小島健輔の最新論文

販売革新2001年7月号、短期連載最終回
『小島健輔のゼネラルマーチャンダイザー再生論3』
“標準化で時代の求める提供方法をパッケージせよ”
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 最終回はゼネラルマーチャンダイザーのチェーンオペレーションがどうあるべきかという基幹課題から、その再生の方向を提じてみたい。この課題は標準化と集中の原則論とされながら、実は時代のトレンドで大きな振幅を描いてきた。それは標準化とカテゴライゼーションの相克と言ってもよいだろう。

カテゴライゼーションの罠

 ゼネラルマーチャンダイザーの本質が個店対応の最適品揃えだとすれば調達方法は多様化せざるを得ないと論じたが、調達方法の多様化が業務プロセスや提供方法の多様化に直結してしまえばカテゴライゼーションの罠にはまってしまう。後述するように提供方法を統一すれば業務プロセスも標準化可能で、調達方法が多様化してもカテゴライゼーションは回避できるが、現実には積極的にカテゴライズしてしまうケースが多い。
 調達方法の多様化が業務プロセスや提供方法の多様化に直結すればオペレーションは複雑化するから、レギュラーオペレーションの枠を出た部分はカテゴライズしてアウトソーシングするか(コンセ)、別系統のチェーンオペレーションに乗せざるを得なくなる(専門事業部)。が、カテゴライズ部分が肥大していくと全体のオペレーションコストは確実に上昇していくから、どこかでカテゴライズのメリットをコストアップが上回ってしまい、コスト競争が重視される局面になれば一転して統一オペレーションへと回帰することになる。
 これがゼネラルマーチャンダイザーにおけるチェーンオペレーション政策の振幅と呼ぶべき現象で、専門店との競争を意識すればカテゴライゼーションが進み、ディスカウンターとの競争を意識すれば統一オペレーションへと回帰する。量販店における最近のスーパーセンター型業態の開発は提供方法の革新とともに、過度にカテゴライズされて運営コストが上がってしまった既存業態への反省からの統一オペレーションへの回帰でもある。百貨店でも過度なブランドショップ依存による同質化とコストアップへの反省から、最近は商品本部による業態化平場の開発がトレンドとなっているが、これも統一オペレーションへの回帰と言えよう。
 運営コスト面でも消費者にとっての便宜性という面でも、ゼネラルマーチャンダイザーの存在意義は統一された提供方法のパッケージにあるから、過度なカテゴライゼーションでコストが上昇し提供方法が複雑化してくると、必ずや新世代のゼネラルマーチャンダイザーの台頭を招く。様々な出店規制と流通慣行下で提供方法とチェーンシステムの革新が進まず、いびつにカテゴライズされてしまった日本のゼネラルマーチャンダイザーにとって、外資ゼネラルマーチャンダイザーが統一された提供方法とチェーンシステムを武器に進出してくる今日、統一オペレーション(標準化)と統一提供方法への回帰が急務なのではないか。  

