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『クローゼットの棚卸で思う
アフターコロナはスロービジネス』(2021年05月03日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 緊急事態宣言下のゴールデンウィークは遠出も叶わず、暇潰しにクローゼットの棚卸をしてみたが、生き残っているアイテムには確固とした共通点があった。
 衣料品にはワンシーズン使い捨ての「ファストアイテム」、数シーズンの使用に耐える「ランニングアイテム」、それに愛着価値や投資価値まで加わったブランド物の「インベスティメントアイテム」があると思う。年配の私のクローゼットには「ファストアイテム」は皆無で、全て「ランニングアイテム」と「インベスティメントアイテム」しかない。
■使い捨てた「ファストアイテム」
 「ファストアイテム」と言うと安価なファストファッションを想起されると思うが、長い人生を振り返ってみれば、ワンシーズンで使い捨てたアイテムのほとんどは高価なデザイナーアイテムやトレンドを追ったビジネススーツだった。デザイン性の強いデザイナーアイテムは着る機会が限られ、何時のコレクションか業界人なら一見して分かるから、何シーズンも着るのは憚られる。ヴィンテージ価値が評価される何十年か先を見てクローゼットの予備役に回しても、そんな日が来た試しはなかった。
 デザイナーアイテムでも、デザインがベーシックでフィットに無理がなく、織地やプリントに普遍的な魅力があるアイテムは10年を超えて愛用しているから、デザイナーアイテムだから使い捨てとは言えない。ある種の神格的デザイナーのアイテムなど新作も旧作も時を超えたオーラがあり、長年に渡って着回している人も多い。デザイナーアイテムには両極があるようだ。
 ビジネススーツは意外とトレンドがはっきりしている。ゴージの高さやラペルの太さ、ベントやポケットのディティール、肩幅やパットの有無、ベルトラインの高さや太さ、腰回りのフィットやタックの有無、わたり周りのゆとり、裾へかけてのテーパードと微妙な丈、裾始末のカフスがシングルかWか、Wならカフスの幅など、シーズンが過ぎるとすぐ古臭く見えだすから、高価なスーツでも3シーズンが限界で、トレンドを追ったスーツはワンシーズンで引退させたこともあった。
■ヘビロテする「ランニングアイテム」
 私の場合は「ランニングアイテム」と「インベスティメントアイテム」の区別はなく、お手頃であろうと高価であろうと長年、使い続けて重宝すれば「インベスティメントアイテム」になる。
 コロナ禍で出番が多くなったカジュアルアイテムで十年以上ヘビロテしているのは「アバクロ」やその大人ブランドの「Ruehl」(04〜09年)、ギャップの「1969」、ハワイ生産の「レインスプーナー」などで、賞味期間も耐久期間も怪しい国内のSPAブランドは皆無だ。出番が減ったビジカジアイテムでは「LARDINI」や「LBM 1911」のジャケット、「INCOTEX」や「PT 01」のオフィサーパンツ、「メーカーズシャツ鎌倉」のオフィサーシャツなどで、「cruciani」のニットアイテムは耐久力がなく引退させた。
「メーカーズシャツ鎌倉」のパジャマは1ダースほどを長年、ベビロテしている。「ユニクロ」は緊急用のウルトラライトダウンぐらいしかないが、耐久力は抜群で十年近く使っている。「メーカーズシャツ鎌倉」や「ユニクロ」は何年もヘビロテできるから低価格でも「インベスティメントアイテム」と評価すべきで、耐久力が無いイタリアの高級ブランドニット、定番性でも耐久力が疑わしい某SPAブランドなど、結果としては「ファストアイテム」と言うべきだろう。
 私の限られたクローゼット体験から類推するのはどうかと思うが、アフター・コロナのサステナブル消費に生き残るアパレルビジネスは「ランニングアイテム」や「インベスティメントアイテム」を長く安定供給する、在庫回転も資本回転もゆっくりとしたスロービジネスになるのではなかろうか。

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