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商業界オンライン 小島健輔が提言
『オフプライスストアの離陸条件』(2019年12月02日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 衣料品の過剰供給が慢性化して大量の売れ残り品があふれているわが国なのに、米国のオフプライスストア(OPS)のような再流通の仕組みは未整備なままで、少なからぬ商品が焼却されたり繊維原料となり、あるいは中古衣料として海外に叩き売られている。そのロスが売価を押し上げ、資源を無駄遣いしているとの批判が高まるに及んでアパレル業界の意識も変わり始め、わが国でもオフプライスストアがようやく離陸の時を迎えようとしている。

不安定な供給がオフプライスストアのネック

 今年に入って4月25日にはゲオグループの子会社ゲオクリアがオフプライスストア「ラックラック・クリアランスマーケット」の1号店(427坪)を横浜・港北に開設。大阪の八尾、金沢に続いて年内には本庄に4号店を出店する。9月14日にはワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンの合弁会社アンドブリッジがオフプライスストア「アンドブリッジ」1号店(300坪)を埼玉・西大宮に開設。11月1日にはホームセンターのジョイフル本田がオフプライスストアの「ディスカバ!」を年内までの期間限定で宇都宮店内に開設。在庫処分業者ではShoichiが近隣型オフプライスストア「カラーズ」を国内に10店、マレーシアに8店布陣して出店を加速しており、「RENAME」で独自にブランディングするFINEも都心の百貨店などで期間限定のポップアップを展開している。

 これらオフプライスストアを展開している事業者にとって最大の課題となっているのが商品の調達で、ブランド直営アウトレットストアと同様、商品の供給が不安定なことが事業拡大の足を引っ張っている。もとより処分品は安定的に放出されるものではないから、何らかの方法で需要とのギャップを埋める必要がある。

 処分品の発生が不安定なアウトレットストアを多店化するには過半を専用企画商品で埋めるしかなく、米国系SPAのアウトレットストアでは90%以上が専用企画商品というケースも少なくない。それはオフプライスストアとて大差なく、800坪級の大型オフプライスストアを4300店以上展開する米国のTJX社では半分近くがメーカータイアップの計画調達と推計される。

 オフプライスストアも多店化するには安定した商品供給が欠かせないが、ブランドメーカー側の消極姿勢がネックになっていた。それがバーバリー社の巨額焼却処分が批判に晒されるなどサスティナビリティの高まりで流れが変わり、大手アパレルメーカーも焼却処分を避けて二次流通ルートへの放出に転じつつある。それでもブランドイメージの毀損は避けたいから、放出のタイミングや販路、ブランドタグの取り扱いや二重価格表示の可否など、最適な方法が模索されているようだ。

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ブランドとオフプライスストアの3タイプ

 ブランド価値や供給事情、価格帯や販売方法などから、オフプライス商品もオフプライスストアも3タイプに分類されるのではないか。

 誰もが思い浮かぶのが有名ブランドを値引き販売するブランド・ディスカウント型」で、ブランドメーカーが直営アウトレットストアで処分するような商品を仕入れて二重価格表示でオフ率を訴求する。著名なハイブランドやデザイナーブランド、人気のストリートブランドから百貨店やセレクトショップで販売されるキャラクターブランドやナショナルブランドまで、誰もが名前を知っていてプロパー価格も推察できる商品の鮮度とバラエティ、オフ率を競う。当然ながら「ブランドネーム」と「ブランドのプライスタグ」が付いていないと“商品”にならない。

 立地はアウトレットモールの中や近辺、あるいはダウンタウンの駅裏や裏通りだが、韓国では閉店した百貨店が転換したビル型アウトレットモールに出店するケースも見られる。

 その対極にあるのが生活圏立地で無名ブランドや量販SPA商品をオフ率でなく絶対低価格で訴求するプライスライン型」で、単品で500円、800円など百円単位、アウターでも1500円、2500円など、しまむらの処分価格を潜るプライスラインを訴求する。絶対低価格訴求だから「ブランドネーム」も「ブランドのプライスタグ」も必須ではないが、このランクではネームやタグを外すことを求めるブランドはほとんどない。求めるブランドがあったとしても、それに要するコストは引き取り価格を切り下げるから、取引は成立しないだろう。

 立地はしまむら的な生活道路やロードサイドの転貸物件、ストリップモール型NSCやパワーセンター型CSCだが、極論すればどこにでも出せる。百円ショップに近い立地感覚といっても良いだろう。

 両者の中間に位置するのがブランドの格や価格も両者の狭間の専門店ブランドや同クラスのSPAブランド、B級ライセンスブランドで、オフ率でブランド買いするほどの価値はなく、そうかといって絶対低価格のプライスラインまでは下がらない。消費者としてはプロパー商品同様、クラスとテイストで選択し、個別商品の魅力と価格を吟味して購入するから、仕分けと品揃え、編集陳列やフィッティング接客など、プロパー店と全く同様のMDと販売スキルが問われる。

