小島健輔の最新論文

マネー現代
『ユニクロ「値上げ」の衝撃で、アパレル業界にこれから起きる「すごい変化」…!』
(2022年06月11日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

何もかも「値上がり」へ! もう無い袖は振れない…

アパレルだけでなく食品や燃料、公共料金など何もかもが軒並み高騰する中、黒田日銀総裁が言うように『仕方ないよね』と消費者が受け入れるはずもない。

無い袖は振れないからだ。

厚生労働省の毎月勤労統計によると、21年の実質賃金指数は100.6とコロナ前19年の101.2を下回った。特にパートタイム労働者の労働時間回復が遅れており、所定内労働時間で4%、所定外労働時間では20.7%も下回った。

名目賃金は正社員で1.0%、パートタイム労働者で0.9%増加したが、物価の上昇に追い付かなかった。総務庁の家計調査でも21年の勤労者世帯実収入は名目0.7%減、実質0.4%減だったが、インフレに直面した22年の4月では名目は0.6%減でも実質は3.5%減と値上げに飲み込まれている。

22年に入ってはロシアのウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策で物流が混乱し、あらゆる資源が高騰しているのに加え、内外金利差で円安が急進。資源や消費財の多くを輸入に頼る我が国は未曾有のインフレに直面しているが勤労者の所得は伸び悩み、実質所得はみるみる目減りしている。

無い袖は振れぬのが現実で、何もかもが値上げされる中、何かを我慢して購入を抑制するか、同品目のグレードを落とすしか方策がないのが実情だ。

ユニクロ「値上げ」の衝撃

購入を抑制するのは不要不急の奢侈品や流行品と思われがちだが、富裕層はコロナで長らく行動が制限された分、高級ブランドや貴金属、美術品(インフレ対策もあるのだろう)に吐口を求めているから、必ずしも奢侈品が我慢の対象となるわけではない。

お籠り生活でしばらく購入機会がなかったお出かけ着やフォーマルも、一巡するまでは購入が続くだろう。

むしろ、来シーズンは着られなくなる流行衣料やグレードを落としても目立たない普段着が抑制の対象となるのではないか。

主力商品を軒並み千円も値上げした「ユニクロ」など、年々のデザイン変化も乏しく耐久性も抜群だから、これまで購入した商品を着ていれば済むし、これを機会に「高級ブランド」化した「ユニクロ」を離れて、ランク下の低価格ブランドに乗り換えるという選択もある。

非正規雇用や母子家庭など低所得世帯にとっては「ユニクロ」はもはや手の届かない「高級ブランド」であり(特に冬場のダウンアウター)、より手軽で楽しめるブランドやストアは結構ある。

「ユニクロ」の姉妹ブランドの「GU」はもちろんだが、手軽に流行を楽しむならしまむらやハニーズ、ウィゴーや越境ECのSHEINなどがあるし、流行にこだわらないなら「ワークマンプラス」やホームセンターのアパレルは低価格でも耐久性があり、今時のアウトドア感覚も楽しめる。

「ユニクロ」はこれ見よがしに見せつけるブランドではないし、機能性や耐久性など実用の利をもって価格に納得して来たブランドだから、今回の値上げは売上に響くに違いない。

これを契機に他の低価格ブランドに乗り換える顧客は少なくないと思われるが、そんな低価格ブランドもコスト高騰に直面しているのは同様だ。 

かつてない古着シフトが始まる?

「ユニクロ」の値上げはコスト高騰に苦しむアパレル業界にとっては朗報で、『待ってました』とばかりに追従値上げが野火のように広がるのは間違いない。

今年の春夏物仕込み段階でコストはすでにかなり上昇しており、小売チェーンへの納入価格に転嫁できず、専門商社やOEMアパレルなどサプライヤーがコストを被って大幅な減益や赤字転落に陥るケースが見られた。

サプライヤーのコスト負担はもう限界だったから、「ユニクロ」を皮切りにアパレルチェーンの値上げが広がるのは必定だった。

アパレルが一斉に値上げすれば、消費者はどう動くのだろうか。新品の購入抑制や格落ちに加え、古着にシフトする人が急増するのではないか。

新品はもうアホらしくて買えなくなる

古着はコストが高騰する以前に発売されたものであって、今の新品と比べれば発売価格の割に品質が高く、とりわけ低年式品(発売から概ね10年以上)は格段に品質が高い。

それが発売当時価格の三分の一以下(高額ブランドでは十分の一もある)で買えるのだから、お値打ち感は値上げして割高になった新品とは桁違いに高い。

古着にハマると割高な新品はアホらしくて買えなくなる。

5月3日掲載の記事『プロが教える「お宝」を見つけるコツ』で紹介したように、古着の流通は極めて多様で、国内外からの供給も潤沢だ。

高年式(発売から概ね3年以内)の人気ブランド品は「セカンドストリート」など地域の買取店(C2B2C)、低年式のヴィンテージ品は輸入古着を選別調達する古着店に揃う。

手頃な普段着に徹するならウエス屋(衣類ゴミから選別)ルートの大型古着店も狙いだろう。

「ユニクロ」からのシフトとなると、価格の近い低年式ヴィンテージ品や高年式ナショナルブランド品(ナイキやアディダス、ノースフェイス、ポロなど)が対象となるのではないか。

古着のイメージが変わる

古着には「汚い」とか「臭う」とか偏見が残るが、地域の買取店の高年式品は個別に状態が確認されているし、選別調達型の古着屋で売られている輸入古着は放出衣類から仕分けたもので(衣類ゴミからの選別ではない)、クリーニングと殺菌、消臭、検針を経ており、サイズさえ合えば手軽に楽しめる。

誤解を解くべく古着業界の啓蒙活動も必要だが、「ユニクロ」を皮切りとするアパレルの一斉値上げを契機に古着購入が一般化するのは間違いないだろう。

 

論文バックナンバーリスト