小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『「ユニクロ」「無印」の抱える課題』(2020年01月20日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_ebd86d61be7d79e72acd64156bcc253a1108617

 デフレの勝ち組として不動の地位を築いた「ユニクロ」「無印」だが、業績の下方修正や在庫の肥大など、ここへきてさまざまな課題が露呈しており、SPAとしての根源的ビジネスモデルにも疑問符が付き始めている。

「ユニクロ」も「無印」も業績予想を下方修正

 ファーストリテイリングは1月9日に発表した20年8月期の第1四半期決算で売上収益が3.3%、総利益が3.7%、営業利益が12.4%、前年同期より減少し、20年8月期の業績予想を売上収益で600億円(2兆4000億円→2兆3400億円)、営業利益で300億円(2750億円→2450億円)、下方修正した。

img_c190f60f5b67705dc9161b9db58901c41125490

 ジーユー事業こそ売上収益が11.4%、営業利益が44.4%も伸びて好調だったが、全社売上げの37.4%を占める国内ユニクロ事業が暖冬や消費増税で売上収益が5.3%減少し、同45.0%を占める海外ユニクロ事業も韓国と香港が大幅な減収減益で売上収益が3.6%、営業利益が28.0%減少したのが響き、下方修正を余儀なくされた。韓国と香港は政情不安というカントリーリスク、国内ユニクロは消費増税という国策リスクに直撃されたとはいえ、不動の勝ち組と言われた「ユニクロ」が業績の大幅下方修正に追い込まれたショックは大きく、発表直後は株価も大きく下げた。

「無印良品」の良品計画(連結)も1月10日、20年2月期の業績予想を下方修正している。第3四半期までの累計で営業収益と売上高がともに7.9%増にとどまって営業利益が14.5%減となり、通期の売上高を4554億5100万円から4437億円に2.6%、営業利益を452億9600万円から378億円に16.5%下方修正し、一転しての減益予想に株価はストップ安となった。

img_7e76db713e28a979f20c35d1c8f47bd2769281

 業績見通しの下方修正で株式時価総額も減少したが、ファーストリテイリングと良品計画では桁が違う。時価総額が企業の将来評価だとすれば、6兆8226億円のファーストリテイリングは5795億円の良品計画の11.8倍(売上高は5.3倍)の企業価値が評価されていることになる。ポスト「ユニクロ」の本命と注目されるワークマンは売上高は669億円(チェーン全店売上高は930億円)でも株式時価総額は7972億円と、良品計画を4割近く凌駕する。そんな見方をするなら、株式時価総額が3000億円を割り込んだしまむらなど、既にマーケットは見放している。※株式時価総額は各社とも15日の終値。

 それだけ市場の評価は良品計画に厳しいが、成長性という点では「無印良品」が「ユニクロ」を凌駕している。「ユニクロ」はなぜ伸び悩むのか、「無印良品」はなぜ収益が悪化しているのか、両者を比較すればデフレに直面する小売業の戦略が見えてくる。

伸び悩む「ユニクロ」

 同じ下方修正といってもファーストリテイリングと良品計画では事情が異なる。ファーストリテイリングは売上高の伸び悩みが収益を低下させ、良品計画は売上高は伸びているのに収益が低下しているという対局の構図が見られる。ここからは市場性もにらんだ比較とするため、両者とも国内事業に絞って検証してみたい。

img_5b8aa7440259c7e54b785daf76858e12340448

 国内ユニクロ事業の売上収益は16年8月期以降、2.5%増(既存店0.9%増)、1.4%増(同1.1%増)と伸び悩み、18年8月期は6.7%増(同6.2%増)と巻き返したものの、19年8月期は再び0.9%増と停滞している。20年8月期第1四半期(9〜11月)は消費税の増税もあって5.3%減と失速し、12月も直営全店とECで5.5%減と低迷を深めている。

 第1四半期(9〜11月)はユニクロにとって一番の稼ぎ時で、18年8月期は541.13億円と年間営業利益の45.8%も稼いでいたが、今第1四半期の385.57億円では37.4%ほどにしかならず、次いで利益貢献の高い第2四半期も12月が5.5%減では大幅減益が避けられない。

 第1四半期はEC売上げ247億円を含んでも前期から131億円落としたが、そのEC売上げも4.1%増と急失速しており(18年8月通期は32.0%増)、状況の深刻さが伺える。前期の売上げシェアは第1四半期が28.2%、第2四半期も28.1%あったから、このペースでいくと上半期で前期から260億円以上、売上げを落とすことになる。

