小島健輔の最新論文

販売革新2013年7月号掲載
『競合を見据えた開発戦略』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

回復に転じた商業施設開発

 改正都市計画法施行に伴う駆け込み開発が相次いだ07年を最後に商業施設の開発は急冷却し、12年のSC開設数は35件と43年振りの低水準となったのも束の間、13年に入って急回復に転じ、年間で70件と12年から倍増する勢いだ。その多くはNSCやパワーセンターなどの小型施設だが、GMS核SCも12年の4件から12件へ、3万平米を超えるSCも5件から13件に急増する。14年も3万平米超級SCの開発計画が既に13件を数え、景気回復が進めば新たな計画も浮上すると思われるから、13年以上に増える可能性が高い。
 開発が急回復している要因は皮肉な事に、開発が抑制された5年間に競争が緩んで既存SCの多くが売上を回復させた事に在る。改正都市計画法で開発が抑制されたこの間、大規模施設の開発は都心立地に移行して競争が激化し、既存施設の売上が低下したり新設施設の売上が予算を大きく割るケースが見られたが、開発が急減した郊外立地では既存商業施設の売上回復が目立った。そんな環境の好転で、郊外やローカルでは増床や新設が増えているのだ。
 もちろん景気回復もあるが、金融主導の景気回復は百貨店など高価格帯の売上には寄与しても、恩恵の少ない一般大衆を対象とした商業施設の売上には波及せず、円安に伴うコストインフレや給与所得の実質目減りで逆に売上が低下するリスクも否めない。REIT(不動産投信)への資金流入などで開発資金は潤沢なものの、開発の採算性が大きく改善された訳でもない。開発気運の高まりは今年一杯で、15年以降の開設は再び減少する可能性も指摘されるが、地元自治体の誘致が加速したりTPP交渉に絡んで開発規制が緩めば回復が継続する事になる。  新規開発が増加すれば再び競争が厳しくなって既存施設の売上が低下し、やがて開発気運も低下する。この繰り返しに行政の開発規制方針の変化が絡んで商業施設の開発環境が左右されるのだ。

二極化する開発規模

 商業施設開発が急回復していると言っても、その中身は07年までとは様相が異なる。大型SCも目立つとは言え、数の上では食品スーパーやホームセンター、家電量販店や大型家具店を核とした7500平米以下の施設が44%強、15000平米以下の施設が64%強を占める。広域大型施設が成立する立地が限られて来た一方、大都市周辺圏やローカルで商業施設の空白域が急増しているからだ。広域大型施設が商店街をシャッター街化し量販店核の旧式箱形商業施設を閉鎖に追い込むにつれ、遠くまで出かけないと買い物が出来ない空白域が増え、足元商圏型の中小規模商業施設が求められている。
 その規模はミニスーパーやドラッグストアを核としたコンビニエンスモールで3300平米未満、SSM核のNSCなら一万平米未満、ホームセンターやSSMを核にカテゴリーキラーを集積するパワーセンターでも二万平米まで、GMS核のコミュニティモールでも四万平米がギリギリ上限だ。それ以上の規模になると足元だけでは食えず、広域型の商業施設と食い合いになってしまう。
 その一方、広域大型施設に求められる要素は多様化し、様々な客層に応える業種・業態のバラエティを揃えるには180店以上の専門店を並べなければならないし、レストラン街やフードコート、シネマコンプレックスも今や必須要件だ。二核ワンモール型を想定するなら、これらの要件を満たすには商業施設面積で七万平米がミニマムではないか。
 足元だけで食える四万平米未満の施設と広域を制圧する七万平米以上の施設に挟まれる中間サイズの施設が最も苦しく、営業継続が難しくなるケースもある。存続するには‘ダウンサイジング’を選択するしか方法がない。

ダウンサイジング戦略

 既存施設の生き残りにも新規施設の開発にも不可欠なのが‘ダウンサイジング戦略’だ。強力な広域大型施設が存在したり地形的な制約などで実勢商圏が限られる場合、無理に広域を狙う構成を組まず、足元商圏だけで損益を成り立たせる。衣食住遊のバランスを生活必需の食住に偏らせ、足元占拠率と来店頻度で生き残ろうというものだ。新設施設の開発段階では敢えて施設規模を縮める事もある。
 具体的にはSSMに加えて生鮮の産直市場や自然食品店、輸入食品店、ドラッグストアに加えてコンサルティング型の化粧品専門店、プライスライン型とセレクト型の眼鏡店など生活必需のテナントを手厚く揃える一方、衣料品や服飾品については世代別に手頃なカジュアルにバラエティを絞り、広域型のテナントを無理に入れない。こうすれば販売効率も売上も極大化し、来店頻度も高まって足元を固める事が出来使る。チラシの配布域も限定出来るから、販促費用も圧縮出来る。
 建ぺい率も容積率も目一杯使って出来るだけ広域を狙おうというアップサイジング戦略が功を奏するとは限らない。強力なライバル施設に直面すれば実勢商圏が広がらず、低販売効率と割高な施設維持費や販促費に苦しむ事になりかねない。不動産価値のフル活用は商業施設だけでは難しい場合も多く、スーパーホテルや温浴施設、病院や老人介護施設など生活立地に相応しいサービス施設の導入を検討すべきであろう。

アップサイジング戦略

 強力なライバル施設が存在せず一度、広域商圏を確立すればライバル施設の参入が難しい商圏なら、アップサイジング戦略が選択出来る。  アップサイジング戦略とは、外資大型SPAなど目玉となる広域型パワーテナントをサブ核に、客層別テイスト別にフルラインの業種・業態を揃えるもので、少なくとも180店以上の専門店をモールに並べ、レストラン街やアップスケールなフードコート、シネコンや医療モールまで揃える必要が在る。アパレルや服飾雑貨、コスメ関連は駅ビル級のテナントも鏤め、‘ファッションモール’として突出しなければならない。専門店のバラエティを揃えるにはモールのリース区画だけで三万平米近くが必要だから、出来れば販売効率の低いGMSを外して一層のSSMだけにしたい。その分、外資SPAや生活雑貨、趣味雑貨の大型店に面積を割り当てる事も出来る。
 広域大型施設として成功するには今時、ITサービスも不可欠だ。館内WiFiはもちろん、ホームページやSNSを使ったテナント紹介やイベント/セールの告知、スマホのGPS機能を使った駐車場誘導や館内LANを使ったテナント案内に加え、専用‘AT MALL’アプリによるクーポンの配布や来店ポイントの付与、ギフトレジストリー(欲しいアニバーサリーギフトを登録して家族や友人に知らせる)サービスまで徹底して顧客を囲い込み、ライバル施設を突き放したい。

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