小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔が指摘する外資SPAの凋落要因』 (2019年04月10日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_e6626a3804a97bade50878f2fd79140e861998

 

 ギャップジャパンは「GAP」の旗艦店たる原宿店を5月7日で閉店するが、17年5月には渋谷店も閉店しており、日本国内の旗艦店は銀座店だけになってしまう。ギャップジャパンは17年1月末までに「オールドネイビー」の全53店舗を閉店して撤退しており、日本国内売上高は15年の推定1060億円をピークに18年は600億円前後まで急落したと推計される。
 H&Mジャパンとて18年は7月16日に上陸1号店の銀座旗艦店を閉店しており、新規に10店を出店しても売上げは減少に転じている。フォーエバー21も17年10月に上陸1号店の原宿旗艦店を閉店したのをはじめ、17年中に5店舗を閉店しており、ピークの25店から16店に減少して売上げも減り続けている。インディテックス系日本法人(ZARA主力)とて18年は店舗数も増えず、売上高は10%近く減少したと推計される。
 主要外資SPAの合計売上高も15年をピークとして減少に転じており、18年はピークの8掛け強まで萎縮したと推計される。一時は破竹の勢いで急成長していた外資SPAはなぜ、総崩れになってしまったのだろうか。
      

img_8394eb5a28bbdfb877dc58c4e5c06068529499

店舗リストラとECシフトを加速するギャップ

「GAP」原宿店は日経電子版の記事によれば年商8億円程度とされるが、原宿駅真ん前の3層496坪の年間家賃は7億円を超えるはずで、90%近い家賃負担率ということになる。家賃が1階で月坪20万円以上とされる表参道や明治通りの路面旗艦店は売上対比家賃負担率50%が通説とはいえ、いくら何でも90%はないはずだが、家賃負担率50%の14億〜15億円(ユニクロならその倍以上売れる)を売っていたとしても大幅赤字には変わりなかったと思われる。

 ギャップ社は「GAP」業態の低迷が続き、北米店舗は17期連続で減少して758店とピークの1604店の半分以下になり、今後の2年間で北米中心に230店を閉めると発表したばかり。全社売上高は165億8000万ドルと4年ぶりに15年1月期の水準まで回復したものの、売上げの20%以上(最終公表の16年1月期で25.3億ドル/EC比率16.0%)まで上昇したと推計されるECとC&Cによる経費率圧縮をもってしても営業経費率は37.7%と上昇が止まらず、営業利益率は8.2%と14年1月期の13.3%には遠い。在庫回転も4.34回と低下が止まらず、13年1月期に比べれば12%減速している。

 今後は好調な「オールドネイビー」を分離上場して拡大し、「GAP」「バナナ・リパブリック」「アスリータ」など他ブランドを擁する上場会社を設立する事業再編とECシフトを進めるとしているが、「オールドネイビー」を撤退した日本市場では「GAP」や「バナナ・リパブリック」の店舗整理が進むだけで、再拡大は望めそうもない。

ファストファッションは縮小の一途

 一時はマーケットを席巻したファストファッションとて退潮が加速するばかりだ。

 H&M日本売上げのピークは17年(17年11月期)の628億円で、18年は10店を新規出店しても2%減少して615億円に落ち込み、平均月坪効率は11.5万円まで落ちて国内ユニクロ(28.6万円/18年8月期)の4掛けと格差が開いた。

 本国決算も既存店売上げが4期連続して前年を割り込み、EC比率を14.5%まで拡大しても営業経費率の上昇が止まらず、営業利益率は7.4%と10年11月期の22.7%の3分の1まで落ち込んでいる。荒利益率も低下が止まらず、在庫回転も2.79回と在庫消化の限界を切っているから、既存店売上げの減少を新規出店でカバーするのも限界だ。遅ればせながら今期は新規市場に380店を出店する一方で既存市場では140店を閉店するとしているから、落ち込みの大きい日本では不採算店の整理に転じて売上げの減少が加速すると思われる。