 どうしてそんなに売上げが低迷しているのか、売上げの中身を見ると推察がつく。第1四半期の既存店+ECの売上前年比は4.1%減だったが、客単価は4.5%落ちても客数は0.4%とわずかながら増えている。「ユニクロ」人気は落ちていないが、消費増税による高単価品の買い控えに暖冬による高単価防寒アウターの販売不振が加わり、売上げを落としたと思われる。

 それだけなら良いのだが、ユニクロの店頭を見るにつけ、防寒アウターなど高品質なのかもしれないが、“大衆”の手が届く価格を逸脱している。周囲には、もっと味があるのにユニクロより手頃な商品が氾濫しており、ユニクロはかつての百貨店平場NB的な中級品と位置付けられ始めている。その認識が臨界点まで行った時、劇的なユニクロ離れが始まるのかもしれない。

 19年8月期で46.7と前期から1.7ポイント落とした荒利益率を今第1四半期(9〜11月)では2.3ポイントも上昇させたのも良品計画とは対照的で、利益確保が優先され、価格を抑制しようという戦略意思を欠いている。グローバルなお金持ち企業になって庶民感覚から乖離してしまったとすれば、国民的カジュアルの座もいずれ危うくなる。

 社会負担と増税で手取りが目減る中での2%の消費増税は庶民には残酷で、「無印良品」も「ワークマン」も内税で消費増税をのみ込んだのに、「ユニクロ」だけは外税で顧客に転嫁したことも微妙に影響したと思われる。もはや庶民の痛みなど分からない上から目線のお金持ち会社と見なされ、親近感を抱けなくなったとすれば、ユニクロの失ったものは計り知れない。

収益が陰る「無印良品」

 業績予想を下方修正したとはいえ、良品計画の売上げは好調を継続しているが、販管費と在庫の負担が収益を圧迫している。

img_fb034b5c78ff596d4ce8ab951a741ed0393820

 良品計画の国内事業は19年2月期こそファミリーマートへの商品供給の終了もあって5.9%増と減速したが、16年(2月期、以下同)は9.8%増、17年は8.6%増、18年も9.5%増と順調に売上高を伸ばしてきた。直営店売上げも16年は11.1%増、17年は8.2%増、18年は11.4%増、減速した19年も6.8%増と堅調で、17年3月以降、19年4月に直営既存店が99.5と落とした以外は全社でも直営全店でも直営既存店でもプラスを続けており、売上げに陰りは見られない。

 ただしWEB(EC)は16年が18.1%増、17年が11.6%増、18年が3.9%増と減速しており、回復した19年も10.1%増と大手アパレルチェーンと比べると伸びが鈍い。店舗販売の方が伸び率が高いぐらいで、EC比率も17年の7.0%(174.9億円)から18年は6.5%(181.7億円)、19年も6.6%(200.0億円)と伸びず、18年8月期には国内ユニクロ(7.29%/630.6億円)に抜かれ、19年8月期は9.53%(832.3億円)、20年8月期第1四半期は10.6%(247億円)と伸ばすユニクロに引き離されている。

 売上げが200億円を超えると自社運営ECの経費率は店舗販売の6〜7掛けまで低下するはずで、とりわけ1人当たり売上額は店舗販売の10倍を超えるから、WEB売上げが伸び悩むということは収益改善、とりわけ人件費負担の軽減が遅れることになる。

 売上げが伸びているのは客数が増えているからで、19年2月期は7.9%増、19年3〜8月も9.8%増、消費増税の9〜11月も16.8%増、12月も19.7%増と加速している。社会負担増と増税で手取りが目減りし生活消費財のデフレ要求が高まる中、取り扱い全7000品目中、18年春に2400品目、19年秋に1100品目を値下げした効果は絶大だった。ユニクロと違って内税で増税をのみ込んだことも好感を得たのではないか。

 今期に入ってどのカテゴリーも好調に加速しているが、衣料品の客数の伸びが際立つ。19年2月期で11.8%、今上半期で12.1%、9〜11月では18.0%、12月は23.2%も客数が伸びている。その分、客単価は落ち続けており、19年2月期で3.8%、今上半期で5.6%、9〜11月では10.8%、12月は12.0%も落ちている。それは全体でも同様で、19年2月期で3.5%、今上半期で5.8%、9〜11月では7.1%、12月は8.3%も落ちている。

 消費者のデフレ要求に真っ向から応える大判振る舞いだが、その分、荒利益率を大きく落としているわけではない。19年2月期は前期から1.3ポイントダウンの39.1だったが前々期の37.7よりは高く、今期も第3四半期までで38.5と前年同期より1.6ポイント落としているが、政策的な許容範囲と思われる。値下げで消化率が高まって値引きが減り、値入れを削った分の大半を埋めたと推察されるが、ぜひとも参考にしてほしい“大実験”だ。

