小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『米国アパレルマーケットの変貌』
(2023年04月04日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 コロナ明けのリベンジ消費も一巡し、インフレと利上げに挟まれて消費の減速が目立ち始めた米国のファッション市場だが、どんな変化が進行しているのだろうか。久方ぶりに訪れたLA(ロサンゼルス)の印象をお伝えしたい。

 

■インフレバブルとローカルチェーンの没落

 FRBが金融不安リスクを冒しても押さえ込みたいインフレバブルが収まらない中、フードサービスやブランドビジネスでは「値上げしたもの勝ち」の様相を呈して法外価格が横行しているが(フードサービスの価格感覚は日本の4〜5倍)、それについていけるのは高所得層や富裕層だけであって、大部分の中下層は生活苦に喘いでいるのが米国の現実だ。メトロポリスとカントリーで格差があるがメトロポリスでは年収10万ドルでも苦しく、中低所得層では家賃負担が手取りの過半を超えてホームレスに陥る人が少なくない。LAでは廃車同然のトレーラーハウスの不法駐車が目立つが、これが車社会のホームレスなのだそうだ。

 サウスコーストプラザやビバリーセンターなどハイクラスのリージョナルモールではラグジュアリーブランドやベタープライスブランドがファッションテナントの過半を占め、対極のグローバルSPA御三家(ZARA、H&M、UNIQLO)に挟まれてローカル(米国)のアパレルチェーンが半減しており、かつての常連チェーンは家賃の安いカントリーのモールやタウンセンターに逃げ出している。

コロナ禍を経てモールに代わる衣料購入の主舞台となったのがオープンスタイル&ダイレクトパーキングのタウンセンターやストリップモールで、DS(ディスカウントストア)のターゲットやウォルマート、大衆デパートのコールズ(お手頃NB揃えのデカいしまむらと思えば良い)を核にT.J.MaxxやRoss、ノードストロム・ラックやサックス・オフ5thなどオフプライスストアが揃う。

 モールのローカルチェーンがインフレに押されて割高になる一方(だから顧客が離れて業績が低迷、あるいは頭打ち)、ターゲットやウォルマートは調達地域をシフトして低価格をキープしており、ブランドメーカーとのタイアップ調達が進むオフプライスストアとともに大衆(概ね年収12万ドル以下)の衣料消費に応えている。インフレバブルが受け入れられて高額化が進むラグジュアリーブランドと手頃なオフプライスストアやDSの衣料品、グローバルSPA御三家に挟まれ、米国のアパレルチェーンは行き場を失っている。全米展開のアパレルチェーンでも、メトロポリスのモールからカントリーのモールやタウンセンターに主戦場を移すケースが目立ち、ジーンズセレクトのバックルのようにLAメトロポリスから消えたチェーンもある。

 過剰資金供給でインフレバブルが定着した米国社会はまさにHGウェルズが「タイムマシン」で描いたような資本家(資本所得者)と労働者(知識階級も含めた労働所得者)の両極社会に陥っており、大多数の米国市民は権威主義国家の人民より幸せとはもはや言い難くなって来た。

 

■ライフスタイルブランドが成功条件

 モールのアパレルチェーンで勢いがあるのがヨギーライフスタイルのルル・レモンで、23年1月期は81店増えて655店(米国内は26店増の350店)になり、売上は29.6%(米国内は30.1%)、既存店も16%増えた。直営店は29.3%伸びて45.0%、D2C(オンライン)は33.2%伸びて45.6%、他(アンバサダーへの卸売上など)は16.0%伸びて9.4%を占めた。売上は前々期から84.3%(米国内は82.1%)も増加したが、MIRROR(スタンドミラー型オンライン対面エクササイズシステム)の買収に関わる減損で営業利益は前期から0.4%、純利益も12.4%減少している。

 ルル・レモンと似たようなスウェット軸のライフスタイルブランドも広がっており、D2Cブランドからライフスタイルブランドに発展したVIORIはノードストロムにも展開している。スウェット軸ライフスタイルブランドが広がる一方、苦戦が目立つのがデニム軸のワークカジュアルだ。

