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『衣料品の季節MD展開はどう変わるべきか』(2020年02月05日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_dd0d408142b1e2c832c8fc7a5675905c798306ユナイテッドアローズは従来の6シーズンMDから細分化した8シーズンMDに移行している

 昨年の冬商戦は消費増税に暖冬も加わって衣料品販売は百貨店からユニクロまで大苦戦となったが、過剰供給が慢性化しEC先導で年々セール時期が早まる中、どうやったら売上げも利益も確保できるのか、定石も方程式も見えなくなっている。そんな苦境を打開すべくデジタル生産によるオンデマンド・サプライやAIを駆使した需要予測が模索され、ユナイテッドアローズは従来の6シーズンMDから細分化した8シーズンMDに移行し、ストライプインターナショナルは14の気温別MDへの転換をもくろむが、それでは現実の在庫回転の倍も3倍ものMDを投入することになる。シーズンMDの細分化は実需対応力を高め在庫回転を円滑化するのか、はたまた過剰な投入でかえって悪化させてしまうのか、根本から考えてみたい。

温暖化ってホント?

 毎冬のように「暖冬」が販売不振の元凶のようにいわれるが、ホントにそうだろうか。

 気象庁に記録が残る1876年からの推移を見ると、1880年代から1950年代までは気温が低く今とは逆に寒冷化が危惧されていたが、60年代から暖かくなり始めて1980年代以降は急速に温暖化が進み、2000年以降は西日本から中部の太平洋側は亜熱帯化するほど温暖化し、1世紀前からは3度近く平均温度が上昇している。20世紀の100年間で北半球の気温は1.0度しか上昇していないから、わが国の温暖化は突出している。

 だからといって今後も温暖化傾向が続くとは限らず、異常気象の頻発など地質気象学的には周期相から乱雑相へ転じて10年単位では小氷期入りも危惧されているから線型的に温暖化すると見るのは早計だが、2020年代の前半というレンジに限れば温暖化、とりわけ冬季の最低気温上昇が進むと見て良いだろう。

 夏場が暑くなったからといって下着を除けば需要が伸びるわけではないが、冬場の最低気温が上昇すれば防寒衣料の需要は確実に低下する。ヒートアイランド化が進み空調も効いた大都市の生活では防寒衣料の需要は減退し、カントリーやリゾートのアウトドア需要にシフトしていく。実際、防寒アウターの販売動向はその通りになっている。

 加えて非正規雇用の拡大とともにビジネスシーンのカジュアル化も急進しており、パンプスがスニーカーに替わるようにウールコートからダウンや中綿のアウターへ移行している。とりわけブランドもののダウンアウターはこの10年ほどで急拡大しており、その分、既存ブランドの防寒アウターが食われたことは言うまでもない。

 温暖化もともかくライフスタイルとウエアリングの変化が防寒アウター市場を萎縮させており、防寒アウターが主力の11〜12月売上げが年間の百貨店衣料売上げに占める比率は08年の19.44%から18年は18.97%、19年も18.07%、婦人衣料売上に占める比率も18年の18.69%から19年は17.88%に低下している。

 防寒アウターの需要減にボーナス支給が限られる非正規雇用の拡大などによる12月の売上低下も加わって年間売上げに占める冬期シェアが低下する一方、他シーズンをかさ上げするアイテムも広がらないまま単価ダウンが進み、衣料消費総体の萎縮が進行している。

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セール時期後倒しには無理があった

 コストを抑えるべくの遠隔地大ロット生産で企画時期と販売時期が半年前後も離れて需給ギャップが拡大し、過剰供給も相まって年々セール時期が早まり、消化歩留まりが悪化してきた。

 80年代初期と比べて夏の本セール開始時期は3週間早まり、冬の本セール開始時期も若干早期化したが、それは表向きの結果論にすぎない。本セールに先行するプレセールの早期化やECでのクーポン販売の氾濫など、実質的な値崩れの早期化が消費者のプロパー買い控えを招いている。

