小島健輔の最新論文

繊研新聞2020年10月14日付掲載
『VMDはこのままでよいのか
本当のVMDで店舗を蘇らせよう』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 VMD(Visual Merchandising)が提唱されて早、半世紀が経過したが、売場での後付けの視覚的演出にとどまり、本来の「マーチャンダイジングの見える化(視覚的構築と在庫運用)」という役割から乖離した感がある。商品計画からD.B.(配分・補給・店間移動)、フェイシング管理と再編集運用による販売消化までマーチャンダイジングのトータルプロセスを視覚的に構築する「フェイシング」(陳列配置デザイン)こそVMDの起点であり、「フェイシング管理」と再編集こそ運用の要だが、ファッション分野ではディスプレイに偏って蔑ろにされて来たのではないか。

 

■マーチャンダイジングとVMD

 「マーチャンダイジング」とは1)商品計画、2)ソーシング、3)D.Bと在庫コントロール、4)フェイシング管理・再編集運用と売価変更、の4つのプロセスを経て消化・完結されるが、このプロセス・マネジメントをPOSの単品管理に依存しては数値だけの“単品最適”になり、「全体商品構成」「個別商品ユニット」の流れが見えなくなる。「全体商品構成」「個別商品ユニット」の流れを商品計画段階から売場展開まで一貫して見える化し、“全体最適”で品揃えの魅力を維持して円滑な消化回転を図るのがVMDの役割だと言って良いだろう。

 ゆえに商品計画段階での「フェイス設計」とその補給パターン設定(必然にソーシングと連携する)、売場でのルーチンな「フェイング管理」、補給終了後のフェイス集約と売り切り編集の手順が定まっていないと計画通りの消化を図れず、不鮮在庫が溜まって売場が腐ってしまう。

 「フェイス設計」は商品ユニットのMD構成(アイテム/SKU)を見やすく買いやすく魅力的に、かつ補給パターンに矛盾なく配置表現する陳列デザイン、「フェイング管理」は設定した陳列配置が崩れないよう欠品しないよう定期的に目視管理して整理・補充する売場管理作業だ。コンビニエンスストアやスーパーマーケットでは定着したルーチンワークだが、ファッション分野では必ずしも定着していない。

「フェイス」にはアイテム/SKU配置を固定して一定期間補充する「台帳型」、アイテム/SKU配置のパターンを決めてデザインや素材を切り替えて補充する「トコロテン型」がある。前者は「ユニクロ」や「無印良品」など定番商品を継続展開するブランドに多く、MDは大きく面に展開されて販売期間も長い。後者は「H&M」や「ZARA」など売り切り御免のファストなブランドのやり方で、MDは小さく販売期間も短いが、好調であれば類似商品がリレーされる。

 

■初期配分とフェイシング管理・補充

 「台帳型」は設計フェイスをベースに、店舗規模や販売効率によって「標準型」「ダブル型」「ハーフ型」×「標準効率型」「高効率型」「低効率型」にフェイシング量と展開パターンを仕分け、タイプ別に組んだカセットを初期配分する。補充在庫を倉庫に残してEOS(オンライン自動発注)で補充し、倉庫在庫が欠品すると自動引き当てで余剰店舗から欠品店舗へ店間移動する。

「台帳型」の比率が高い「ユニクロ」や「無印良品」では初期配分店舗在庫の比率は最大4割で、6割以上を国内倉庫に残して補充に当てており、生産地倉庫にも在庫を積んでいる。補充在庫の負担が大きいから、「ユニクロ」では商社が生産地在庫を負担し、「ワークマン」ではベンダーがVMIを担っている。

 「トコロテン型」は陳列配置のパターンを定めるだけでSKUは固定せず、類似商品をリレー方式で追加していく。初期投入は直近の店舗別消化回転から自動計算で傾斜配分(販売予測量にスライド)するが、好調店では棚に入り切らないし、不調店では棚が空くから、最大最小のリミットを設定する。通常は補充在庫を倉庫に残さず全量配布し、欠品には自動引き当てで店間移動するが、各店発注の「ZARA」では店間移動はせず各店の消化責任を問う。

 補充在庫を倉庫に積む「台帳型」MDでは倉庫在庫をECに引き当てても店舗在庫を直接には圧迫しないが、もとより倉庫に補充在庫を残さない「トコロテン型」ではEC向け出荷倉庫に在庫を取られると店舗への配分が削がれ売上が落ちる。「ZARA」はEC売上比率が10%を超えた段階で、EC専用倉庫在庫から出荷する体制を止めて注文者の近隣店舗在庫から出荷あるいは店渡しする体制に切り替え、店舗へ全量配分して既存店売上が確実に上向いた。

 「フェイング管理」の頻度は「商品ユニット」の在庫回転によって異なるが、アパレルの場合は通常、毎日の開店直後の品出し時、動きの速いユニットは夕刻にも再度、アイテム/SKUの配置や陳列を整えストックから補充する。営業時間中に客注や欠品でストック室に入るとお客様は待たせるし売場人員が一名欠員するから、皆無に近づけなければならない。その意味でもSKUフェイシング量の設定と「フェイング管理」の励行は不可欠で、百貨店の見てくれだけを繕う「定数定量」陳列規制は百害あって一利ない。

 「フェイング管理」では別の陳列ユニットに迷い込んだアイテムの棚戻し、店間移動や客注のピッキングを目視に頼ると大型店では膨大な作業になるから、RFIDタグが導入済みならRFルーカス製など個品検索レーダーを駆使して効率化する。

