小島健輔の最新論文

販売革新2017年11月号掲載
『近未来店舗を垣間見せたGUの「ファッションデジタルストア」』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ファーストリテイリング傘下の株式会社ジーユーが9月15日、港北ノースポートモール4Fにオープンした売場面積820坪の「GU」最大最先端の「ファッションデジタルストア」は近未来の店舗小売業を垣間見せるハイテク仕掛け満載の超注目店舗だ。その見所はRFID技術を駆使した商品プレゼンはもちろん、セルフレジを主役にした‘革命的’精算空間配置、ブランドポジションの焦点が合ったMDと店舗の提案を加味した顧客目線のVMDだ。
 エスカレーター前の店頭には「ZARA」か「H&M」かと見紛うトレンド感ある立体的な出前プレゼンが並び、左右のミラー張り柱にはトレンドのスタイリングや人気アイテムのランキングなどを表示するデジタル・サイネージが設置されているが、どこを見回してもレジ列が並ぶ精算カウンターが見当たらないし、店頭の両端には上部にタブレットが設置されたショッピングカート「オシャレナビ・カート」が並ぶ。お客様もここがフツーの店舗でない事を察知するに違いない。

1)近接通信技術を使った商品情報表示
 「オシャレナビ・ミラー」はマジックミラーの前に立って商品のRFIDタグを近付けると、コーディネイトのバリエーションやEC購入客のレビューを表示する。「オシャレナビ・カート」はショッピングカート上のタブレットがRFIDタグや売場のビーコンに反応してECサイトのコーディネイトや在庫情報(ECと店舗)、購入客のレビューなどを表示する。
 「オシャレナビ・ミラー」は820坪に6ヶ所しか配置されておらず切り替えに時間を要して使い勝手も今ひとつだが、「オシャレナビ・カート」の方は各コーナーのビーコンにも商品のRFIDタグにもサクサクと反応して極めて実用的だ。20台しか設置されていないので実験段階なのだろうが、お客が取り合いになりかねないから大量配置が急がれよう。
 どちらも商品を検知してECサイトの情報を表示するプレゼンシステムで、顧客を特定してレコメンドするAI接客機能や要望を選択して販売員を呼び出すエントリー機能、ID決済機能は持たないから‘自動販売’システムには遠いが、現段階では画期的な試みと評価出来る。

2)精算空間を‘後方’に配した革命的レイアウト
 セルフレジの定着で精算空間を‘後方’に配するレイアウトが可能になった事も‘革命的’と評価したい。レイアウト図を見て頂ければ解ると思うが、従来は店頭に近い一等地の側面を占拠していた精算空間が陳列壁面で売場と隔てられた‘後方’に配されている。
 セルフレジは昨年からビックロの「GU」などに導入されていたが、これまでの通常レジ同様、売場の一等地を占拠するレイアウトで、銀座の旗艦店など各フロアの一番一等地をセルフレジで潰しているのは訝るしかない。港北の「ファッションデジタルストア」は、顧客に『メチャ便利!』と好評ですっかり定着したセルフレジを10台も並べて通常レジ(6台)を‘補助’と位置付けたゆえの‘革命的’レイアウトだ。真っ白なタイル張り壁と真っ黒な天井に工場のような蛍光灯照明はクールに過ぎるが、‘近未来’演出なのだろうか。
 精算空間に占拠されていた一等地を売場に転ずれば少なからぬ売上増が期待されるから、この試みが定着すれば「GU」のみならず「ユニクロ」にも広がるに違いない。スーパーマーケットなど店頭の一等地にズラリとレジカウンター列とサッカー台列を並べているが、ほとんど狂気の沙汰だ。あのスペースが売場になれば凄い売上が加わるはずで、ファッション関係者のみならずスーパーマーケット関係者も必見ではないか。
 最終的にはアカウントIDと商品情報を近接通信して精算する「Amazon Go」的なシステムが店舗小売業のデフェクトスタンダードになると思うが(社員IDでも顧客IDでも同じだ)、とりあえずは画期的な改善策として広がるに違いない。セルフレジを後方に配置し難く商品が多岐に渡るスーパーマーケットでは、カートのタブレットにID確認と商品精算の近接通信システムを組み込む方が早いと直感した。

3)ナイス・ポジションに焦点が合ったMDと顧客目線のVMD
 「ファッションデジタルストア」はハイテク仕掛けも必見だが、‘ユニクロのお手軽版’と‘ファストファッション’との間で揺れ動いてきた「GU」のポジションにピントが合ったMDと顧客目線のVMDにも注目したい。
 標準店に四倍する820坪のスペースを方眼状にアドレス管理してカテゴリーを配し、「ユニクロ」の大型店のように露骨にフェイシング量で水増さず多重露出にも頼らず、MDを解り易く棚割り表現し、近接‘元番地’同士のアイテムをクロスさせてコーディネイトを訴求するなど、飛躍し過ぎない顧客目線のVMDが親しみを感じさせる。
 これまでより色数と色相を絞った素材軸のMDも多重露出に頼らないVMD手法も「ZARA」をベンチマークしているが、店舗ビジュアルマーチャンダイザーのセンスとスキルを加えたスタイリングは若々しく顧客目線で、「ユニクロ」の廉価版を脱して‘ファストファッション’とも異なる独自のファッションストアを志向する「GU」のナイス・ポジションにピントが合ったと評価したい。ヒットアイテム依存のMDが壁に当たって伸び悩む「GU」の打開策となるかは今秋冬の数字を待つしかないが、手応えはあったのではないか。
 後方ストックヤードは「ユニクロ」そのものの粗っぽいパッキン物流で、緻密さは「ZARA」に遠く及ばず店頭のVMDとは乖離を否めないが、単価の低さと扱い数量ゆえの現実と見るべきだろう。「ZARA」をベンチマークすると言っても商品開発〜生産〜物流のサプライチェーンは次元が異なるから、独自の‘ナイス・ポジション’を確立すべく「ユニクロ」のサプライチェーンをどこまで修正して行くのか、これからの数シーズンに注目したい。

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