小島健輔の最新論文

販売革新2016年4月号掲載
—–今、チェーンストアに求められる革新—–
『勝てる‘流通プラットフォーム’に変貌せよ』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 IT革新がオムニチャネル革命の奔流となってBとBはもちろんBとCの際も国と国の際も超えていく現実を前に、チェーンストアという前世紀の恐竜は絶滅か革命的進化による生き残りか際どい岐路に立たされている。生き残るため何を捨て何に投資を集中すべきか、決断が急がれる。

絶滅の刻が迫る前世紀の恐竜 

 チェーンストアは大量生産を大量消費に繋ぐ大量流通の仕組みとして第二次大戦前に確立され、戦後の大衆消費市場の形成とともに流通プラットフォームのデフェクト・スタンダードとなった。市場の成熟化多様化とともに総合型の流通効率が悪化し90年代以降はカテゴリー特化型への世代交代が進んだが、09年以降のモバイルフォンの急激な普及を背景にECがメジャーな販売チャネルとなるに及び、流通プラットフォームとしての非効率性が際立って来た。
 そもそもチェーンストアは、その形成過程から以下の欠陥を抱えた流通プラットフォームであった。
1)商物一体流通の弊害
 販売する商品を悉く各店舗に運んで積み上げる商物非分離の流通ゆえ、店舗が物流倉庫化して運営コストが嵩み、販売と在庫が必ずしも一致せず在庫が偏在してロスが肥大しがちだ。実際、店舗の運営コストは売上ではなく在庫量に比例するし、機会損失と値引きロスは在庫の分散に比例する。店舗の運営コストは在庫を置くスペースの家賃と在庫をハンドリングする人件費に比例し、店舗数が増えて立地や売れ方がバラつくほどロスが肥大するからだ(ほんの数カ所のDCでカバー出来るECと比較して欲しい)。
2)立地コストと顧客コストの負担  商物一体ゆえ売上を期して大量の在庫を顧客が来店し易い好立地(=高コスト立地)の店舗に積み上げざるを得ないから、不動産費(あるいは宣伝広告費)が嵩む。顧客にとっても、購入のため店舗に足を運び、店内で時間をかけて商品を選択し、自らの手で持ち帰るという労働が避けられない。よって時間帯や体力に制約されたりアクセスが困難な顧客を遠ざけ(買物難民)、より労働を強いない購入方法への流出を招き易い。いつでもどこでも発注出来て都合の良い場所に届けてもらえる購入方法が一般化したら、店舗での購入の方がイレギュラーになるかも知れない。
3)品揃えの物理的限界とパーソナル対応の壁  販売する在庫を悉く積み上げては品揃えのバラエティに物理的な限界があり、無理に売場を拡げても顧客は歩き切れず分岐してしまう。恐らく顧客を一周させられる通路長はせいぜい800メートル(陸上競技場のトラックを二周)程度だろう。広大な売場に一方的な分類で在庫を並べるだけで、それぞれの顧客に応えてパーソナルに編集するなど不可能だ。品揃えに物理的制約が無く、顧客の条件検索やリコメンドで瞬時自在にパーソナルな編集訴求が出来るデジタルな‘売場’に較べれば、チェーンストアの売場は一方的硬直的な‘化石’でしかない。
4)労働生産性の限界  商物一体ゆえ店舗労働の過半を物流関連作業が占めるから、店舗労働者の生産性は物流センター労働者と大差なく、商物分離のB2B営業職などと較べて極めて低い。生産性の低さは報酬の低さに繋がるのは自明の理だ。
 そもそもチェーンストアは17世紀来の奴隷制資本主義を背景に戦前米国の大恐慌期に骨組みが確立されたもので、低賃金労働者が潤沢に供給される労働需給下でないと存続出来ない。今日の我が国のように少子高齢化で若年労働力の逼迫が進むような社会では継続が難しく、本業から派生する消費者金融事業や不動産事業、プラットフォーム事業で収益を補填しないと成り立たないのが現実だ。

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 これらの根源的欠陥を抱えたままではチェーンストアは前世紀の恐竜として絶滅せざるを得ない。オムニチャネル化とボーダレス化が進む今日の流通環境に適応すべく、これらの欠陥を解消して21世紀型の‘流通プラットフォーム’へと進化・変態を急がねばならない。

