小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『古着ブーム再来は本当か
メジャー化に必要なこと』
(2022年01月18日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 オミクロン株の急拡大でコロナ禍の収束が見えなくなり、常態の復活を期待していたファッション業界には大打撃となりそうだが、ようやくお籠り生活を脱しつつあった22年の衣料消費はどうなるのだろうか。オシャレ大復活でY2Kなどニュートレンドが盛り上がるのか、はたまたTPOレスなルーズ服や精彩を欠く量産服が継続するのか、「古着ブーム」は本当に盛り上がるのだろうか・・・・

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■12月商戦は活況だったのか?

 コロナが一時収束して緊急事態宣言も解除された10〜12月は消費が回復し、12月商戦は活況が伝えられたが、衣料販売は回復が鈍かった。

 11月の全国百貨店売上は前年比8.1%増、同衣料品は10.4%増だったが、コロナ前19年比では92.6、衣料品は86.8と届かず、消費税増税前の18年比では87.0、衣料品は79.3と「回復」には遠かった。12月の大手百貨店既存店売上は三越伊勢丹が14.0%増、大丸松坂屋百貨店が13.7%増、阪急阪神百貨店が15.9%増、高島屋も9.9%増と好調が伝えられたが、19年比ではそれぞれ98.0、93.5、96.8、97.4と届かず、18年比では93.4、90.0、92.3、92.6と回復には遠い。各社とも国内客売上は回復してもインバウンドの消失を埋めきれず、高額ブランドが伸びても衣料品の回復は鈍かった。

 大手アパレルチェーンの12月既存店売上も、前年が好調だったユニクロ、ワークマン、西松屋、良品計画を除き前年を超えたが、19年を超えたのはしまむら(112.9)、西松屋(111.0)、ワークマン(104.4)の生活圏御三家、良品計画(107.5、但し衣料品は99.1)、ハニーズ(104.0)、TOKYOBASE(100.9)、ナルミヤインターナショナル(100.9)までで、ユニクロは94.4、アダストリアは91.2、ユナイテッドアローズは83.6、ワールドは81.3と回復には遠かった(以上は11日までの発表)。

経済産業省の商業動態統計はまだ11月までしか発表されていないが、小売業全体は1.9%増で19年比でも7.9%増だったが、衣服・身の回り品小売業は2.2%増でも19年比では88.0に留まる。20年に3.3%減少した小売業全体は通年で19年の水準を回復したと推計されるが、16.8%も減少した衣服・身の回り品小売業は回復には遠い。新品衣料の売上は厳しいが、中古衣料の売上はどうだろうか。

 

■リユース市場は拡大を加速

 リサイクル通信によれば、20年の衣料・服飾品(高級ブランドを除く)リユース販売額は前年から11.1%伸びて4010億円と大台に乗った。年々の伸び率は振れが大きいが、16年の1869億円からは2.15倍に拡大している。「衣料・身の回り品」小売売上に占める割合も16年の1.7%から20年には4.6%に急伸し、21年は5.5%まで拡大するとみられる。これは金額ベースの比率であり、平均して新品の3割程度の売価と見た(新品も平均2割引購入と見て)数量ベースでは15%に迫るから、もう立派なメジャービジネスだ。

決算を公表しているリユースの上場企業はGEOホールディングスぐらいしか見当たらないが、レンタルやメディアのリユースを除いたリユース商品売上(「2nd Street」が中核)は21年3月期で16.0%増、22年3月期も第1四半期が46.2%増、第2四半期が40.7%増と今期に入っての加速が目立つ。

 古着は先進国から放出され途上国に流れる国際商品であり、一人当たりGDPが4万ドル以上の国から2万ドル以下の国に流れるとされるが、日が沈む我が国は41,775ドル(20年)と瀬戸際で、非正規就業者や母子家庭、学生の多くは2万ドルに届かない途上国的生活水準にある。コロナ禍で低所得層への転落も増えているから、日本の半分は古着を輸入する途上国状態になっていると思われる。

 それを裏付けるのが中古衣類の輸入量急増だ。{有料への切り替え点はここが良いのでは}コロナ禍の20年は営業の制約や物流の混乱で6270トンと前年から6.0%落ち込んだが、21年は11月までの累計で7845トンと急増しており、このペースだと通年は8747トンと、前回ブームピークの8082トン(05年)を超えて記録を塗り替えることになりそうだ。需要の急増に連れ単価も上昇しており、11月までで877円/kgと前年の725円から21%も高騰している。