22年1月期はコロナ禍からの回復も手伝って売上を43.6%も伸ばし25.9%の営業利益率を誇ったジーンズ軸セレクトチェーンのバックルだが、23年1月期は売上が3.9%増にとどまって営業利益率も24.4%に減速。店舗数も441店と前期末から1店増に留まり、19年からは7店舗減った。売上に占めるデニム製品比率(同社のジーンズは大半がPB)も前々期の40.7%から39.6%に落ちている。LEVI’S BRANDの米国内売上も22年の第2四半期(3〜5月)までは17.4%増と好調だったが第3四半期(6〜8月)は3.4%増と減速し、第4四半期(9〜11月)は4.7%減と失速している。不調なのは伝統的なワークジーンズであって、キレイめライフスタイル感覚のMOTHERやGOOD AMERICANなどベタープライスブランド(200〜400ドル)はまだ堅調で、PAIGEのようにライフスタイルブランドに発展するケースも見られる。

 VFコーポレーションのカテゴリー別売上伸び率(Constant Currency/現地通貨ベースと同義)を見ても、22年第3四半期(10〜12月)でWorkが3%減に対してOutdoorは10%増、ブランド別に見てもDickiesの13%減に対してThe North Faceは13%増とワーク系の苦戦とアウトドア系の好調が対比される。1Q〜3Q計の9ヶ月で見ても、Workの8%減に対してOutdoorは13%増、Dickiesの14%減に対してThe North Faceは17%増と傾向は変わらない。

 米国のカジュアルマーケットはA)加工面のデニム軸ワークカジュアル、B)ライフスタイル感覚のジャージ軸スウェットカジュアル、C)キレイ面の合繊アウター軸スポーツ&アウトドアカジュアル、D)スタイリッシュなチノ&合繊クロス軸ビジネスカジュアルから成るが、現在の局面はデニム軸ワークカジュアルが縮小してライフスタイル感覚のジャージ軸スウェットカジュアルと合繊アウター軸スポーツ&アウトドアカジュアルが拡大している。日本では合繊アウター軸スポーツ&アウトドアカジュアルの拡大が目立つがジャージ軸スウェットカジュアルのムーブメントは限定的で(ルル・レモンも日本では伸び悩んでいる)、むしろアクティブスーツなどスタイリッシュな合繊クロス軸ビジネスカジュアルの拡大が特筆される(The North Faceのビジネスラインは日本だけの企画)。

 どの軸から発展するにせよ、大型ブランドに成長できるか否かは「ライフスタイルブランド」としてマーケットに認知されるかどうかにかかっている。それは米国も日本も同様で、ものづくりの論理にこだわっていては自ら壁を作ることになりかねない。

 

■拡大するオフプライスストアのタイアップ調達

 メイシーズの第4四半期売上が前年同期から2.7%減少して通期でも0.6%増に留まり、ノードストロムも第4四半期売上が4.1%減少して通期でも4.8%増に留まり、コールズは第4四半期売上が7.4%も減少して通期でも6.9%減少するなどデパートの苦戦が深まる一方、TJXのMarmaxx(T.J.MaxxとMarshalls他)米国売上は消費が減速した第4四半期でも8.0%増加するなど、オフプライスストアはまだしも勢いがある。

 ロスストアーズこそ前期が50.9%も伸びた反動もあって通期売上は1.2%減少したが、店舗数は2015店(全て米国内)と92店増え、TJXも米国内店舗が3480店と120店増加しており(内T.J.MaxxとMarshallsは50店増の2482店)、メイシーズのフルライン店が507店と3店減少し(ブルーミーは55店で変わらず)、ノードストロムの新店が新業態のASOS(TOP SHOP軸の小型スペシャルティストア)とRackの計2店に限られて358店(米国内のフルライン店は94店で変わらず、ラックは241店と1店増)にとどまり、コールズも1170店と5店増にとどまったのと比べれば勢いの差は明らかだ。

 そんなオフプライスストアで目立っていたのがタイアップ調達のブランド商材(大半がライセンス品と思われる)だ。

オフプライスストアと言うと小売店の売れ残り品やメーカーの過剰生産品というイメージが強いが、前者はバラ残になって色やサイズが欠けているし、何より絶対量が限られる。後者は色やサイズは揃うしロットも多少はまとまるが、放出は極めて不定期で安定供給は望めない。そんな調達ではせいぜい数十店舗を動かすのが限界で、数百数千のナショナルチェーンを稼働するのは不可能だ。

