小島健輔の最新論文

マネー現代
『秘密の「手数料」…百貨店、駅ビル、ECモールについてわかった「驚くべき真実」』
(2022年04月26日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

「新旧会計基準」の狭間でわかったこと

大手アパレルの22年2月期決算開示情報を精査していたら、面白いことに気がついた。

21年4月以降に始まる決算期では小売売上をベースとした新会計基準が義務化されたが、すでに小売売上基準となっていたワールド(3月決算なのでまだ未開示)はともかく、これまで百貨店での売上を卸し売上で計上していたオンワードHDや三陽商会は新たな対応を迫られた。

両社とも対応義務は来期からだが、今期決算短信でもオンワードHDは今期分は新基準、前期分は旧基準で表記、三陽商会は前期、今期とも旧基準で表記し、両社とも決算説明資料で部分的ながら新旧両基準を併記していた。

三陽商会は販路別売上推移も新旧両基準で併記していたから、これまで絶対守秘して来た百貨店販路の賃料歩率が露呈した。私の計算に拠れば、それは前期で32.8%、今期で31.7%だった。

高額ブランドほど百貨店の賃料歩率は低くなる

この賃料歩率が割高か割安かと問われれば、大手アパレルでは低いほうだが駅ビルやショッピングセンターの平均的な結果賃料歩率(固定家賃+変動家賃+共益費等)より8割ほど高く、百貨店では歩率賃料に含まれる光熱費や包装費、キャッシュレス手数料などが駅ビルやショッピングセンターでは別途に必要なことを考慮すれば実質、1.5倍ほどになると思われる。

では同じ百貨店での賃料歩率を他のアパレルやブランドと比べるとどうだろうか。

百貨店では消化仕入れ(販売が成立した時点で百貨店が仕入れる)取引でも基本は「家賃」感覚で、販売効率に賃料歩率を掛けた実質坪家賃は客数の多い一階路面(駅直結だとコンコースと繋がる地階や二階)や各フロアのエスカレーター周辺が高く、高層階やフロアの端に行くほど安くなる。

逆にいえば、実質坪家賃を販売効率で割ったものが「賃料歩率」となるわけで、販売効率が高いブランドほど賃料歩率は低くなる。

百貨店側が月坪15万円の家賃を求める区画で、月坪50万円しか売れないブランドには30%の歩率が要求されるが、月坪100万円売るブランドの歩率は15%に収まる計算だ。

「月坪150万円以上」も

ショッピングセンターで販売効率が高いのは「ユニクロ」など大衆価格のアパレルだが、百貨店では高額ブランドほど販売効率が高くなる。ショッピングセンターのアパレル店は客単価が数千円(の低い方)にとどまるが、百貨店では平場ブランドでも数万円で、高額ブランドともなると一桁上がる。

客数が少なく、ゆったり丁寧に接客しても客単価が高いので高額ブランドの坪販売効率は高く、都心百貨店のスーパーブランドともなれば月坪150万円以上も珍しくなく、御三家(エルメス、ヴィトン、シャネル)クラスともなると200万円を超える。

大手アパレルの平場ブランドは頑張っても60〜70万円が精々で、三陽商会の旧バーバリークラスでようやく100万円が射程に入る。

そんな計算をするなら200万円級のスーパーブランドなら歩率8%でも月坪16万円の家賃になるし、一階路面で300万円売れば24万円になる。それも100坪200坪級の大型店ともなれば、月々の実質家賃は2400万〜5000万円、年間では3億弱〜6億円にもなる。

ショッピングセンターで必須テナントとなっているユニクロも百貨店の御三家と同じく8%が相場だそうだが(最近はどちらも、それ以下の事例を聞く)、同じ8%でもユニクロとスーパーブランドでは次元が異なる。

ユニクロは自ら内装費を負担して出店するが(内装下地の乙工事費を館側が負担するケースはある)、坪当たり150万円とも200万円とも言われるスーパーブランドの豪華な内装費を負担するのは百貨店側だ。

一昔前の水準だが、御三家クラスに続くスーパーブランドは近年の人気(販売効率実績)で13〜17%、それ未満のインポートブランドは20〜27%ぐらいだったと記憶している。ブランド人気と百貨店側の力関係で大きく振れるケースもあり、一般的な傾向と思ってもらいたい。

ECモールの賃料歩率は百貨店並み

コロナ禍を契機に店舗販売を逆転した感があるネット販売(以下EC)だが、ブランドの自営サイトならともかく、人気のファッションECモールともなると「賃料歩率」(販売手数料率)は百貨店と大差ない。

店舗投資がない代わりに物流投資やシステム投資が大きく、販売員人件費がない代わりにネット広告費と物流費(倉庫運営費と宅配外注費)がかかり、ほぼ100%キャッシュレスだから決済手数料も嵩むからだ。

ファッションECモールの大手ZOZOだって、取扱高対比で6.8%の荷造運賃(宅配外注費)と4.0%の物流関連費(倉庫運営費)、2.0%のプロモーション関連費用と2.7%の代金回収手数料など、合計23.5%を費やしている(21年3月期)。

それでいて取扱高対比10.8%の営業利益を稼いでいるのだから、出店するブランドに請求する手数料率は平均34.5%になる計算で、百貨店と大差ない。

ZOZOの手数料率も百貨店と同様にブランドの取扱高(販売額)と出荷単価(ほぼ客単価)で大差があり、ZOZOTOWN初期からの参加社は優遇されているが、近年の参加社は相応に嵩む。初期から参加している著名セレクトショップなどはZOZOの販管費原価率(23.5%)と大差ないプレミアムレートが適用されているが、近年参加の低単価ブランドなどは35%以上、物流コストが嵩む雑貨ブランドでは40%という例も聞く。

「D2C」は顧客直結のローコストビジネス

百貨店やファッションECモールの高い手数料を避けて自ら運営するECサイトやSNS、限られた直営店舗で低コストに販売するのがD2Cブランドで、流通コストが低い分、顧客にお値打ちな商品を提供できる。

フアンと直結して年商数億円から十数億円でコンパクトにまとまっているうちは良いが、拡販を図ってファッションECモールや百貨店に出店するようになってはコストが嵩み、本来の魅力を失いがちだ。

米国では資本家から出資を募って年商一億ドル(130億円)超えを狙うD2Cベンチャーが氾濫しているが、拡販を図って高コスト化し、採算ラインに達しないまま債務超過に陥って行き詰まるケースが後を絶たない。

D2Cブランドの本質は顧客直結のローコストな手作りビジネスで、手数料の高い流通プラットフォーム(百貨店やECモール)に依存するようになってはお終いだ。

無理に背伸びせず本質をわきまえ、顧客とともに歩むべきだろう。 

 

 

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