 高騰したとは言え18年頃の水準を回復しただけで、01年、02年頃のように1500円を超えるような動きではないし、高単価な米国品も数量で27%弱、金額で42.3%と急増している訳でもない。マニア向けのヴィンテージアメカジがブームとなった02年(平均単価1536円/kg)の米国品比率が数量で77.8%、金額で81.0%だったことと比べれば、今回のブームはマニアという枠を超えて広範な客層に拡がっていると捉えるべきだろう。

 それだけに、レアな「お宝アイテム」ではなく普遍的なシーズンアイテムが手頃な価格で豊富に揃うことが求められる。ならば米国のような先進放出国に限らずパキスタンやマレーシアなど中継仕分け国ルート(欧州放出品はオランダ)を拡大すべきで、親しみのあるブランドとなれば国内のウエス屋ルートやその放出品を仕分けた古着卸ルート(実際には輸入古着の仕分け品も多い)も活用するべきだろう。

 

■古着の供給は無限に近い

 客層も需要も拡大する中では適品の供給確保が問われるが、オフプライス品と違って古着の供給は無限と言っても良い。

二次流通でもオフプライスストアは適品の供給が限られて機動的な調達が困難だが、古着は国内でも海外でも過去の放出品蓄積が厚く、ルートを広げれば調達の拡大も容易だ。我が国に年間で供給される古着は国内品10.6万トン、海外品0.9万トンの計11.5万トンで3億5000万点ほどになるから、せいぜい800万点ほどの供給に留まるオフプライス品に比べれば格段に豊富で、品揃えの自由度は遥かに高い。どこかに難がある「売れ残り」のオフプライス品に比べて一度は購入された「実績品」であり、商品価値も証明済みだ。

世界の古着輸出総量は2011年の358万5000トンが18年には437万トンに増え、途上国に押し寄せて現地アパレル産業の発展を阻害し、廃棄物の押し付けになっているほどで(善意の寄付も同様な問題を起こしている)、先進国へのサステナブルな再循環が問われている。我が国の古着輸出量は世界の5〜6%(年度による)を占めるのに輸入量は世界の0.2%にも満たず、その差は39.3倍(19年)にも及ぶ。その偏りはサステナブルな循環を妨げる道義的課題である反面、ほぼ無限の供給力を裏付けている。

途上国の多くは国内アパレル産業保護のため中古衣類の輸入を制限あるいは禁止しているが(途上国とは言えない中国も禁止している)、古着販売で生計を立てる国民や安価な古着しか買えない国民も多いため制限しても隣国からの密輸が増えるだけで、根本的な解決策は見えていない。古着を大量放出する先進国をサステナブルでないと責めても、安価で上質な先進国の古着に対する途上国のニーズがある限り、古着の流入は止まらないだろう。

 

■「目利き」と「仕分け」が問われるが・・・

 古着は放出衣類(分別回収や寄付が主流でゴミではない)から分別されて流通するから「目利き」と「仕分け」が肝要で、業者による「仕分け」を経るほど再販価値が高まる一方、コストも上昇する。

「仕分け」には「目利き」が必要と言われるが、海外ルート放出衣類の仕分けは中継仕分け国(オランダやカナダを除けば途上国)の低賃金労働者が担っており、経験則に従って機械的に仕分けているだけで、先進国のファッション感度を備えている訳ではない。リユース可能なアパレルや服飾品だけを選別して男女子供、アイテム、素材で仕分け(一次仕分け)、圧縮して保管する。

一次仕分けのまま出荷するケース(アンタッチド・ベール)、バイヤーの注文に応じてテイストやクラス(時にはブランドも指定)、カラーやサイズなどで二次仕分けして出荷するケース(タッチド・ベール)があるが、後者は多少なりとも先進国のファッション感度を要するためコストが上がる。

国内ルートでも「ウエス屋」は工業用ウエス(雑巾)や反毛原料と並行して古着を回収しているのだから一次仕分けまでで、そこから程度の良いものは国内向けの古着として古着卸商へ流し、残りは中古衣料として海外へ輸出する。ついでながら、「ウエス」にも品質要求があって綿百%の柔らかな白無地新品がマストで、濃色の回収再生品は疎まれる(合繊混品は不可)。品質にこだわると放出衣類からの回収品を使わず、リネンサプライの回収品や新品生地から製品化するウエス専業者もある。

二次仕分けまでして古着卸を兼ねるウエス屋もあるようだが、二次仕分けの多くは古着卸商が担っており、「目利き」が問われる。その「目利き」を活かして輸入古着も扱う古着卸商も多く、ファッションストリートの古着屋で売られている古着は海外品、とりわけ北米商品(アメカジ古着)が目立つ。

