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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔がまとめた「商業施設デベ評価ランキング2019」』 (2019年05月10日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 05年以来、当社が主宰するSPAC研究会で発表している出店アパレル企業による商業施設デベ評価ランキング。その2019年版から要点を紹介したい。少子高齢化と核家族の崩壊、都心回帰で郊外SCデベの人気凋落が止まらず、都心施設デベとアウトレットモールデベがランキングの上位を占めた。
     
※12年までは9月、13年以降は4月の年1回集計。ランキングは「立地開発」「施設レイアウト」「テナントミックス」「プロパティマネジメント」「情報開示」「売上対比不動産費率」「オムニコマースへの姿勢」の7項目の総合点。

アウトレットモールデベの人気が急上昇

 ランキングの1位は10年連続のルミネ、2位は前年の5位から急上昇の三井不動産アウトレットパーク、3位は1ランクダウンのアトレ、4位は7位から急上昇の三菱地所・サイモン(プレミアムアウトレット)、5位はワンランクダウンの三井不動産RSC、6位は3ランクダウンのパルコ、7位は1ランクダウンの東神開発、8位は1ランクアップの阪急阪神ビルマネジメント、9位は1ランクダウンの東急モールズデベロップメント、10位は前年と変わらず三菱地所だった。ベスト10の顔ぶれは変わらなかったが順位が変動し、アウトレットモールデベ2社のランクアップとパルコのランクダウンが目立った。
 セールの氾濫がもたらすブランド商品の正価不信、フルサイズ百貨店をはるかに上回るブランド集積とディスカウントの魅力がもたらす絶大な集客力、家賃対比の販売効率の高さがアウトレットモールの人気を押し上げたと思われる。アウトレットモールデベはリーマンショック直後の09年(1位三菱地所・サイモン、3位三井不動産アウトレットパーク)、アベノミクス前夜の経済停滞を反映した14年(2位チェルシージャパン、3位三井不動産アウトレットパーク)にも上位を占めており、過去3年間はベスト3に上がってこなかったから、インバウンド効果だけでなく景気の後退も反映しているのではないか。
 アウトレットモールデベの人気は安定しており、三菱地所・サイモン(13年まではチェルシージャパン)はランキング開始以降、11年の8位より落ちたことがなく、三井不動産アウトレットパークもRSC(ららぽーと主力)と分けて集計するようになった09年以降、ベスト5から落ちたことがない。三井不動産はRSCの評価も高く、立川立飛など苦戦するSCもあるがベスト6から落ちたことがない。
 パルコは定借契約への切り替えが遅れて駅ビルに鮮度で競り負け15年まではベスト5の圏外だったが、オムニコマースへの積極姿勢が注目された16〜18年はベスト3に入っていた。宇都宮、熊本と閉店が続く一方で上野、錦糸町の新設店も「ファッションビル」を脱皮する新しい姿が見えず、オムニコマース戦略にも進展がないことが評価を下げたと思われる。6月末のサンエーパルコシティ、秋の渋谷パルコ(建て替え)の評価次第で再び上向く可能性はあるが、ファッションビル系ではOPA(21位)も評価が低い。
 07年まで3年連続でトップに君臨していたイオンモールはダイヤモンドシティやイオンリテール開発部門の合併で評価が下がり、新規開発の失敗に14年以降は都心回帰も加わって下げが加速。18年には16位まで落ちていたが、リスクの高い新規開発を抑えて確実な既存物件の増床に注力したことが評価されてか12位まで戻している。量販店系デベは15位に入ったイズミが上限でフジが17位で続くが、以下はイトーヨーカ堂(23位)、西友(25位)などベスト20の圏外。イオンタウン(24位)、大和リース(26位)など郊外小商圏SCデベも相変わらず評価が低い。
     

