小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年09月25日付)
『衣料品の価格は三桁になる?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 政府と日銀は無理矢理インフレにしようとあの手この手禁じ手まで動員して数字をいじり消費を煽っているが、インバウンドと泡銭に沸く一部の人たち(シンガポールっぽいよね)を除けば現実の消費は一段と冷え込み、価格感覚はじりじりとシビアになっている。

 もはや「ユニクロ」は高級ベーシックで大衆には手が届かず、「しまむら」さえプライスタグを見て躊躇する人が増えている。単品の大衆価格は1900円、2900円、3900円、アウターで4900円、5900円、防寒アウターで7900円までと思っていたが、今や地方や郊外のホームセンターや「しまむら」で売れる現実の価格帯は単品では590円、790円、990円など三桁に下落。アウターでも1900円、2900円に集中、3900円は奮発プライスになってしまった。

 そんな低価格品はまともなロットと仕様では作れないから、多くは流通在庫の放出品だと思われる。そんなのメジャーなチェーンでは売ってないと思われるかも知れないが、「ドンキ」や「しまむら」の実需期にはフツーに並んでいる。衣料品は過剰供給で毎年、過半が売れ残るのだから、わざわざ作るより格段に安く大量に手に入る。

 値引きと売れ残りのロスを織り込んで割高な価格になった新品は消費者にそっぽを向かれるばかりだから、安くてお値打ちな放出品を売った方が商売としても旨味がある。米国では業界の放出品を売るTJXやロス・ストアーズなどOPS(オフプライスストア)が衣料・服飾だけで5兆円のビッグビジネスに膨張し、金額ベースで16%、数量ベースでは30%近いシェアを占めている。

 いままで衿ネームを切り取ったり(自社ブランドに付け替えて再流通させる「FINE」も注目)海外に捨て値で流して闇に葬って来たデッドストックが海外の仕分け基地から「古着」として還流しており、国内業者の放出品と合わせて新品の流通を圧迫していくのは必定だ。それに「メルカリ」など箪笥在庫放出のC2Cリセール(米国では「スレッドアップ」などリセールサイト流通が二兆円に達する)が加わるのだから、割高な新品を売れ残るほど大量に作っても商売にならない。消費と流通の現実を直視してSPAもクリエイションもほどほどにし、放出品やユーズドの方が旨味があるという現実にも目を開くべきだ。
     

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