SPAは06年度にギャップ・ジャパンが推定746億円で6位に登場し、11年度は推定832億円で8位に後退しているが、他の大手外資SPAはどの程度を売り上げているのだろうか。11年末で71店舗まで増えたザラジャパンは推計260億円前後、H&Mジャパンの11年11月期は期中に5店を出店したにもかかわらず12.9%減収の推計192億円、未公開企業のフォーエバー21の12年1月期はまったくの推計だが160億円程度思われる。
 上陸して20年近くを経たギャップでさえ800億円台で伸び悩み、積極的な出店にもかかわらずH&Mの売上は低下さえしている。着実に積み上げて来たザラジャパンとてようやく300億円が見えて来たという状態で、上陸当初の華々しさはともかく日本市場での長期的な拡大は想像以上に難しいものがあるようだ。おそらくは5年後のランキングに入るのはオールドネイビーまで投入するギャップ・ジャパン、マッシモデュッティなど未投入の有力業態を抱えるINDITEX(ザラジャパン)ぐらいで、外資SPAが国内衣料チェーンを追い落としてベストランキングを占めるような事態は到底起こりそうもない。

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