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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ワークマンはなぜ高機能商品を安く売れる?』 (2018年09月17日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 全国828店(9月11日段階)を展開して800億円近くを売り上げるワークウエアの最大手ワークマンが満を持して9月5日、ららぽーと立川立飛にオープンした高機能・低価格カジュアルSPA「ワークマンプラス」1号店に早速、バリューのインパクトを探ってみた。

高機能・低価格のお値打ちは圧倒的

 ららぽーと立川立飛の1号店は3階の「ニトリ デコホーム」の隣に位置して向かいには「ABCマート」、周囲には「タワーレコード」や「ヴィレッジヴァンガード」「東急ハンズ」などがある、やや男性軸の趣味とライフスタイルのゾーン。モールの反対側にはカップル型のカジュアル店も並ぶ。売場面積は198平米で初年度1億2000万円の売上げを目論んでいる。

 商品構成は向かって左側が「ファッション性アウトドア」、右側が「機能性アウトドア」、後方が「機能性雑貨」(靴/スパッツ/ソックス/アンダーウエアなど)で、右側壁面前部が女性を意識した「ガーデニング」になっている。全体にメンズ主体の構成で、ウィメンズは各カテゴリーに埋没していたのが残念だ。「ファッション性アウトドア」といっても防風・撥水・防寒・伸縮・軽量など機能性は他カテゴリーと遜色なく、ストリート感覚のグラフィックが加味されたデザインが目を引いた。

 注目される価格だが、防寒・撥水・防風の高機能アウターが2900円、軽量フィールドブルゾンが1900円などアウターはほとんどこのツーラインでそろい、ヘビーデューティーな「イージス」ライダースーツでも6800円で手に入る。ワークパンツも大半が1900円、2900円、レギンスは980円からストレッチトップスは780円からそろう。軽量スニーカーは780円から、ヘビーデューティーな防寒ブーツやトレッキングシューズも1900円〜2900円で手に入る。いずれも税込みというのもうれしい。

 プロ向けワークウエアとして確立された機能性は半端なく、アウトドアブランドやスポーツブランドの機能性商品の3分の1、4分の1という低価格がライダーやアウトドアフリークに支持されるのも当然だ。ユニクロなどカジュアルSPAの機能性商品より一回りも二回りも安い“ホームセンター価格”なのに格段に本格的で、アウトドアやトレッキングぐらいなら十分耐用できる。「ファッション性アウトドア」のファッション感覚も必要にして十分で、陳腐化リスクのギリギリ手前で抑えている。そんなお値打ち品をこれほどの低価格で提供できる“秘密”はあっけないほどシンプルなものだ。

アパレル業界も学ぶべき安さの秘密

 お値打ち品を低価格で売れるわけは“秘密”とは対極のシンプルな原則だが、それをやり切るところに学ぶべきだろう。その“原則”は以下の3点に尽きるのではないか。

1)大規模工場で計画的に大量生産する

 衣料品を低コストに作る秘訣は一に大ロット、二に閑散期の計画生産で、中国やミャンマー、ベトナムなどの大規模工場で10万点単位で計画生産して低コストに抑えている。ワークウエアで突出した売上規模を背景に、トレンドという陳腐化リスクにとらわれず在庫回転を焦らないから実現できる王道だ。とはいっても、18年3月期決算書から推計される在庫回転は5.5回転前後(FC比率が高いので推計値)とギャップ(4.44回転)や国内ユニクロ(4.91回転)より速いから、圧倒的なお値打ちでさばけていくのだろう。

2)セールなしのEDLPに徹する

 陳腐化リスクに無縁な機能商品ゆえ、ファッション商品ほど消化進行にピリピリする必要はなく、売れ残れば何年かけても値引きしないで売り切ればよい(事業責任者がそう発言している)。セールなしのEDLPだから値引きロスを上乗せしないお値打ち価格が可能で、それがまた価格信頼感につながるという好循環が回っている。

3)低コスト運営に徹する

 家賃の高いSCを避けロードサイドのB級立地で不動産コストを抑え、FC店主体(直営店売上比率は10.8%)に展開して運営コストを抑えている。それでいてFC店からのロイヤリティも地代家賃負担等を含んで売上対比15.9%に抑えるという善政はコンビニのFCとは別世界の感がある(FC契約はA、Bの2タイプで複雑だがジーに誠実で学ぶことが多い)。シーズンを通して補給する台帳型MD主体で店舗作業を標準化・単純化できることも運営コストの抑制につながっていると思われる。

 法外な歩率や不動産費を負担し、値引きと売れ残りのロスを転嫁して調達原価を切り下げ、お値打ちを下げ続けるアパレル業界が学ぶべきことがワークマンには幾つもある。業界の常識にとらわれず、原点から考え直す契機とすべきだろう。

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ワークマンプラスの課題

 初年度は有力SCに10店舗、その後は地方のSCやGMS、ロードサイドに拡げて3年で100店舗、将来は「ワークマン」と「ワークマンプラス」それぞれ1000店舗体制を目指すという壮大な計画だが、お値打ちな高機能・低価格カジュアルが広がればスポーツブランドやアウトドアブランドはもちろん、「ユニクロ」などカジュアルSPAにも少なからぬ影響が及ぶに違いない。恐らくは価格と機能の常識を変えてしまうのではないか。

 壮大な計画にも課題がないわけではない。それは出店立地とオムニチャネル展開だ。カジュアルSPAの主戦場はSCだが有力SCは賃借料負担が高過ぎ、高機能商品を低価格で売れなくなってしまう。認知確立のためにプロモーショナルな位置付けで出店する最初の10店舗+α以上に広げるべきではないが、そうかといってBC級ロードサイド立地では集客が望めない。そこでGMSやコミュニティ型SCが主な出店立地として想定されるが、BC級ロードサイド立地並みに賃借料負担が収まるとは限らない。ロードサイドから商業施設内に主力を移行していったユニクロは店舗規模の拡大と販売効率の上昇で賃借料負担を吸収したが、同様なロジックが成り立つだろうか。

 アパレル分野では店舗とECを一元一体に運用してC&C(クリック&コレクト)な利便の提供が競われているが、FC店を主体とするワークマンには壁が高い。EC比率は推定2%台に留まり(商品特性からいえば過半を占めてもおかしくない)、EC注文品の店受け取りはできても店舗とECの在庫は一元管理も相互引き当てもされておらず、ECから店在庫の照会もできない。荒利益分配を基本とするフランチャイズチェーン故の壁をどう超えて大手SPAに伍するC&C利便を提供するか、カジュアル分野で覇権を競うなら避けては通れない課題だ。SMIに基づくガバナンスの壁を超えてEC受注の店在庫引き当てと店出荷に踏み切ったZARAのケースも参考に体制整備を急ぐべきだろう。

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