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ブログ(アパログ2018年06月11日付)
『リー&フォン社のサプライチェーン革命に注目!』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 6月11日付けのWWDジャパンは米「WWD」によるリー&フォン社スペンサー・フォンCEOへのインタビュー記事『デジタル化による“破壊のススメ”』を1.5ページに渡って掲載していたが、その内容は見出し以上に“革命的”なものだった。
 リー&フォン社のサプライチェーン革命は既に散発的に紹介されているが、CEO本人による具体的かつ包括的な解説で多くの読者は『何が起こっているのか、これから何が変るのか』を敏感に察知されたに違いない。第三者でなく当事者の発言ゆえ、“革命”が世界のアパレル業界を一気に変えて行くと予感された方も少なくなかったのではないか。
 リー&フォン社のサプライチェーン革命はIoTなデジタル化によってアパレルの生産スピードを倍速・4倍速・8倍速と加速度的に速めようとするもので、まずは仕様書〜サンプル確定の前工程のデジタル化だけで劇的な短縮が実現すると報告していた。
 何度か紹介したオンワードの「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」のケースでも、採寸〜マーキングのデジタルCAD化を軸にイージーオーダースーツの納期を1週間に短縮して(セル生産に移行すればさらに1〜2日速くなるはずだ)既製スーツとEOスーツの販売比率を劇的に変えつつある。消費者にとっては紳士既製服を修理加工すれば一週間ほどかかって加工料も加わるし、アパレルメーカーにとっては生産期間が半年以上もかかって在庫回転も年二回程度に留まるから、ハイスピードEOスーツは既製スーツを駆逐しかねない勢いで拡大している。
 スペンサー・フォン氏も『何ヶ月もかけて生産している間に次々とSNSなどで紹介される新たなトレンドに興味が移りマーケットは冷めてしまう』(私の意訳)と指摘しているが、今日の世界的なアパレルの過剰供給は水平分業(SPA)による需給調整機能の欠如、長い生産期間と速いマーケット変化のギャップが主要因と思われる。生産期間がIoTなどデジタル革新によって劇的に短縮されれば需給ギャップが圧縮され、アパレル流通の非効率性も少なからず解消されると期待される。
 リー&フォンのサプライチェーン革命はまだ始まったばかりで、クライアントアパレルに理解が浸透する時間を要するし、生産工程や物流プロセスまで再編するのはこれからだが、この革命劇は間違いなく世界のアパレル・サプライチェーンを一変させて行く。この奔流に乗り遅れれば大手商社やグローバルSPAと言えども時代に取り残され化石となる運命を免れない。過去の慣習に囚われず変化の現実を直視するべきだろう。

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