配分の組織分担と標準化

 調達の多様化が配分・物流と店舗運営のオペレーションを複雑化させると言っても、これらの組織的業務分担が適切であり個々の業務プロセスが標準化されていれば、コスト上昇を最小限に押さえてカテゴライズへの臨界を遠ざけることが出来る。店舗運営については後で論じるとして、まずは調達・配分の組織分担の原則を再確認しておきたい(物流は別の戦略課題として今回は触れない)。
 調達組織の責任は全体の数量発注、売価とコスト(値入れ率)、納期と品質、フォローであって、個店における消化と粗利実現には及ばない。それを分担するのが各店配分・消化管理を任務とするディストリィビューターであり、担当する商財の最速・最高歩留まりでの消化と機会損失回避を責務とする。消化だけを追求すれば高効率店舗から優先配分していく傾斜配分・補給方式に流れるが(メーカー直営店に多い)、品揃えとその維持(機会損失回避)を重視するならフェイス設定配分・補給方式(棚割り台帳方式)になる。提供方法と売場運用の標準化を重視するチェーンストアではフェイス設定配分方式が基本となるが、陳列をきちんと指定出来るならスポット商品や流行商品は傾斜配分方式と使い分けても良い。
 バイヤー(MD)とディストリビューターの分業で調達と配分は分担出来ても、個店の品揃えバランスは制御出来ない。各カテゴリーから送り込まれる商品を横断して個々の店舗の実態に即した最適品揃えに制御する役割が必要で、配分サイドと営業サイドの両面から試行されている。前者ではシニア・ディストリビューターやコントローラーと呼ばれ、送り込み側で各カテゴリーを横断して品揃えと在庫をコントロールする。後者ではスーパーバイザー等と呼ばれるがラインとしての役割が曖昧で、配分サイドに店舗の実態を伝えるスタッフ的役割と考えられる。
 調達・配分・店品揃えの三つの機能が分担しあってチェーンストアのマーチャンダイジングが行われるが、三権分立などという論理は成り立たない。商品計画が頂点に立って提供方法の視点からモデル品揃えを立案し、それを店タイプ別にディストリビューション・プランナーやスーパーバイザーが展開設計し、それをカテゴリー/カセット別に集計したものが調達の基準とされるべきで、配分もそれに基づいて行われる。
 スーパーバイザーは営業サイドに置くとしても、ディストリビューション・プランニング、調達、配分、品揃えコントロールの基幹機能は密接に連係していて分権は出来ないから、商品本部内で組織分担すべきと考えられる。ちなみに、店舗におけるカテゴリーとカセットのレイアウトはディストリビューション・プランナーとスーパーバイザー、カセット内の棚割り設計はマーチャンダイザーの分担とすべきである。このようにすれば、品揃えと提供方法の枠にそって配分が効率的に行われるはずだ。
 チェーンストアは分権と標準化が原則と言われるが、現実には分業であって分権ではないし、標準化は提供方法と業務プロセスを統一した上で個店対応する枠組みという性格が強い(CVSは徹底している)。それは量販店でも百貨店でも同様で、要は目的と手段のはき違えにならない事だ。 

店舗運営の標準化

 多くの部門とカテゴリーで店舗が構成されるゼネラルマーチャンダイザーでは、店舗の管理・運営という横軸と商品の送り込み・陳列運用という縦軸が複雑に交錯しがちで、どう割り切るかでオペレーションコストがまったく違ってくる。縦軸を優先して売場運営をカテゴライズしすぎると売場運営単位が小間割りになって人件費負担が重くなるし、横軸を優先して売場運営を統一すると運用力や販売力が低下しがちだ。前者の悪例が百貨店で、小間割りのコンセショップや平場の運営コストが収益を圧迫し、売価に跳ね返っている。
 棚割りがきちんと指定され提供方法が統一されていれば、調達方法が多様化しても商品の送り込みと売場運用の標準化は可能だから、特別な接客や運用が不可欠な部門やカテゴリーを除いてはカテゴライズの必要はない。百歩譲って特別な接客が必要だとしても、そのような機能が提供されさえすれば、必ずしも売場運営を区分する必要はないはずだ。売場に設置したTVフォン等による遠隔接客はコスト面でも現実的になったし(ローラースケートで飛んでくるよりは遥かに現実的だ)、衣料品では集中フィッティングへのアドバイザーの配置が効果的だ。
 運営コストを圧縮するには提供方法・運用方法を統一した大割りの売場編成にするのが基本で、徹底すれば全部門、全カテゴリーを統一の提供方法・運用方法でくくったカルフールのような売場になる(エンターテイメント食品を除く)。そこまでは出来なくても、ファッション関連、住関連をそれぞれにSSMのような統一パッケージにくくることは可能だ。それはアベイルやバースデイ、シャンブル(すべてしまむらの新業態)が証明しているではないか。もっと手近かに、コンセのブランドショップ群をワン・パッケージにまとめて運用することも出来る。
 百貨店にしても量販店にしてもファッション関連や住関連は過度にカテゴライズされており、提供方法も運用方法も微妙に異なっているが、消費者から見て本当にカテゴライズした方が便利かは疑わしい。最近の好調業態に見るように、むしろ提供方法を統一したほうが買い易いのではないか。百貨店や量販店が提供方法を統一して運営を一体化した大割りパッケージで構成されれば、運営コストは飛躍的に圧縮されるはずだ。
 チェーンストアにおける標準化は品揃え面では個店対応の枠組みとなる一方、店舗運営においてはストレートにコスト効果を発揮する。加えて、統一された提供方法のパッケージが顧客の購買慣習を創造し、独自のマーケットを確保することが出来る。消費者にとって本当に便利な、時代の求める提供方法を構築する武器として、標準化を如何に活用するかがゼネラルマーチャンダイザー再生のキーとなるのではないか。 

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