小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年11月26日付)
『店を生き還らせよう』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 最近のギョーカイはECに夢中で、実店舗の運営スキル向上に興味を失っているように見える。店舗スタッフのSNS投稿やECのスタッフ・プレビューによる購買誘導は評価されるにしても、ECに注力するほど売れ筋商品が店舗に回らなくなり、EC商品の受け渡しや店出荷に手間を取られて接客や売り切り編集がおろそかになるのではと不安になる。

 本部はPOSに依存するCMIで売場を見なくなり、売れ筋の補給と不振商品の値引き処理で在庫を回し、売場は本部指示のマークダウンに依存して売り切る編集陳列のスキルを忘れ、売れ筋は欠品して不振商品は積み上がり、値引きロスが肥大していく。ロスや残品が肥大する分、原価を切り詰めて利幅を確保すれば良い・・・・・そんな粗雑なやり方が続くわけもない。

 店舗は目の前の顧客を見て品揃えを擦り合わせ、売れない商品も売り切って利益を叩き出す拠点だったはずなのに、いつの間にか本部が送り込む品揃えを言われたままに並べて機械的に運用する端末に堕落し、低付加価値労働に終始して待遇の改善もままならない。初期投資も運営コストも嵩む店舗は損益分岐点が高いから、ライバル店やECに売上が流れれば容易に損益を割り込んでプロフィットセンターからコストセンターに転落してしまう。それが続けば(続かなくてもインパクトを失えば)定借期間満了で追い出しは避けられず、些細な営業収益は除却損と原状回復で帳消しになりかねない。

 『店舗が主体的意思を持って品揃えに関与し運営管理と編集陳列を工夫して利益を稼ぐ』という当たり前のメカニズムが作動しなくなったら、店舗は金食い虫の負債でしかなくなる。品揃えに店舗の意思を反映して達成意欲とスキルを引き出し、コストセンターからプロフィットセンターに変貌させる、という根源的なガバナンスの再生こそ、値引きと残品とお値打ち切り下げの悪循環を断ち切る突破口ではないか。

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