オフプライスのセレクトショップ」という性格が強いから「プライスライン型」のような近隣商圏では成り立たず、「ブランドディスカウント型」に近い広域商圏を必要とするが、やり方次第では商店街やCSCでも成り立つ。そんな立地ではプロパー商品とオフプライス商品のハイブリッド品揃えもあるのではないか。

 ブランドの知名度にかかわらずクラスとテイストを識別して値踏みする上で「ブランドネーム」が不可欠で、外してしまえば販売消化を少なからず妨げる。「ブランドネーム」を外せば「プライスライン型」で販売するしかなくなるが、それでは価格が通らず、ブランドメーカーからの買い値も切り下げざるを得ない。このクラスは供給が潤沢でバラエティもあり、販路を管理すれば「ブランドネーム」外しに固執するブランドは極めて少数派になっているから、さまざまな可能性が期待される。  

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売れ行きに商品供給が追い付かない

 オフプライス商品はプロパー商品に比べると格段にお買い得だから、季節アイテムの供給が途切れず、購買プロセスを妨げず、立地がかみ合っていれば、プロパー店舗とは比較にならないぐらい売れる。米国のオフプライスチェーンの年間坪効率はロス・ストアーズが1万4990ドル、TJXが1万6108ドルとプロパーのアパレルチェーンより5割ほど高く、ノードストロム・ラックも1万7366ドルと自社の百貨店より52%高い(19年1月期/ノードストロムのみ18年1月期)。それはわが国でも同様で、アウトレットモールの坪販売効率は郊外大型SCを5割前後上回る。

 オフプライスストアのアキレス腱は季節アイテムの供給が途切れることで、夏にTシャツやリゾートアイテム、冬にニットやコートがなければ売上げが成り立たない。前述した3ランクの処分品供給には大差があり、オフプライスストアの事業展開を制約している。

 最も供給が絞られて不安定なのが「ブランド・ディスカウント型」商品で、とりわけ欧米からのインポートブランドは極端に供給が細っている。買取商品が大半ゆえ代理店も小売店も売れ残りを恐れて発注を抑制してきたから、国内では代理店の倒産商品を除いては色やサイズが欠けた少量のバラ残品しか放出されない。

 そんなのでは商売にならないから、欧米のオフプライスショーやデッドストックブローカーから調達を図っても、欧米の流通在庫はジャパンフィットになっていないから着れる人が限られる。ヴィンテージ商品などではあらかじめ袖や丈を詰めて販売するケースも見られるが、オフプライス商品としてはコストが合わない。加えて、海外調達の流通在庫はインボイスが怪しく、偽物が横行している。

 有力ディスカウントストアはジャパンフィットの正規ルート商品を狙うが、それでは供給が限られオフ率も30%が限界だ。出所が確かなジャパンフィット商品で供給が期待できるのはライセンス商品に限られ、「アンドブリッジ」でも海外ブランド品の多くはライセンス生産商品だった。

 ブランドネームがあって無きがごとくの量販ブランドやC級ライセンスブランド、低価格SPA商品は供給が安定しており、期末残品や持ち越し品だけでなく投入前キャンセル商品の供給も期待できる。米国オフプライスストアで主力商品となっているオンシーズンものの「パッカウエイ」商品(未投入のキャンセル品なので色もサイズもロットもそろう)の多くは、はなからブランドメーカー側がオフプライスストアに流すべくロットを上乗せして作ったタイアップ商品で、米国では中間クラスのブランドが多い。

オフプライス業者によるブランディングが突破口

 現状ではプロパー流通で生じた需給ギャップをそのまま二次流通業界が引き受け、不安定で偏った供給を上手に仕分けて再編成することなく非効率に分散処理している状況で、落ちた商品価値を再び高めて最終消費者に届け、資源の無駄遣いを抑制できているわけではない。受け身のビジネスであってオンデマンドに仕掛けているわけではないのだ。

 わが国でオフプライスストアが本格的に離陸するには、1)季節アイテムを欠かさないオンデマンドな調達、2)仕分けとさ・さ・げによる品質とサイズの適正表示、3)品揃えが分かりやすく購買ストレスのない売場、の3点が不可欠で、「オフプライス業者によるブランディング」と一くくりに言っても良いだろう。

 ブランドメーカー側の意識の切り替えに加え、オフプライス業者側のブランディング体制が整えば、ブランドメーカー側も値が通る早期タイミングでの供給に積極的になり、消費者への認知も進んで購買慣習が広がり、オフプライス業者が直営店をブランディングしてFC展開するなど急速に広がると期待される。米国以上に過剰供給で売れ残り品があふれ、直営アウトレット店での処分が定着していることを鑑みれば、ブランディング体制が整ったオフプライス業者によるイメージの高いオフプライスストアが登場すればブランド業界の認識は一変し、日本型オフプライスストアが開花するのではないか。

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