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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『GUショールーミングストアの課題』 (2018年12月05日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

商業界

 ファーストリテイリング傘下のジーユーが11月30日、表参道の原宿クエスト2F(ローラアシュレイ跡)にオープンしたショールーミングストアのデジタル仕掛けと運営体制、スタイリングセンスを検証してみた。

GUショールーミングストアの仕組み

 

「GU STYLE STUDIO」は店頭サンプルから選んで試してECで注文し自宅や指定店舗、セブン-イレブンで受け取るという典型的なショールーミングストア故、在庫の奥行きも補充も不要で、売場面積が594平米と標準店の660平米よりやや小ぶりでもウィメンズ、メンズの全型・全サイズ各一陳列(色は限定)がゆったりときれいに収まる。

 売場は入って左手がウィメンズ、右手がメンズと分かれ、ほぼワンルックのスタイリング別コーナーで編成されている。各一陳列故、単品集積の訴求はなく、たたみ直しを要するフォールデッド陳列も一切ない。アウターやボトムも単品トップスもシングルハンガー(壁面も全て一段)にゆったりとサンプル陳列され、各コーナーにスタイリング訴求のアブストラクトマネキンやトルソーが配置されている。

 シングルハンガーの配列は「ルック」→「アイテム」→「カラー×サイズ」を基本に、一部は「カラー」→「ルック」→「アイテム×サイズ」、ニットなど単品は「カラー」→「デザイン」→「サイズ」。すっきりとまとまって見やすいが、アイテムやカラーとサイズの組み合わせパターンはさまざまで、顧客が試着サンプルを選択するプロセスでは戸惑いそうだ。

 全ての商品にQRコードを印刷したRFIDタグがつけられており、顧客は新公式アプリ「GU STYLE CREATOR」をダウンロードしてスマホのカメラでQRコードを読み込めば、GUのオンラインストアに飛んでスタイリング提案や商品情報、購入者レビューなどを閲覧して購入できる。店舗在庫も検索できるが取り置きはできない(ここまではアプリ無しでも可能)。

 マネキンやトルソーのルックにも同様なタグがつけられており、QRコードをスキャンすればルック丸ごと複数アイテムをお気に入り登録して購入へ移れる。また、店頭のデジタルサイネージで自身の顔写真を撮ればアバターを作ってコーディネートを着せ替えできるし、来店しなくてもアプリ内蔵のアバターモデルで着せ替えを試せる。

 フィッティングは試着室入り口のモニターで予約すれば待ち時間が表示され予約番号が発行されるが、スマホに案内通知がくるわけではなく中途半端は否めない。フィッティングルームに商品を持ち込めばRFIDタグを感知して側面のサイネージに商品情報が表示され、画面のQRコードをスマホのカメラで読み込めばお気に入り登録もできるから、後から注文することもできる。

ショールーミングストア運営体制の課題

 サンプル陳列に徹したお持ち帰り不可のショールーミングストアだから全型・全サイズ各一陳列で在庫管理も補充も必要ないが、試着中はサンプル陳列が欠落してしまうし(空き位置に「試着中」表示が必要だ)、試着後は早々に検品して必要なら補正し元位置に戻す作業を要する。ワンサイズ陳列のZARA六本木ショールーミングストアでは顧客が指定するサイズをバックヤードでピッキングして試着室にセットし、試着後は検品してスチームアイロンで補正しバックヤードの元位置に戻していたが、フロントヤードより多数の人員を要していた。

「GU STYLE STUDIO」でも手間取るのはフィッティングで、顧客が持ち込んだサイズが合わないとスタッフがサイズを探して手渡す必要があるが、各一陳列だから他の顧客が持ち出していると帰り待ちになるし、そもそも誰かが試着中だと他の顧客は試すことができない。現実的には「サイズ×カラー」の最小公倍マトリックスをW持ちする必要があるのかもしれない。運営実験を経て修正していくのだろうが、しばらくは混乱が避けられないだろう。

 試着室もメンズ側の後方に男女一緒に9ブース用意されているが、ブースのサイズはミニマムで向かい合ったブースの距離も短く、男女共用のストレスフリーな運用には無理がある。お試し専門のショールーミングストアとしては課題が残るのではないか。

 在庫が存在しないからEC受注の店在庫引き当ても店出荷もないはずで、発生するクリック&コレクト業務は自店受け取り品のピッキング作業だけになる。フィッティング対応と試着品の戻し(配列の維持が手間取る)を除けばコーディネート接客だけで済むが(レジ精算も例外的なはず)、アプリのダウンロードやQRコードのスキャン、サイネージの使い方などをサポートする必要もあるのか、スタッフは延べ25人も配置されている。

 週休2日の2交代運営なら常時10人前後を張り付けられるが、フィッティングと試着品戻しに5〜6人、売場とシステム案内に4〜5人という作業負担になりそうだ。現段階ではそんな分業はなくスタッフは売場と試着室を掛け持ちしているが、運用実験の結果次第では分業が必要になるかもしれない。

 運営を効率化できるかどうかはフィッティングと試着品戻しの業務手順、それを左右するサンプルSKUの持ち方と展示配列が決め手になる。ZARAのショールーミングストアではワンサイズ展示にこだわってバックヤード作業が膨大になったが、「GU STYLE STUDIO」では全サイズ展示でそれを回避したとはいえサンプル展示方法には課題が残る。ショールーミングストアの効率的運営には“第3の選択”があるのではないか。

スタイリング提案にも課題が残る

 運営面の課題もともかく、それ以上に問題なのが、アバター着せ替えサイネージがギミックに終わって実用性と感性を欠くこと、売場のスタイリング提案に“抜け”もリミックスもなく凡庸で魅力を欠くことだろう。

 アバターは顧客の顔だけで体型やポーズは反映せず、その顔もできの悪いアンドロイド風で気色が悪い。顧客の体型やポーズが反映されない以上ギミックでしかないし、その気色悪い顔つきは原宿・表参道という高感度立地にふさわしくない。せめてかわいいアニメ風の顔立ちや体型にすれば好感が持てたのではないか。

 より深刻な問題は提案するスタイリングがことごとく凡庸で“抜け”もリミックスもないことだ。商品自体も今風のゆる“抜け”感がなく、「スポーツ/アウトドア」×「ルーミー」なアスレカジュアルラインも全くなく、SCや駅ビルにあふれる凡庸な商品を安くしただけで鮮度が感じられない。スタイリングも場所柄、アクセントアイテムや柄物、服飾雑貨のリミックスが不可欠で、上下のフィットバランスもストリート風やオルチャン風に崩す工夫が必要だ。

 原宿・表参道という注目立地で最先端のハイテク仕掛けショールーミングストアを世に問うにしては、ハイテク仕掛けも運営の詰めも今ひとつで、肝心の商品もスタイリング提案も精彩を欠くというのは残念にすぎる。これでは「GU」という事業の成長性にまで疑問符がついてしまう。注目立地で注目店を世に問うのなら、それなりの覚悟と詰めが必要なのではないか。

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