 

■出前陳列と再編集運用

 「商品ユニット」はフェイスを統一できる壁面か島の規格什器に「フェイス設計」通りに陳列されるが、そのままでは詰め込み気味で訴求力が弱く、販売効率や在庫回転は高くない。そこで、「フェイス」の上部やエンドに単品やルックのディスプレイやPOPを付加したり、カラーやルックを決め込んで持ち出した「出前ユニット」を店内通路面に島構築して顧客の目を引き、元「フェイス」へ誘導する。

この「出前ユニット」の作り方で売上は何倍も違うから、そのスキルが問われるのはもちろんだが、まずは元「フェイス」毎に「出前ユニット」を構築してカップリングするのが先決だ。経験則だが、「出前ユニット」の販売効率は元「フェイス」の倍以上、在庫回転は4倍以上になる。

「出前ユニット」は大型店ほど多数展開できるから、隣接した「ユニット」をクロスしたリミックス「出前ユニット」やパワー単品を集積した量販「出前ユニット」も構築できる。「ユニクロ」など同じ業態で大型店の方が小型店より販売効率が高くなる要因の一つと考えられる。

 補給が切れて販売期間が終われば「フェイス」は解体されて次の「ユニット」に代わり、残った在庫の内容や量によって類似「ユニット」と合体してサイズやカラー、アイテムや価格で再編集し、売り切り消化の「ユニット」を構築する。販売期間中でも極端に販売不振の「ユニット」は解体し、同様に再編集して売り切り消化を図る。色が欠けたニットやカットソーはまとめて色別陳列、サイズが欠けたボトムや靴はまとめてサイズ別陳列、最後の売り切りはアイテムをまとめて価格別陳列など、利幅が薄かった80年代まではどこの店でもそれなりに駆使していた編集スキルだ。 

今日でも米国のオフプライスチェーンでは再編集運用が毎週のルーチンとして定着しており、最大手のTJXは平均2,420平米の店舗を4,529店展開して417億1700万ドルを売り上げ、44億ドル余の営業利益を稼いている(20年1月期)。巨大チェーンの利益を稼いでいるのは現場の再編集スキルなのだ。

売れ残り在庫を壁面に押し込んでは滞貨するだけで、どのタイミングでどんな切り口で編集するか、在庫内容と販売動向を見た営業センスが問われる。近年は本部がPOS情報で判断して値引き指示することが多くなり店舗の編集スキルが失われてしまったが、売り切り編集のスキルを駆使すれば売変ロスを大きく圧縮できる。店間移動によるSKU別売変(販売不振の色・サイズの余剰点数だけ移動して売変する)と併用して毎週のルーチンにすれば、売変ロスは容易に半減できる。

 

■ディスプレイの工夫と運用も大切

 VMDの仕上げとしてディスプレイも大切だ。「フェイス」のエンドや上部、「出前ユニット」のトルソーやテーブルにどうアイテムのバリエーションやルックを表現するかで顧客の目を引くインパクトは異なるし、店舗によって微妙に異なる客層へも対応できる。

 本部がアイテムやルックの組み合わせや配色を指示書やグループウエアで伝達しても、個別店舗の客層によるウエアリングの違いまでは踏み込めない。そこは毎日、顧客を見ている店舗スタッフがジャストサイズかオーバーサイズか、ジャストウエストか落とし履くのか、レイヤードするのかしないのか、柄小物をアクセントするのかしないのかなど、工夫する必要がある。

 平日と週末、昼間と夕刻で客層が異なる場合、同じ「出前ユニット」でもトルソーはもちろんT字のルックも組み替えたほうが売上は上がる。外資ブランドなどで丸々1ヶ月間、同じルックを着せているケースがあるが(本部指示が月一回)、変化がなく顧客が飽きてしまうし、売れて欠品してしまえばどうするのだろうか。最低でも週サイクル、客層が変わる店ではウィークデイとウィークエンドで切り替えるべきだろう。

 

■店舗のスキル復活が問われる

 POSが定着し何でも本部が決めて店舗に指示する本部集権体制になって久しいが、個別店舗の在庫状況や販売動向によって各店舗が判断すべきことは少なくないし、「出前ユニット」や編集ユニットの構築、ウエアリングの味付けやルックの組み替えなど、店舗のスキルが問われる局面も多々あるはずだ。とは言え、本部集中が進んで久しく、店舗のスキルが失われたアパレル店が大半なのが現実だ。結果、店舗のスキルを頼れず値引き販売への依存が深まり、原価率を切り下げてお値打ちを損ない、それがまた値引き販売依存を深めるという悪循環を抜け出せないでいる。

 コロナ禍でそんな荒っぽいやり方は絶壁に当たり、原点に回帰してMDとサプライ、店舗の在庫運用の連携を再構築する必要に迫られている。ECが拡大して救世主となったとは言え、単品登録カートという基本構造ゆえ単品訴求を大きくは出られないし、ECだけでは新商品を実体験したり新たな着こなし着崩しを知ってもらう機会も限られ、店舗をお試しや受け取り、出荷の拠点とするC&Cも実現しない。かつて利幅が薄かった時代に店舗が持っていた「売り切るスキル」をもう一度取り戻し、店舗を稼げる拠点に蘇らせない限り、アパレル販売に未来はないのではないか。

論文バックナンバーリスト