小島健輔の最新論文

ファッション販売2012年1月号掲載
『ファッション業界を読み解く6つの論点』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

一の論点)自社開発かODMか

  商品開発の手法は大きく自社開発、OEM調達、ODM調達の三つに分かれる。アパレルの商品開発はMD設計、デザイン企画、仕様開発(パターンを含む)、ソーシング(素資材と工場の手配)、生産管理、生産・仕上げからなるが、そのすべてを貫徹する自社工場生産は一部の高級ブランドを除けば極めて例外的だ。ここではMD設計から生産管理まで自社で行うものを自社開発、MD設計とデザイン企画、仕様開発まで自社で行ってソーシング以降をアウトソーシングするものを本来のOEM調達、MD設計とデザイン企画のみ自社で行って仕様開発以降をアウトソーシングするものを商社OEM調達、MD企画のみ自社で行ってデザイン企画以降をアウトソーシングするものをODM調達と定義したい。
 国内生産が主流だった80年代まではブランド商品の開発はデザイナー/パターンナー/生産管理を抱えての自社開発が主流であったが、90年代以降、生産地が中国などのアジアにシフトする過程で生産を商社などに委託するOEM調達が急増し、ブランド企業から生産管理スタッフが消えて行った。生産の海外移転とともに国内テキスタイル業界が空洞化して生産地素材が主流になるにつれ、生産のみならず仕様開発も商社に依存する商社OEM調達が増え、デザイン企画まで専門商社などに依存するODM調達が蔓延するに及んで、ブランド企業からパターンナーもデザイナーも消えてしまった。今や、デザイナー/パターンナー/生産管理を抱えて自社開発を貫徹するブランドは希少となり、仕様開発と生産を外部に依存する商社OEM、デザイン企画まで専門商社や企画業者に依存するODMが主流と成っている。
 自社開発では完成度とキャラは高められるが開発期間が長くなってプロダクトアウトになり、労務的な限界もあって企画頻度が低く鮮度を保ち難い。加えて、生産ロットが小さいと開発固定費(開発スタッフの人件費など)が重く、価格が割高になってしまう。商社OEM調達では一定の品質は確保出来るが、商社出来合いの素材や仕様に乗せられて同質化しがちだ。ODM調達では大半がアウトソーシングされるため労務的制約がなく、開発期間が短く企画頻度も高いからマーケットインのスピードが速いが、流通素材で同質化しがちで完成度も低くなる。  総じて自社開発は品質やキャラクターを訴求する上級品向き、商社OEM調達は手堅いベーシック中級品向き、ODM調達は安価でファストな大衆品向きで、価格も自社開発がアパーモデレート以上になりがちなのに対し、商社OEM調達はロワーモデレート、ODM調達はアパーポピュラーになることが多い。109市場を例にとれば、バロックジャパンの基幹ブランド(マウジーやスライ)は自社開発で完成度が高いが企画頻度が限られて変化が乏しく、価格は単品で一万円前後もする。これに対してセシルマクビーはODM調達で企画頻度が高くマーケットインのスピードが速いが完成度は今ひとつで、価格は前者の四掛けと極めて手頃だ。
 ユニクロは自社開発でもロットが巨大だから安くて完成度が高いが、開発期間が一年前後と長くプロダクトアウトにならざるを得ない。対極のフォーエバー21はODM調達で速くて安いが、完成度は期待すべくもない。自社開発のキャラクターブランドは完成度は高いが遅くて高い。安くて速くて完成度の高い開発は不可能なのだろうか。私は可能だと思う。
 不可能を可能にする突破口は「リアルマインド」に他ならない。「リアルマインド」とは開発手法にかかわらず、労苦を厭わず完成度を追求する誰かが確実に存在する事を意味する。アパレルの開発、とりわけ生産段階の試作には工場に泊まり込んでの詰めが不可欠で、それをやり抜いてくれる誰かが存在するか否かで商品の完成度は大きく左右されてしまう。そのキーポイントは『私の企画した商品を完成させたい』という願望に尽きるのではないか。
 自社開発ではデザイナーと一体になった生産管理スタッフ、ODM調達でも業者のデザイナーを本気にさせれば「リアルマインド」が成立するが、発注者の企画を生産するだけの商社OEM調達では誰も詰め切ってはくれない。コストとスピードを優先するならODM調達で、発注者のデザイナーが業者のデザイナーの技とやる気を引き出して「リアルマインド」を実現するのが現実的だ。バイヤーの仕入れ感覚でODM業者を使っては決して「リアルマインド」は引き出せないと肝に銘じて欲しい。

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