 百貨店ブランドなど80年代初期に比べれば原価率が半分以下に切り詰められてお値打ち感が激減したのだからプロパー購入に躊躇する顧客が増えるのも致し方ないが、お値頃価格を売り物にするSPAにしても大ロット先行生産がもたらす需給ギャップを値引き販売で埋める荒っぽい在庫運用が日常化しており、『ちょっと待てば安くなる』と買い控える慣習が広がっている。その挙句に誰もプロパー価格で買わなくなって販売不振に陥った「GAP」を例外と言えないのが業界の現実だ。

 過剰供給と見切り発車の大ロット先行生産をやめない限り値崩れの早期化は必定で、業界ぐるみでセールの後倒しをもくろんでも顧客が他に流れるだけで解決にはならない。12年の夏セールから三越伊勢丹とルミネが音頭を取って無理押ししたセール時期の後倒しも冬セールは三越伊勢丹が16年から、ルミネも17年から元に戻し、夏セールも三越伊勢丹は18年から他百貨店と同列に戻し、ルミネも19年では本セールは7月25日から開始でも6月21日からプレセールを始めている。

 価格カルテルまがいの業界ぐるみセール時期後倒しも過剰供給と需給ギャップという現実の前にはあえなく崩れ、以前にも増してEC先行の値崩れが広がる中、それぞれの企業が独自のMD展開とオンデマンド調達で値崩れを回避する工夫が問われている。

衣料品の賞味期限と鮮度管理

 生鮮食品や加工食品に比べれば衣料品の賞味期限は極めて曖昧で、賞味期限管理も食品業界のように緻密には行われていない。

 廃棄ロスにつながると批判もあるものの、食品業界には「3分の1ルール」というのがあって賞味期限の3分の1を過ぎると小売店への納品ができなくなり、3分の2を過ぎると小売店は返品できる。期限が過ぎて納品できなくなったり返品された商品を仕入れて安売りする小売りチェーンもあるから、グロサリー食品の最終廃棄率は2%未満、生鮮食品でも8%にとどまる。それに比べれば、過半が売れ残って廃棄されたり二次流通市場に流れる衣料品業界は需給管理も賞味期限管理もデタラメな暗黒業界と言わざるを得ない。

 数多のアパレルチェーンやアパレルメーカーと関わってきたが、タグに賞味期限を表記する企業は皆無だったし(投入週をバーコードに入れるケースは多い)、定期的にフェイシング管理して賞味期限が迫る商品をピックアップする企業など1社も無かった。

 衣料品は適正な環境(遮光/遮虫/遮湿)で保存する限り物性的には数十年は変質しないが、トレンド的には3シーズン(3年)で商品価値が毀損する。期せずして薬事法が定める化粧品の賞味期限(未開封)と一致するが、薬事法が物性的な期限を定めるのに対し、衣料品はほぼ3年でフィットやデザインのトレンドが変わることが主たる要因だ。買取販売型の古着店では人気ブランドやヴィンテージ品を除き、購入後3年以内を買い取りの対象としているところが多い。

 衣料品とりわけアパレル商品の現実的な賞味期限は需給で決定される。需要に対して供給が追い付かない間は市場に出て何週たっても賞味期限は訪れないが、需給が崩れてしまえば市場投入直後から賞味期限切れになることもある。

 アパレル商品は店頭投入から実需期まで通常4週を要し、継続補給の定番商品でない限り、そこから4週以内に売り切るのが理想とされる。投入から実需まで4週を要するのは、先行投入で反応を見るという業界の慣習、周辺のライバル店を含めてシーズンの全容が顧客に見えて選択の基準が定まる、という二面が要因と思われるが、幾度SPACメンバーにアンケートを採っても4週より長くなることはあっても短縮されることはなかった。この4週というプレ期間を縮めるのは店頭販売では難しく、ECの先行受注で短縮するしか方策は見えない。

 賞味期限はライバル企業の類似品も含めた需給の結果としての消化進行で判断され、予定した最終消化期限までの週次の消化進行率が一定基準を割った時点で対策が発動される。ユニクロのようにキックオフを仕掛けたり、一部をECモール店に回してクーポン発行(一種のキックオフ)の対象にするのが一般的だが、ギャップが大きい場合は早々にアウトレットに回したり二次流通に放出することもある。