加えて売れ残り品や放出品はシーズン遅れが避けられず、今シーズンの鮮度を求めれば計画的なタイアップ調達品が不可欠になる。最大チェーンのTJXでは半分近くがブランドメーカーとタイアップした計画調達品だと言われるが、自社デパートの売れ残り著名ブランド品を売り物にしてきたノードストロム・ラックやサックス・オフ5thとて明らかにタイアップ品が増えている(Rossとバーリントンは例外)。

どのオフプライスストアもコーナーフロントやラックエンドに色もサイズも揃ったタイアップや放出のブランド品を打ち出し、その奥にアイテム別やサイズ別に編集した売れ残り品を並べるのが定石だが、消費の減速でブランドの放出品やタイアップ品が増え、コーナーフロントやラックエンドの魅力が増している。それを目当てに来店する顧客も多く(バラ残品から探すより断然タイパが良く新鮮品が手に入る)、プロパー流通が停滞するブランドメーカーも取引を広げることになる。

どんな著名ブランドがコーナーフロントを彩っているか、アパレルはともかくライセンスが主流のバッグやインティメイトウェアではマーク・ジェイコブスやトリーバーチ、ケイトスペード、カールラガフェルト(バッグ)、カルバンクラインやノーチカ(インティメイトウェア)が目立っていた。

 

■Amazon Styleは離陸するか

 最後に、18年1月にシアトルで初公開されたamazon Go(自律型コンビニエンスストア)、20年9月のウッドランドヒルズ店(LA)から始まったamazon Fresh(半自律型グロサリーストア)に続き、22年5月にグレンデール・ギャレリア(LA北部)に登場したamazon Style(アマゾン初のアパレルのショールーミングストア)に触れておきたい。一年前の4月1日の本誌に寄稿した『ショールーミング型店舗「アマゾンスタイル」の離陸は難しい』でZARAやGUのショールーミングストア同様に実験で終わる運命だとリポートしたが、22年10月にコロンバス(オハイオ)のイーストン・タウンセンターに開店した2号店の詳細が伝えられるに及び、その非現実的な採算性に確信を深めた。

 1号店(2790平米)も2号店(2604平米)もZARAの実験店と同様なサンプル陳列(ワンサイズ・ワンカラー)で、サンプルのハンガーに貼り付けられたQRコードを専用アプリのカメラ機能でスキャンして色・サイズを指定し、試着希望のアイコンを押す。バックヤードで試着サンプルが用意される間、性別や身長、体重、スタイリングの好みなど幾つかの質問に答えると、後で試着室のサイネージにリコメンド(おすすめ品)が表示されることになる。

試着サンプルがピッキングされて試着室に用意されるとアプリに試着室ナンバー(2号店では40室もある)の案内が来て、そのアイコンが試着室を解錠するキーになる。最後の解錠システム以外はZARAの実験店と同様で、似たようなハンガー駆動のロボットピッキングシステムが後方で作動しているはずだ。

課題はロボットピッキングシステムに要する広大な後方スペースと、ピッキングはともかく戻し検品に要するとんでもない人手で、ZARAはこれに音を上げて多店化を諦めた。

amazon Styleも売場(ショールーム)は賃貸面積の半分にも満たず(2号店では2604平米中の1209平米)、スペースの過半を占める大仕掛けなバックヤードもともかく、店舗従業員が100人(正社員勤務時間換算で60人ぐらいか?)にも及ぶのには驚く他はない。同規模のユニクロでも正社員勤務時間換算30人ほどで運営しているから、過半は試着サンプルのピッキング(ストックからのピッキングは自動でもFRへのセッティングは人力)と戻し検品に要するバックヤード作業員だと思われる。

当然に採算性は無く、オンライン販売のお試しとUXのショールームと割り切るから出来る贅沢で、多店化は非現実的だ。行動画像解析AIの旧式技術でカメラや各種センサーをハリネズミのように装備したamazon Goとて、クラウド経由の商品画像AI照合技術が確立された今となっては“使えないレガシー”でしかなく、後者に移行したamazon FreshのDash Cart(4方向にカメラを装備する)システムに交代していくのではなかろうか。

最新技術もマテハンに足を取られて実用化に手間取ると新たな技術に追い抜かれてレガシーと化し、戦力となることなく消えていく。そんな一例だと思う。インディテックスとて旧式化した防犯兼用のアクティブRFIDタグ(高価な使い回し型)を放棄し、今シーズンからパッシプRFIDインレイ縫込みに切り替えたではないか。

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