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ECの拡大がテナントのバラエティを要求

 イオンモールなど量販店系デベに対する評価が低落しているのには、ECの拡大も影響している。ブランドぞろえが千を超えるファッションECモールに比べれば、ブランドぞろえが百にも届かず都心型高感度ブランドも欠く郊外SCは選択肢が限られる。わざわざ時間とお金を使ってリアル商業施設に出掛けるのなら、ブランドのバラエティがそろう施設が選ばれるのは当然だ。
 核店舗のGMSが大面積を占める量販店系デベのSCはSM核のららぽーとなどに比べて同一規模で50店前後も専門店が少なく、衣料・服飾テナント比率の低さもあってブランドぞろえが半分ほどに限られるから、ファッション目当ての顧客は足が遠ざかる。ほぼ同時期に開業したほぼ同規模のららぽーと名古屋みなとアクルス(18年9月開業/店舗面積5万9500平米)とイオンモール津南(18年11月開業/店舗面積6万平米)では、前者のテナント数217店/衣料店67店/衣料店比率30.8%に対し、後者はテナント数172店/衣料店38店/衣料店比率22.1%と専門店も衣料店もバラエティの格差が大きい。郊外駅前立地のSCで比較すれば格差は一段と開き、店舗面積5万4000平米のららぽーと海老名が263店/衣料店77店/衣料店比率29.3%に対し、店舗面積5万6000平米のイオンモール堺鉄砲町は159店/衣料店33店/衣料店比率20.8%にとどまる。
 出店専門店の評価が厳しいのは実質家賃(共益費/販促費など含む)が売上げに見合わないこともあるようで、専門店テナントの3分の1以下といわれる核店舗の低過ぎる家賃が専門店テナントの家賃にしわ寄せされているという被害者意識が背景にある。実際、郊外大型SCの売上対比不動産費率は家賃も販売効率も格段に高い駅ビルと差がなく、販売効率が高い割に家賃が安いアウトレットモールが最も負担率が軽い。
 イオンモールの評価が低いといっても集客や売上げが落ちているわけではない。発表されたばかりの19年2月期決算も増収増益で売上高/利益とも過去最高を更新し続けており、国内既存73モールの専門店売上げも前期比101.5%と伸びている。ただし伸びているのはアミューズメント(105.2%)や食品(104.3%)、雑貨(104.8%)であり、衣料品(98.3%)や服飾品(98.5%)は低迷している。不調が続く衣料品や服飾品のテナントを減して好調分野にシフトしているから、ますますファッション関連のバラエティが細り、当てにされなくなる。ファッションテナントの評価が落ちるのも当然だろう。

販売効率もバラエティにスライドする

 ブランドぞろえのバラエティが販売効率に直結するのはアウトレットモールが典型的で、店舗面積/テナント数(核店舗がないので店舗面積にテナント数がスライドする)と販売効率は見事に相関している。同じ三井不動産のアウトレットパークでも、3万6500平米/250店の木更津(18年10月に4万5800平米に増床して308店になった)は年間414.1万円/坪(18年3月期、以下同)を売り上げるのに2万2700平米/137店の幕張は344.5万円/坪と一回り販売効率が低く、ローカルにはなるが2万平米/120店の倉敷は226.1万円/坪にとどまる。
 アウトレットモールで最も売上げが大きく販売効率も高いのは御殿場プレミアム・アウトレットで、店舗面積4万4600平米、売上げ910億円、販売効率673.3万円/坪と、単価の高いラグジュアリーブランドがそろうこともあって突出している。逆に主要アウトレットモールで最も販売効率が低いのは1万5300平米/80店の仙台泉プレミアム・アウトレットの161.7万円/坪で、同じ仙台でマーケットを分け合う2万平米/120店の三井アウトレットパーク仙台港は217.8万円/坪とバラエティが大きい分だけ販売効率も高い。これだけブランドぞろえに販売効率がスライドすれば、アウトレットモールが増床競争に走るのも必然だ。
 それは郊外SCや駅ビル、百貨店とて同様で、衣料品や化粧品ではECと張ってブランドぞろえを競い広域集客するか、食物販/フードサービスを軸に日用衣料やドラッグに割り切って足元占拠率で食うか、どちらかに徹底するしかない。販売効率も家賃効率も極端に低いGMSに大面積を割いてテナントのバラエティを削ぐ中途半端なSCがEC時代に生き残るはずもないから、量販店系デベの人気が低迷するのも必然だろう。