 これらは全て本部のDB.(在庫配分・運用職のディストリビューター)やバイヤー/マーチャンダイザーがPOSデータのアルゴリズムやAIの警告に基づいて判断しているが品番単位の最速消化という“全体最適”に偏り、各店舗が品揃えのバランスや販売力も加味して判断する“個別最適”より格段に粗く、値引きロスを肥大させている。POSデータのアルゴリズムやAIをベースとしても、食品業界のように各店舗の棚を実見してフェイシングと賞味期限を管理すれば、衣料品の消化歩留まりも少なからず改善されるのではないか。

シーズンMD展開の実勢と在庫回転

 前述したように、アパレルの賞味期限は継続補給の定番品を除き、ワンシーズンはプレ4週+実売4週の計8週、年間6回転が基本となる。「52週MD」などと称されるのは、その販売消化進行を週サイクルに管理・対応するもので、52シーズンのMDを投入するわけではない。

 短サイクル小ロット投入で売り切り回転させていくファストファッション(キャリー型ならホントの52週MDが可能)、あるいはミニマムな店頭在庫をVMIで短サイクル補給するサプライ体制を除けば、これ以上の回転は望みにくい。企画から投入までリードタイムに数カ月を要する通常のアパレルビジネスでは6回転を基準にシーズンMD展開を設計することになる。

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 わが国のアパレルマーケットでは、かつては秋/冬/梅春/春/初夏/盛夏の6シーズンが基本だったが、温暖化で残暑の初秋が長くなり秋が極端に短くなって消化が見込めなくなり、冬もプロパーでの引っ張りが困難になって梅春が前倒される傾向にある。春夏もセールの前倒しで投入がドミノ倒しに早まり、盛夏は晩夏に変質してGW前から投入され、初夏の投入も3月の連休前まで早まり、夏セール後の空白期間が年々拡大している。

 大まかながらプレの立ち上がり時期は初秋が8月20日頃(実需は9月中旬から10月上旬)、秋はなく、冬が9月末(実需は10月下旬から11月下旬)、梅春が11月上旬(実需は11月の下旬から12月の下旬)、春が1月末(実需は2月下旬から3月下旬)、初夏が3月中旬(実需は4月中旬から5月上旬)、晩夏(暗色肌離れ素材)が4月下旬(実需は5月下旬から6月下旬、夏セール第1弾の対象外)という6シーズンが近年の実勢だ。晩夏と初秋の間の空白の2カ月間をセールだけで埋めるのは難しく、秋トレンド晩夏素材のアウターやボトムが試みられているが売上げの取れる決定打は見えていない。

 衣料品販売では8月は6%前後と最もシェアが低い空白月で、紳士服は5%前後ともっと低く、婦人服でもキャリア〜ミセスは4%前後とさらに低い。ちなみに化粧品は月による波動が小さく、8月も8%前後と落ち込みが見られない。いっそ学校のように夏休みにして従業員のバカンスに充てた方が下手に在庫も抱えず賢明だと思うが、それには8月を商業施設の最低保証家賃制の例外月にする必要がある。

 この6シーズンに夏の空白期間を埋める晩夏的初秋?あるいはアウトドアリゾート、梅春と春の間に初春スポットあるいはクルーズ(欧米式の避寒リゾート)を設定して6+2とすることもできるが販売期間が短く消化が困難で、トランジットシーズンとして定着するのは難しい。

 中小規模のバイイングSPAやミニマム在庫VMIを除けば衣料品の在庫回転は6回転が上限で、ユニクロや無印、H&MやZARAなど大規模調達のSPAは2〜4回転にとどまる現実を見る限り、在庫消化が見えない多シーズン化には成算が見いだせない。販売期間と在庫回転の現実を無視して多シーズン化するより、基本の6シーズンをオンデマンドに回して消化歩留まりを最大化する個別最適DB.と短サイクル調達に注力するのが現実的ではないか。

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