小島健輔の最新論文

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『小島健輔が喝破、「Amazon GoとAmazon Styleの問題はここにあり」』
(2023年04月14日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 米アマゾン・ドット・コムはレジレスコンビニ「Amazon Go」の米国内8店舗の閉鎖を公表したが、ロボットピッキングシステムのショールーミングストア「Amazon Style」も課題山積で離陸が危ぶまれる。デジタル技術の進化は速く、実用化に手こずるうちにレガシーと化してしまうことも少なくない。

 

■「Amazon Go」はもはやレガシー

 18年1月にシアトルで初公開されたレジレスコンビニ「Amazon Go」は3月末で29店舗まで増え、システムを外販した店舗を含めれば90店舗を超えたと推計されているが、入店客の行動をAIが追跡して画像解析する手法はハリネズミのごとく多数のカメラと各種のセンサーを要して設備投資と演算負荷が大きく、実用精度に達したかも定かでない(筆者の同行者が3月末にトーランスの新店で購入したレシートは未だ届いていない)。マテハンはもちろんチェックインの案内と監視(酒類購入の年齢確認に加え遠隔監視にも人員を要するようだ)も必要で、同サイズのコンビニの倍以上もスタッフを張り付けなければならず、品揃えの魅力も欠くことから、小売店舗としての採算性は到底、望むべくもない。

 グロサリーストア(食料品特化のスーパー)の「Amazon Fresh」でも、棚の重量センサーで出し入れが掴みくい軽量の加工食品など欠落する品目が少なくないし、画像で商品を特定しずらい裸陳列の生鮮食品は顧客によるシリアルナンバーの手入力と計量に依存している。3300平米級(バックヤードも含む)の「Amazon Fresh」は価格と品目数はともかく日常の食品購入に必要な品揃えがあるが、コンビニサイズの「Amazon Go」は絶対品目数が米国「7-Eleven」の半分ぐらいの低密度で(米国「7-Eleven」自体が日本よりかなり低密度)、値付けも割高感を否めず、惣菜や弁当が揃うわけでもなく(ファストフードのキオスク併設店はある)、日本のコンビニのような日常利用には程遠い。

 「Amazon Go」に触発されて類似したレジレスコンビニが雨後の筍のように増殖した中国でもほとんどが行き詰まったようだし、それらの反省から現実的な軽装備を模索した我が国のレジレス店舗も顧客を特定できる企業内や病院内、ホテル内や鉄道駅内のキオスク型に収斂し、コンビニやスーパーのセルフ精算はレジやカートにカメラとスキャナーを集約する手軽なデバイス型に帰結している。

リテール・メディアを志向して店内に多数のカメラとセンサーを配置する事例も見られるが、スマホのストアアプリを介したBluetoothやWiFiによるインストア通信、商品画像をAIが照合するクラウドサービスの普及でレガシー化は必至だ。セルフレジやスマートカートも、精度が完璧でなく手間取る顧客のバーコードスキャンからデバイス内に多方向に配置されたカメラによる商品画像のAI照合に移行しており、「Amazon Fresh」のDash Cartも一見したところではその方式に見える。

 これら手軽な実用技術の進化と普及によって、設備投資も運営費用も嵩む「Amazon Go」は使えないレガシーと化し、遠からず消えていく運命にある。

 

■「Amazon Style」も離陸は難しい

 「Amazon Style」は22年5月にロサンゼルス北部のグレンデール・ギャレリアに登場したばかりのアパレルのショールーミングストアだが、先行した「ZARA」や「GU」のショールーミングストアと同じく実験に終わる公算が高い。22年10月にオハイオ州コロンバスのイーストン・タウンセンターに開店した2号店の詳細が伝えられるに及び、その確信が深まった。

 「Amazon Style」はオンライン販売のアマゾンにとって顧客が現品を手に取って試着できるショールームであり、1200平米ほどの広いフロアでバラエティも見せられる。1号店(2790平米)も2号店(2604平米)もZARAの実験店と同様なワンサイズ・ワンカラーのサンプル陳列で、サンプルのハンガーに貼り付けられたQRコードを専用アプリのカメラ機能でスキャンして色・サイズを指定し、試着希望のアイコンを押すとバックヤードのピッキングシステムが稼働する。試着サンプルが用意される間、性別や身長、体重、スタイリングの好みなど幾つかの質問に答えると、後で試着室のサイネージにレコメンドのルックが表示される。

試着サンプルがピッキングされて試着室に用意されるとアプリに試着室ナンバー(1号店は40室、2号店は36室)の案内が来て、そのアイコンが試着室を解錠するキーになっている。試着点数も試着室利用時間も特に制限はないようで、サイネージのアイコンをタッチして色・サイズを指定すればレコメンド商品を用意してもらうこともできる。

「ZARA」のショールーミングストアはSKU各1在庫で販売用の在庫を積まずオンライン購入しかできなかったが、「Amazon Style」では現品を購入して持ち帰ることもできるから、売れ筋商品は在庫を用意しているのだろう。オンライン注文品を受け取ったり(BOPIS)返品したりの拠点ともなっており、その辺りは「Argos」(英国)※のショールームストアとも共通する(「Argos」では在庫を積む母店と受け取り・返品だけの衛星店があり、都合の良い店舗を選べる)。