 利益を圧迫しているのは販管費で、19年2月期は33.1%と前期から1.3ポイント肥大したが、そのほとんどは人手不足下であえて適正配備まで増員した人件費で、11.4%と1.2ポイントも上昇している。増員当初は作業効率が低く人件費負担が重いが、慣れてくればスキルも上がり、客数が増えて売上げが上がる分、増員してよかったという結果となるのではないか。そのコスト増を相殺するにはWEB売上げの拡大が急務で、顧客利便に応えるためにも店舗拠点のC&Cが急がれる。

両者に共通する在庫負担の闇

 もう一つ、良品計画の利益を圧迫しているのが在庫の積み上がりで、実質坪当たり在庫は16年2月期の40.30万円から19年2月期は49.41万円まで22.6%も増加している。この間の坪販売効率の上昇は6.9%でしかなかったから在庫負担が高まった。

 良品計画の在庫運用は外部には理解し難いほど複雑で、良品計画単体が抱える在庫のうち店舗にあるのは37%だけで、63%は本部(DC)に積まれている。「実質坪当たり在庫」が決算説明書の記載数値の2.7倍になるのはそういうわけだ。しかも、ECを拡大してきたせいか店舗在庫率は年々低下しており、15年2月期には49.4%だったのが18年2月期には40.7%まで落ち、19年2月期には37.0%まで落ちている。しかも、それは販売期間に入った在庫だけで、シーズン前に仕上がった生産地在庫は海外店舗向けも含めてグループのソーシング子会社が管理しており、連結決算では2.2倍にも膨らむ。海外店舗向けの在庫を差し引いても、店舗にある在庫は全体の4分の1ほどにすぎないという計算になる。

 これはユニクロとて同様で、店舗が抱えるのは国内在庫の40%ほどで、残りの60%は国内の補給倉庫に積まれており、さらに販売期間前に生産地倉庫に積み上がった在庫が国内倉庫在庫と同じぐらい(時期で大きく異なる)あるはずだ。となれば、店舗が抱える在庫は全体の25%ほどになる計算で、良品計画と大差ない。

 年間の在庫回転も店頭在庫だけでなく、国内倉庫在庫やソーシング子会社や商社が抱える生産地倉庫在庫も合わせて算出しなければ実態はつかめない。良品計画の場合は単体で4.95回転が連結だと2.44回転に落ちるから(19年2月期)、まだしも分かりやすい。ユニクロの場合は意図的かと疑いたくなるほどで、18年8月期第2四半期までは店舗在庫しかBSに計上しておらず、第3四半期から国内倉庫在庫を計上して在庫が2.4倍に膨れ上がり、在庫回転は5.01回から3.10回に急落し、19年8月期では2.43回転まで落ちている(期首在庫と期末在庫の平均を基準とするため)。しかも、商社が管理する生産地の仕上がり在庫はまだ計上されておらず、それまで加えると実質は2回転しかしていないと推察される。

SPAの幻想を捨てデジタル生産とVMIに賭けよ

 両者に限らず、小売業からSPA化したケースでは初期はベンダーやOEM業者、大きくなってくると商社やソーシング子会社に海外生産地から国内倉庫までの物流と在庫管理、そして在庫負担を担わせるのが常識で、その間がブラックボックスになるかならないかが問われる。

 ユニクロの場合は有明プロジェクトの過程で商社に任せっ切りの実態が露呈したが、直近決算の方針を見ても根本的に解決する意思があるようには見えない。オンデマンドな補給をうたう一方で生産地倉庫には相も変わらず作り貯めするという矛盾は理解し難い。良品計画がその点をどう考えているかは分からないが、直営店とは限らない海外店舗への商品供給をオンデマンド化するのは想像以上の困難が伴うだろう。

 コストの安い遠隔地で大量生産して積み上げ、シーズン前に国内倉庫に移送して、店舗の販売動向に即して補給し売り減らす、という古典的なSPAの在庫効率は救いのないもので、効率的な流通で良品を低価格で提供するという理想には遠い。私が推計した正価対比の調達原価率はユニクロで36.5%、良品計画で34.0%だが、ユニクロの方は商社への手数料が乗っているから、実質は似たようなものだ。ワークマンは44.3%と一回り高いが、65%という“神話”には遠い。

 50%を超える原価率で革命的にお値打ちな商品を提供するには、受注先行の無在庫デジタル高速生産か、生産ラインを短サイクルでコントロールできるベンダーと取り組むVMIしかありえない。いい加減にSPA神話の幻想から覚め、大量の在庫を抱えず在庫ロスのないサプライチェーンを築くべきだろう。

論文バックナンバーリスト