小島健輔の最新論文

販売革新2012年6月号掲載
『SCの今日的分類』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 昨年末で日本ショッピングセンター協会の新定義による全国のSCは3090に達したが、立地や規模は元より形態も様々で、開発年次による相違も指摘される。そんなSCを基本的な視点に今日的視点を加えて分類してみた。
 1)立地による分類
 日本ショッピングセンター協会は「中心地域」「周辺地域」「郊外地域」に分類しているが、アクセス手段からに見れば「公共交通依存ターミナル立地」「公共交通・乗用車併用郊外ターミナル立地」「乗用車依存郊外立地」に分類すべきであろう。都心の駅上/駅前立地だと公共交通依存が大半を占めるが、郊外駅前などでは公共交通と乗用車が併用され、駅から離れた郊外立地では乗用車によるアクセスが大半を占める。併用郊外立地と乗用車依存郊外立地の境目は一般に駅から400mと言われるが、その間の環境や道路の歩き易さなどで多少の巾があるだろう。
 実際、多くのSCが来店手段の比率を調査しているが、乗用車百%であれば商業施設面積百平米あたり五台以上の駐車スペースが必要になる(高速道路を使って集客するアウトレットモールはその倍が必要)。公共交通や自転車、徒歩による来店比率が40%であれば同三台分で済むし、駅ビルなどで大半が公共交通依存であれば大店立地法に定める最低基準を満たしていれば済む。アパートやマンションが密集する再開発期のアーバンでは自転車来店比率が高く、駐輪場の確保が求められる。
 商圏の特性から立地を分類すれば、都市は「メトロポリス」(地下鉄などの公共交通機関が発展した大都市)と「地方大都市」(県庁所在地など)、「地方中核都市」に分けられ、それぞれ「ターミナル」、「アーバン」、「サバーブ」に分類される。アーバンは再開発期に入ってマンションやアパートが建て込む人口密度の高い市街地住宅地、サバーブは一戸建て中心で人口密度が低い郊外住宅地、と定義されよう。  アーバンもサバーブも所得水準や世代構成、世帯定着性によって特性が異なるから、「開発期低所得ニューファミリー型」とか「成熟期三世代高所得型」とか「再開発期新旧世代交錯型」など、実態に応じた分類が必要だ。メトロポリス圏では鉄道や地下鉄の沿線によって特性が異なる事が多く、距離的には近接していてもアクセスが異なる沿線を商圏に見なすのはリスクがある。横浜市北部における田園都市線沿線と横浜市営地下鉄線沿線、阪神間における阪急沿線と阪神沿線など、その好例であろう。
 都市部以外では人口密度が極端に薄い農林漁業地帯の「ルーラル」、観光地の「リゾート」があげられるが、どちらも人口密度が低い分、道路アクセスが良く広域商圏をカバーする施設でないと成立が難しい。
 2)商圏規模による分類
 どのような立地にあっても、足元対応に徹する小型施設から広域を狙う大型施設まで、商圏規模は戦略的に選択されるものだ。最も足元に徹するのが「コンビニエンス商圏」で、徒歩アクセスで五分を目安に立地によって半径300mから500mをカバーする。次に狭いのが「最寄りコミュニティ商圏」で、食品スーパーを中核に最寄り業種の専門店を加え、乗用車や自転車で5分ほどでアクセス出来る半径1〜1.5kmをカバーする。「拡大コミュニティ商圏」はSSMやGMSを中核に手頃な専門店街を加え、乗用車で9〜15分でアクセス出来る半径3〜5kmをカバーする。「リージョナル商圏」は百貨店やGMSを中核にカテゴリーキラーや百店以上の専門店街を加え、乗用車アクセス30分圏前後までカバーする。「スーパーリージョナル商圏」は百貨店やカテゴリーキラー集積に二百店以上の専門店街を加え、さらに広域をカバーする。
 リゾートやメトロポリス周辺に位置するアウトレットモールは高速道路を使った60分圏とさらに広域を設定するし、外国人観光客が多いメトロポリスのウォーターフロントやダウンタウンではアジア全域を狙うケースも見られる。阪急メンズトーキョーやダイバーシティ東京プラザはその好例と言えよう。阪急メンズトーキョーに隣接するルミネ有楽町店は南北に長い東東京スーパーリージョナル商圏に対応しており、同じ立地、同じ規模であっても商圏規模が戦略的に選択されるという好例だ。