 H&Mを突き放す勢いのインディテックス(ZARA主力)とて、H&Mほどではないが店舗販売の効率が低下している。既存店売上げはプラスを続けても在庫回転はジリジリと低下傾向にあり、EC比率を12%に伸ばしても営業利益率は16.7%と13年1月期の19.5%からジリジリと低下している。

 既にEC比率の高い欧米では店舗整理に入っており、日本でも18年1月期には減店に転じ19年1月期も横ばいで、今後のECシフトとC&Cを考えれば増店に転じるとは考え難い。日本国内売上げも17年度の推計766億円がピークで、18年度は690億円まで減少したとみられる。

 非上場で数字を一切、公表しないフォーエバー21の日本売上げは推計が難しいが、15年にピークを打って18年は6掛け強程度に減少しているのではないか。

アメカジSPAも復調せず

 米国では復調が続くアメカジSPAも日本では復調が見られない。青山商事の子会社イーグルリテイリングが展開する「アメリカンイーグル」は青山商事の決算で売上げを公表しているが、16年の148億円がピークで既存店売上げの減少が続き、18年は120億円まで落ちると見込んでいる。 

 米国アメカジ御三家(エアロポスティルが破綻して現存は二家)の筆頭、「アバークロンビー&フィッチ」も09年12月に上陸してから現在もプロパー3店/アウトレット2店、同社が手掛けるサーフカジュアルの「ホリスター」も13年9月に上陸してから6店にとどまっており、拡大に転ずる勢いはない。

 米国市場はともかくストリートのウエアリングがカジュアルマーケットをリードするわが国では、スポーツ/アウトドアアイテムとドームアイテムを軸にリミックスする“ゆる抜け”なアスレカジュアルやオーバーサイジングなエクストリームカジュアルが拡大しており、ストリートに変形したアメカジはともかく古典的なアメカジが復調する余地は限られる。スポーツ系の合繊アイテムを軸にキレイ目シフトも顕著で、アクセントアイテムとしての加工デニムを除けば、加工くたりアイテムをガニ股に着るメンズの旧態なワークスタイルやナチュラルに過ぎるレディスのフェミニンスタイルに復調の兆しは見られない。

 米国のアメカジSPAは今風に進化するわが国のストリートウエアリングへのローカル対応力がなく、復調拡大を期待するのは無理がある。

変化対応とローカル/パーソナル対応の欠如は致命的

 アパレルは元来、テイストや季節展開などローカル特性が強く、とりわけアングロサクソン系やラテン系のアパレルブランドが体型の大きく異なるモンゴロイド市場に対応するにはローカルフィットが欠かせない。欧米ブランドの正規代理店による輸入商品は多くがジャパンフィットに別注されているが、ギャップ社を除けば外資SPAの商品はサイズ構成のバランスを変えるだけで、わざわざジャパンフィットのパターンを作って別途生産しているわけではない。

 14年の「ノームコア」以降、着る側のウエアリングが“レイヤード”“ゆる抜け”“オーバーサイジング”など多様化、高感度化する中、着崩さないジャストフィットを基本とする欧米アパレルのものづくりが着崩し勝手のよさを求める日本市場と乖離したことは外資SPAにとって少なからぬ逆風になったと思われる。

 加えて、SMIとミニマムロット生産のスルー物流で短サイクルに市場対応するインディテックスを除けば、ファストファッション系もアメカジ系もCMIとコスト優先の大ロット生産とダム型物流で変化対応力も個店対応力も欠いている。

 加速度的なデジタル進化でモバイル化とパーソナル化が進む今日のマーケットでは変化と個客・個店への対応力が成否を分ける。リードタイムの長い大ロット生産やダム型物流では変化に対応できないし、中央集権・全体最適なCMIでは個客と個店に対応できない。その意味でも、CMIでグローバル展開するSPAは過去のビジネスモデルとなったのかもしれない。ユニクロとてモンゴロイド圏のリージョナルSPAと割り切って部分的にでもスルー物流とSMIを取り入れる方が格段に高い経営効率が期待できるのではないか。

※CMI(Central Managed Inventory)は本部が品揃えと在庫のコントロールを担う体制。SMI(Store Managed Inventory)は店舗が部分的にせよ品揃えと在庫のコントロールを担う体制。

論文バックナンバーリスト