施設タイプ別評価と成功率

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 商業施設デベの評価を施設タイプ別に集計してみると、駅ビル・ファッションビル系デベが3.73ポイントと抜けて高く、アウトレットモール系デベが2.78ポイントと続き、量販店系デべは▲2.78ポイントと格段に評価が低く、小商圏デベは▲4.73ポイントと極端に低い。14年からの推移を見ても、アウトレットモール系デベの評価が17年を底に再上昇しているぐらいで、4者の関係にさほど変化は見られない。
 今後の出店意欲についても、駅ビル>駅前路面>アウトレットモール>ファッションビル>郊外大型SCの順で、百貨店とCSCは出店より撤退に向いている。
 過去3年間に新規開業した施設のうち、出店テナントの過半が売上げ/利益予算を達成できた成功施設の比率は28.0%と前年の12.9%から上向いたが、4年前開業の大失敗2施設が評価対象から外れたためで、昨年調査と同一施設に限れば成功率は11.8%と前年と大差ない。15年から急落して17年には2.9%まで落ち込んだ成功率がやや回復したとはいえ、50%台と過半を超えていた12〜14年とは比べるべくもない。3年連続して減少し37と12年の35に次ぐ少数となった商業施設開発(日本ショッピングセンター協会が規定するSC)だが、好立地が限られて無理な開発が多く、16年以降は成功率が低位に留まっている。
 出店した店舗の予算達成比率を見ても、予算以上店舗が5.4%、ほぼ予算通り店舗が38.5%、予算未達店舗が56.1%と未達店舗が過半を占め、平均予算比は94.3と前年の91.1からは上向いたものの低位を継続している。出店条件に見合うよう売上予算のつじつまを合わして稟議を通す悪癖がまだ残っているのでは、と邪推したくもなる。

最大の不満はオムニコマース対応

 デベに対する評価項目の平均値は「立地開発」「プロパティマネジメント」が高く、「売上対比不動産費率」「テナントミックス」が低いが、突出して低いのが「オムニコマースへの姿勢」だ。平均マイナスポイントは「テナントミックス」の4倍弱、「売上対比不動産費率」の5.5倍に及ぶ。
 EC事業者に小売店舗が対抗するには店舗とEC一体の販売体制、受け取りお試し利便と在庫効率の向上、一括店舗物流による宅配外注費の抑制というC&C(店舗の物流拠点化)が不可欠だが、そこまで理解してテナントを支援する体制を築くデベはまだまだ限られる。&モールと&モールデスクでC&Cを支援する三井不動産を筆頭にパルコまでがプラス評価で、アイルミネで店受け取りを実験するルミネ(プラマイ0)を除く全社がマイナス評価だった。
 商業施設デベの大半は不調のファッション関連を圧縮して好調なドラッグ&コスメや美容サービス、食物販や飲食サービス、エンターテイメントに入れ替えていけば済むと高をくくってEC対策を本気で考えていないが、ECに対抗できるテナントのバラエティをそろえ(物理的な制約を超えるにはショールーミングストアやサテライトストアも導入)、テナントのC&Cを支援しない限り、ECへの流出が進んで店舗販売の損益が成り立たなくなる日が来てしまう。そうなれば商業施設もテナントと運命を共にすることになる。
 C&C支援には公式アプリを軸とした顧客コミュニケーションやID決済による手数料負担の軽減と経済圏の死守、店舗とEC共通レートの課金体制のみならず、顧客とテナントへの物流サービスも絡む。デジタルだけでなくフィジカルな支援体制も求められるとしたら、空中戦だけでなく地上戦への物理的対応が急がれるのではないか。

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