商品のタグでなくハンガーにQRコードが貼り付けられているから、ZARAの実験店と同様なハンガー駆動のロボットピッキングシステムが後方で作動しているはずだ。ピッキングは自動でも戻し検品に要する人手が嵩むから、試着皺のプレス直しまで拘ったZARAは作業人時量に音を上げて多店化を諦めたと思われる。

課題はロボットピッキングシステムに要する広大な後方スペースと作業人時量だ。1号店も2号店も売り場(ショールーム)は賃貸面積の半分にも満たず、2号店では2604平米中の1209平米にとどまる。スペースの過半を占める大仕掛けなバックヤードもともかく、店舗従業員が100人にも及ぶのには驚かされる。

正社員勤務時間換算では60人ぐらいなのだろうが、同規模の「UNIQLO」でも30人ほど(正社員16人+正社員勤務時間換算パート14人)で運営しているから、試着サンプルのセッティング(ストックからのピッキングは自動でも試着室へのセッティングは人力)と戻し検品に要するバックヤード作業員が過半を占めると思われる。

我が国のE2C※のようにオンライン売上を「Amazon Style」に紐付ける仕組みは開示されておらず(試着履歴と紐づけるのは容易)売上をどう計上しているか読めないが、売場生産性も人時生産性も厳しく単独採算は望めそうもない。オンライン販売支援とUX(顧客体験)のショールームと割り切るから出来る贅沢で、多店化は非現実的だ。

※Argos・・・73年創業の英国のカタログ・ショールームストアで、12年にカタログをタブレットに替えたデジタルストアへの転換を開始。それに注目した大手SMチェーンのセインズベリーが16年に親会社ごと買収し、SMに併設するとともにデジタルストアへの切り替えを加速している。C&Cのラストワンマイルを自社物流で担う体制はヨドバシカメラに酷使している。

※E2Cプレイヤー・・・SNSやECを通してスタイリング投稿やライブ配信などで顧客に働きかけるスタッフ・インフルエンサーで、アプリで直接・間接の売上が紐づけられ、成果報酬が加算される仕組みが広がっている。

 

■作業プロセスの検証とレガシー解消の見切り

 最新技術も現実のアナログ作業プロセスを検証しないと、実用精度が得られなかったり採算が合わなかったりするケースが多々あり、その解決に手こずるうちに新たな実用技術が台頭して技術も設備もレガシーと化し、戦力となることなく消えていく「リープフロッグの罠」が指摘される。

バーコードやRFIDを軸としたセルフ精算や在庫管理、マテハンの効率化もそんな曲がり角にあり、RFIDの一括読み取りやレーダー探索がゴールとは言えなくなって来た。クラウドベースの画像照合AIが普及すればバーコードの読み取りに固執する必要はなくなり、RFIDさえ不要な高コスト投資になってしまうかも知れない。

パッケージ型のグロサリー食品やドラッグ商材などNB商材については画像照合のデータベースが確立され、衣料品や服飾雑貨もオンライン販売が必須になって多角度の画像撮影が定着しているからデータベース化に支障はなく、画像照合のクラウドサービスが普及していけば、セルフ精算や防犯、在庫管理やマテハン支援もRFIDとバーコードの二択ではなくなっていくのではないか。

インディテックスが旧式化した防犯兼用の高価な使い回し型アクティブRFIDタグ(バッテリー内蔵)を放棄し、今シーズンから安価なパッシプRFIDインレイを衣服に縫込む方式に切り替えたが、その目的は四つ考えられる。一つはタグ取り替えによるセルフレジでの不正精算(ユニクロが直面していると聞く)防止、一つはタグ取り外し回収手間の解消、一つはタグ取り付け手間の解消(インディテックスは生産工場にタグ付けを任せず自社のセントラルTC※で取り付けていた)、一つはサブスクリプションやリユースへの対応だと思われるが、先では画像照合との併用を意識しているのかも知れない。

ある時点でベストと思われた技術も生産〜流通〜販売の各段階でアナログな作業が派生して人件費や物流費、タイムロスが嵩んでしまうことが少なからず、新たな技術の実用化でレガシーを解消すべき時が来る。 今回のRFIDシステムの刷新にせよ、19年に決断して22年に完了したオンライン注文品のFC※出荷から店舗渡し・出荷への転換にせよ(ワークマンも同様な転換を目指している)、インディテックスの見切りの良さ(タイミング)には学ぶことが多い。

※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず自動仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC。

※インレイ・・・・樹脂フイルム基板上にICチップとアンテナを配したRFIDタグの中身で、タグに内装せず商品に直接埋め込む(縫い込む)方法もある。

※FC(Fulfill Center)・・・・商品を棚入れ保管し、注文に応じてピッキングし梱包出荷するオンライン販売の物流施設(DC)。

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