流通プラットフォームとしての競争力

 IT革命が加速する今日では、アマゾンや楽天のような総合型からZOZOTOWNなどの専門型まで多様なB2C型プラットフォーム、消費材から工具や資材まで様々な分野でのB2B型プラットフォームが集客と効率を競い合い、ヤフオクやメルカリのようなC2C型も普及してBとCの際、新品(一次流通)とユーズド(二次流通)の際、セルとレンタルの際も急速に崩れつつある。加えて、広域関税協定の推進や越境ECの広がりで従来のローカルな国別流通体制も壁に当たり、グローバルな流通プラットフォームの構築が始まっている。
 そんな現実を前に、‘チェーンストア’という古典的なアナログ流通プラットフォームも最新のデジタル流通プラットフォームと利便と効率、‘ブランド力’を競わざるを得ない。そのポイントは以下の5点ではなかろうか。
1)便宜性  店舗網を有するアナログ流通プラットフォームは商品に触れて試すのはもちろん、店受け取りや店から出荷、店からご用聞き宅配、店から設置・設定宅配など、便宜性ではデジタル流通プラットフォームより優位に立ち易い。その反面で品揃えが物理的に制約されてバラエティを欠き、店舗網の手薄いエリアでは優位性を発揮出来ない。  アナログ流通だけでは限界があるからデジタル流通と組み合わせてオムニチャネルな便宜を競う必要があるが、最大の関門は品揃えのバラエティだ。アナログ流通では数十万品目が限界だが、検索やリコメンドでパーソナルなニーズに即応するデジタル流通では桁違いのバラエティが競われる。このバラエティの桁感覚を超えないと優位に立てないから、POSデータで売れ筋に絞るという店舗小売業的な縮小均衡感覚とは相容れない。
2)オープン性  桁違いに豊富な品揃えを実現するにはオープン性が必須条件で、ライバル業者はもちろんリセール商品までプラットフォームに取り込み、自らのアカウント決済を他のECサイトにもオープンして品揃えを無限に拡張するアマゾンの戦略感覚は突出している。流通プラットフォームのパワーは‘品揃え品目数×顧客数’に比例するから、企業グループの際も新品とリセールの際もBとCの際も国の際も超えて品揃えと顧客を広げる者が優位に立つ。
3)在庫効率  アナログ流通では品揃えと店舗数を拡大すれば在庫の偏在で機会ロスと値引きロスが肥大し消化回転が悪化するが、出荷拠点が限られるデジタル流通では規模の拡大が在庫効率の悪化を招かず、むしろ規模のメリットが加速度的に高まって行く。当日翌日到着圏を拡大すべく出荷拠点を多少増やしたり店舗出荷を取り入れてもアルゴリズム引き当てで在庫効率は低下せず、EC比率が高まるほど加速度的に向上して行く。品揃えの規模が問われる流通プラットフォームでは店舗在庫の偏在を極力避けて出荷拠点(DC)に集中すべきで、タブレットを活用したショールーム販売などで店舗在庫の圧縮と品揃えの拡張を両立させる必要がある。
4)コスト  フルフィルメントを軸とした自社ECの売上対比運営経費率はカテゴリーにもよるが、年商十億円で25〜30%、百億円で20〜25%、一千億円で15〜20%と加速度的に低下するから、規模の拡大が運営経費率を悪化させがちなアナログ流通に対して圧倒的なコスト競争力がある。同じ売上なら運営経費率はほぼ半分に圧縮出来るから、EC比率が高まるほど収益性は加速度的に高まって行く。運営コストは在庫とその移動量にスライドするから、ネット受注や店頭受注で販売が確定してDCから顧客や受け取り拠点に直送する比率が高まるほどコストは下がる。
5)コンテンツに依存しないブランド力  流通プラットフォームの競争力はそのシステム効率と成果たる‘ブランド力’に在り、それに乗せるコンテンツに依存する度合いが低いほど収益性が高くなる。1)〜4)が突出すればプラットフォームのブランド価値が高まり、有利なコンテンツが自動的に集まって来る。アマゾンやZOZOTOWNなどブランド・プラットフォームの手数料率の高さ、その一方でのノンブランドECサービスの手数料率切り下げ競争を見ると、デジタル流通においてもアナログ流通と大差ない‘ブランド力’が問われる事が解る。

今、チェーンストアは何をすべきか

 顧客便宜と競争優位を求めてオムニチャネルな提供方法が競われる中、デジタル流通業者が受け取り拠点やショールーム店舗を広げ、アナログ流通業者もECを拡大し店舗をオムニチャネル拠点化していけば、両者の競争テーブルは限りなく重なって行く。便宜やコスト削減を求めて両者の提携や宅配業者との提携も広がるに違いない。そんなオープン戦略を当たり前として、デジタル流通プラットフォームに張れるオムニチャネルな便宜と効率を実現しない限り、前世紀のアナログ流通プラットフォームたる‘チェーンストア’が生き残る事は不可能だ。その実現へ、まず手がけるべきは以下の4点だと思われる。
1)コストに合わない古典的な店舗施設への投資を止める。ましてや死に体の化石業態を延命するための改装投資など即、打ち切るべきだ。その一方、残すべき店舗にはオープンあるいはドライブスルーな受け取り拠点などオムニチャネル便宜の施設を加えたい。
2)オムニチャネル化で店舗の生産性を高める。タブレット販売などで店舗在庫を圧縮して品揃えを拡張し、売上を伸ばし家賃負担を軽減し、物流作業を圧縮して労働生産性を高め、店舗要員の待遇を改善したい。
3)メーンフレーム系情報システムを脱してオープン&クラウド転換する。オムニチャネル化には物流過程も含めた在庫情報のリアルタイム連携が不可欠だから、会計管理システムの縛りを解き、商品マスターやEDIの標準化も急ぐべきだ。
4)組織ガバナンスを刷新し認識の浸透を急ぐ。オムニチャネル化とオープン・プラットフォーム化を加速すべく、組織内の縦軸(事業や店舗)と横軸(ECや物流)の評価と成果配分のルールを確立し、組織への浸透を徹底したい。

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