小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年10月12日付)
『店もリアルも捨てデジタルとバーチャルに走るの?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ZARAがEC受注の店在庫引き当てと店出荷に踏み切ってC&Cを加速させ欧州では半年で百店近くも減したのに続き、売れ残り在庫に苦しむH&MもECシフトを決断して18年中にECが拡大する先進国で140店を閉めると発表。それに間髪を入れずユニクロも10月からEC受注の店在庫引き当てと店渡しを始め、国内直営店舗数はピークの840店からすでに784店まで減っている。
 運営コストが嵩んで損益分岐点が高く、在庫の多店舗分散でロスが肥大する店舗はECに比べ格段に経営効率が低く(ゴールドマン・サックスの試算ではほぼ4分の1)、ECの拡大とともに売上が減少する店舗網は計画的に整理撤退して行くしかない。店舗の撤退は除却損や現状復帰費用、定借満了前撤退のペナルティなど予想外の損失を伴うから、ECの拡大による収益改善と店舗網の撤退損失を計画的にバランスしないと際どい綱渡りになる。
 加えて、拡大するEC部門と衰退する店舗部門の給与水準の摺り合わせという厄介な問題も解決しなければならない。EC部門は売上を伸ばしているのに店舗部門の低収益に足を引っ張られて期待ほど昇給しないと不満を抱き、店舗部門はECに売上が流れるから自分たちの給与が伸びないのだと不満が収まらず、両者のコミュニケーションが上手くいっていないケースが多々見られる。
 『店舗販売かECか』という議論はすでに過去のものとなり、ECが主流となる中で如何に出血を吸収しながら店舗を整理して行くか、ガバナンスが崩れないよう如何にEC部門と店舗部門の折り合いをつけて行くかが課題とならざるを得ないが、そんな現実に向き合っているのは一部の先行企業に限られる。
 ECや無人店舗にAIやIoT、フィンテックとテクノロジーの進化は加速度的で、目前の課題に振り回されているうちに時代の奔流に押し流されてしまう。売場はPOSの向こうに霞んで久しく、顧客もAIの彼方に遠のき、店頭(バックヤードは無人店舗も人手に頼る)もAIがエレキ仕掛けで動かしていく。デジタルのアーマーに身を固めるほどリアルの感触が覚束なくなり、何処までがリアルで何処からがバーチャルなのかも定かではなくなっていく。そんな本能的恐怖に怯える知性が残っているうちは救いもあるのだが・・・・

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