古着の供給量は国内品10.6万トンに対して海外品は急拡大したと言っても0.9万トン弱に過ぎず、古着供給量の8%にも届かない。国内品の多くはメルカリやラクマなどネットのC2CやC2B2C型(買取販売)のリユース店で流通して古着業界(B2B集荷型)では目立たないが、圧倒的大勢を占めている。マニア感覚を抜けられず米国中心の輸入古着にこだわる古着業界の価値観と一般生活者の価値観には少なからぬギャップがあると推察される。

古着業界で言う「目利き」はレアなブランド・ヴィンテージ品やデザイナーズ・アーカイヴ品を見分ける力量を指すようだが、今の古着ブームはマニアではなく広範な生活者が担っており、事業を拡大していくのにそんな「目利き」が役立つとは限らない。古着屋の「目利き」より、新品アパレル販売にも共通する「MD構成力」や「適品調達力」が問われるのではないか。

 

■ブティック型よりストア型

 広範な生活者を対象とした今風の古着店を成功させるには「目利き」より「MD構成力」や「適品調達力」が問われるとなれば、店舗のスタイルもこれまでの「古着屋」とは異なってくる。

 マニア向けならテイストを絞り込んだブティック編集が受けるかもしれないが、広範な顧客を取り込むには季節の必需アイテムを豊富に揃えたアイテム集積が肝要で、豊富な品揃えを競えばセルフ選択の大型ストアになっていく。そんなニーズを捉えてファッションストリートで競い勝つには最低でも100坪、出来れば150〜300坪の大型店でライバルを圧倒するべきだろう。

 廃材やモルタルをむき出した秘密の倉庫めいた内装より、明るいナチュラル素材を使ったスーパーマーケット風の内装、マニア受けするハロゲン感覚(3000k)の照明より、女子受けするHID感覚(4000k)の照明が好ましい。

 小割りのコーナーを並べるよりスケール感のあるアイテム集積平場を構え、T字やシングルハンガーをごちゃごちゃ組み合すより、アイテム集積が明快なサークルハンガーや二段ハンガーをズラリと並べる方がボリューム感があって何より選択しやすい。とは言ってもブランド編集やテイスト編集を否定するものではなく、人気ブランドやトレンドテーマでまとめたコーナーがアイテム集積平場を補完する構成が好ましい。 

そんな大型売場を維持するには季節の適品アイテムを機動的に調達する体制が不可欠で、マニアに受けるレアアイテムを宝探しするようなマイニング調達では到底追っつかない。「目利き」の自社マイニングも否定しないが、国内外を問わず「仕分け力」のある古着卸商をフルに使って適品を「指定仕分け」調達する機動力が問われるのではないか。 

 

■立地もイメージもメジャー化する

 マニアックなフアンがわざわざ来てくれるマイナー立地で成功した古着店がメジャーな立地に出てくると、高い家賃に見合う販売効率を稼げず短期で撤退することも多い。

コロナ禍で売上が落ち込んだブランド店やチェーン店の撤退が相次いで家賃も下がり(期間限定が多いが)、裏路地はもちろん表通りにも古着店が広がって来たが、古着と相性の良い立地と悪い立地があるようで、女子軸の通りでは期待ほどには売れていない。原宿で言えば、キャットストリートや原宿通りはともかく、竹下通りは厳しいという違いだろうか。

かつてのマニア向けとは違って一般化したとは言え、やはり古着は特有の匂い(雰囲気)があって男子色が強く、キャピキャピした女子たちが闊歩する華やいだストリートとは相性が良くないようだ。それには世間が古着に持つ先入観も災いしているかも知れない。 

馴染みがないと古着を不潔に思う人もいるようだが、分別回収や寄付が大半の放出衣類から分別されるものであって、可燃ゴミとして捨てられた衣類、汚れたり濡れた衣類から古着やウエスが回収されることはないし、回収された古着はクリーニングと消毒、検針を経ているから、経年変化や傷みはあっても意外に清潔だ。ほつれやボタンの欠落などをリペアしてから販売している古着チェーンもあり、そんな事情を業界がもっとPRしていけば先入観に捉われる人も減って古着市場は一段と広がるに違いない。メーカー保証の「アプルーバルカー」が中古車のイメージを変えたように、古着チェーンの「アプルーバルウエア」「リペアドウエア」が古着のイメージを変えていくことが期待される。

古着のイメージが変わり、清潔感と開放感のある「リユースストア」が広がっていけば、女性客も増えて相性の良い立地も増え、古着店は次元を画したメジャービジネスに発展するのではないか。

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