 コンビニエンス商圏からスーパーリージョナル商圏まで、狙う商圏規模を広くするほど施設の規模を大きくしないと競合でシェアを確保出来ないから、規模が限られる場合はコンセプトやカテゴリーを絞って特定分野のシェアを確保する戦略も選択される。一般に、同じ規模なら商圏を狭く設定するほどシェアが高まって成功率が高くなり、広く設定するほど競合が厳しくなって失敗リスクが大きくなる。勝算もないのにやたら商圏規模を大きく設定するのは避けるべきであろう。
 3)構成手法による分類
 郊外立地の施設は核店舗に専門店街を加える構成が大半で、「一核箱型」、「一核ワンモール型」、「二核ワンモール/ツーモール型」、「三核トライアングル型」などに分類される。近年は百貨店やGMSが低迷して核店舗より専門店街の方が集客力が高く、核店舗をSSMだけにしたり核店舗抜きで専門店のバラエティを拡げるケースが増えている。その方が売上も家賃収入も確実に高くなるから、「核抜きモール」が主流になっていくのは当然であろう。都心立地の施設では、かつては核のない専門店だけの商業ビルが主流だったが、近年では上層階に大型専門店を配してシャワー効果を狙うケースが増えている。
 業種業態構成は郊外では全方位をカバーする「総合型」がほとんどだが、競合の激しいターミナル立地では衣料・服飾に特化したファッションビルの他、インテリアやスポーツ、HBAやキッズ関連に限定した「カテゴリー特化型」が少なからず見られる。飽和が指摘されるアウトレットモールでも、今後はカテゴリー特化型が出て来るのではないか。
 大規模な再開発などでは商業施設だけでなく、オフィスやホテル、レジデンスなどを複合するケースが見られるが、ターミナル立地では「バーチカル型」、郊外立地では「ホリゾンタル型」の配置になる事が多い。
 4)建築手法による分類
 SCの建築方式は地価の安い立地では容積率を使い残した軽量鉄骨平屋の「オープンモール型」、地価の高い立地では容積率を目一杯使ったRC建築の「多層ビル型」、その中間に中層の「クローズドモール型」が位置付けられるが、二層の軽量鉄骨建築で投資を抑えるか上部に駐車場を乗せた堅牢なRC建築の3〜4層とするかは敷地の余裕や地価で左右される。また、リゾートのアウトレットモールなどでは二層軽量鉄骨建築のオープンモールとするケースもあり、「クローズドモール型」でも一部に「オープンモール型」の区画を設定して開放感を訴求する「ハイブリッド型」の建築とするケースもある。
 5)運営手法による分類
 商業施設は運営方法でも分類されるべきだ。定期借家契約が定着した今日では路面の賃貸物件に限られるようになったが、素人デベロッパーでは不動産賃貸に留まって商業施設としての一体運営を欠くケースもまだ多い。そんな例外を別にして、核店舗企業が実質的にデベロッパーを兼務する「併営型」、核店舗企業とは独立したデベロッパーが運営する「専業型」に分類されよう。
 量販店系のSCではデベロッパー会社が分離していても親会社の意向が強く反映されるケースが多く、実質的には併営型と見なさざるを得ないデベもあり、テナント企業の評価も低い。専業型の中では定期借家契約期間を3〜4年と短くしてテナントの入れ替えを高頻度に行う「時流対応型」、5〜6年と長くしてテナント構成の安定と入れ替えをバランスする「通常型」に分けられる。郊外SCは通常型がほとんどだが駅ビルは時流対応型が多く、退店時の消却負担リスクが指摘される。
 この他、百貨店が運営コストの削減と駅ビル系ブランドの導入を図って開発する「ハイブリッド型」が注目されるが、百貨店の部門構成とテナント業種配置のギャップ、百貨店型内装規制と駅ビル型内装規制の相違による混乱など解決すべき課題も多い。
※東西必見SC
●東日本 1)ららぽーとTOKYO−BAY
     2)東京ソラマチ
     3)ダイバーシティ東京プラザ
     4)テラスモール湘南
     5)イオンレイクタウン
●西日本 1)ルクア
     2)あべのキューズモール
     3)阪急西宮ガーデンズ
     4)JR博多シティ(アミュプラザ)

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