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WWD 小島健輔リポート
『アパレルの労働生産性の壁を越えるレバレッジ戦略』
(2022年11月11日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 アパレルビジネスの収益性を左右する最大要素とされるのが労働生産性だが、こつこつと改善を積み上げても限界があり、製販の分業や同盟、システム装備や資本装備のレバレッジを効かせない限り、高収益は望めない。頑張ってるのに儲からないアパレルに共通するのが「一人当たり売上」や「一人当たり粗利益」の低さで、何のレバレッジも効かない労働集約型には限界がある。では、どんなレバレッジを効かせれば労働が報われる高収益が実現するのだろうか。

 

■アパレルチェーンに見る労働生産性の効率指標

 企業の収益力を評価するには「資本」の生産性を指標とするのが一般的で、総資本に対する収益性を問うROA(Retern On Asset)、あるいは自己資本に対する収益性を問うROE(Retern On Equity)が使われる。我が国では安全性を重視して自己資本比率を高める(配当性向を抑制して内部留保する)ROA経営が志向されるが、米国では配当性向を高め自社株を買い入れて自己資本を抑制し借入金でレバレッジを掛けるROE経営が志向される。米国の上場アパレルでは結構、高収益なのに自己資本を抑制して借入金に依存するケースが多く、自己資本比率や純資産対運転資金比率を見ると危なっかしいほどタイトな運用に驚かされる。

 投資家やアナリストの間で大っぴらに議論される資本の生産性に比べれば労働の生産性は現場段階の運用指標やPL段階の効率指標にとどまることが多く、政策的にレバレッジを掛けるケースは少ないが、人的コスト(人件費と外注費)は設備コスト(賃料と減価償却、金利負担)と並ぶ販管費の中核であり、収益性に直結する。人件費は物流費や運営委託費など外注費に隠れることも多く、実態で捉える必要がある。その上で「売上対人件費率」や「粗利益対人件費率」、パートタイム雇用者もフルタイム換算して「一人当たり売上」や「一人当たり粗利益」、より正確には「人時売上」(一人一時間当たり売上)や「人時生産性」(一人一時間当たり粗利益)を算出して管理指標とするべきだ。

 上場企業の開示資料から「人時生産性」まで算出して比較するのは難しいが、「一人当たり売上」や「一人当たり粗利益」は容易に掴める。東証上場の主要アパレルチェーンを比較すると、「一人当たり売上」が最も高いのはしまむらの3867.3万円で国内ユニクロ事業の2961.5万円が続くが、「一人当たり粗利益」は垂直統合型と仕入れ型の粗利益率の格差で国内ユニクロ事業の1569.6万円がしまむらの1318.7万円を逆転する。

 この両者が低単価商品(しまむらは887円、ユニクロはその3倍程度と推察)を扱うのに対し、ユナイテッドアローズや青山商事ビジネスウエア事業(スーツだけ取れば平均26,767円)は商品単価が万を超え、「一人当たり売上」も高くなる。

ユナイテッドアローズの「一人当たり売上」は最盛期の14年3月期には3814.7万円(「一人当たり粗利益」は2033.2万円)にも達していたが、直近22年3月期は2474.9万円(「一人当たり粗利益」は1235.0万円)と65掛け(「一人当たり粗利益」は61掛け)まで落ち込んでおり、給与水準を維持できなくなっている。青山商事ビジネスウエア事業の「一人当たり売上」も19年3月期の2722.3万円(「一人当たり粗利益」は1595.3万円)から22年3月期は2205.0万円(「一人当たり粗利益」は1221.6万円)と落ち込んでおり、収益はもちろん給与水準の維持も難しくなっている。

 両社に比べればカジュアルチェーンの商品単価は低く、アダストリアの「一人当たり売上」は1785.2万円、ライトオンは1816.5万円と2000万円の大台に届かず、「一人当たり粗利益」もそれぞれ983.6万円、895.5万円と1000万円に届かない。「一人当たり売上」が1365.4万円にとどまるハニーズは粗利益率が高く、「一人当たり粗利益」は823.3万円と800万円のボーダーはクリアする。非上場のアパレルチェーン、とりわけ低価格のカジュアルチェーンは「一人当たり売上」がハニーズと大差なく、「一人当たり粗利益」は800万円に届かず、給与水準の低さが指摘される。

 

■アパレルチェーンの労働生産性を高める仕掛け

 前述したアパレルチェーン各社の人件費総額を期中平均従業者数で割って「平均人件費」を算出してみると、「一人当たり売上」や「一人当たり粗利益」と如実に相関していることが分かる。国内ユニクロ(連結指標から類推)やしまむら、ユナイテッドアローズが500万円近いのに対し、アダストリアは330万円ほど、ライトオンは300万円強、ハニーズは国内従業員だけでも280万円強にとどまる(海外工場の従業員まで含めると130万円に落ちる)。扶養家族のいない若年単身者ならこの85%ほどが給与収入になるが、介護保険も加わって負担が大きくなる40歳以上の家族持ちでは80%ほどに目減りする。それを掛けてみれば、各社従業員の平均年収が推計できよう(しまむらは平均給与も420.8万円と開示している)。

 「平均人件費」を高めるには「一人当たり売上」や「一人当たり粗利益」を高める必要があるが、それには「商品単価」「客単価」「客数」のレバレッジに加え、店内作業の効率化・自動化、商品選択からフィッティング、精算のセルフ化が不可欠だ。

 直近のコストインフレや円安による値上げでアパレル各社の「商品単価」は二桁(15〜30%)の伸びを見せており、それが「一人当たり売上」「一人当たり粗利益」を押し上げて収益性を改善し、賃上げに繋がっているのは不幸中の幸いというべきだろう。今時、「客単価」「客数」のレバレッジを効かせるにはSNSプロモーションと連動したOMOが必須で、BOPISは来店「客数」を増やし、ついで買いで「客単価」も嵩上げする。OMOがEC在庫と店舗在庫の連携やポイントの連携で終わっていては、売上と人時効率を伸ばすレバレッジ効果は限られる。

 OMO効果などで「客数」や「売上点数」が増えても、相応に運営人時量が嵩んでは人時効率は改善されない。店内作業を効率化・自動化して運営人時量を抑制しないと、「一人当たり売上」「一人当たり粗利益」の向上には繋がらない。RFIDタグは高単価業態から普及して来たが、低単価業態ほどRFIDタグとセルフレジの効果は絶大で、棚割VMDとルーチンなフェイシング管理、RFIDレーダーと連携すれば運営人時量を劇的に圧縮できる。加えて、オンライン販売で普及しているAIレコメンドやフィッティングアプリを店頭でも活用すれば選択やフィッティングがセルフ化され、ピーク時の販売効率を伸ばせる。これらはシステム装備によるレバレッジと言えよう。

 自動化・セルフ化が人時効率向上に直結するには店舗規模の拡大と省人時レイアウトが必須だが、カジュアル店では一般に店舗規模が300平米を超えると販売効率が低下するから、400平米あたりが販売効率と人時効率の分岐点になる。その壁を越えたユニクロなどは例外的な成功事例なのだろう。

※BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)・・・オンラインで注文して店舗で受け取ったり、店舗に取り寄せて試してから購入するウェブルーミング型購入慣習。

※RFID(Radio Frequency Identification)タグ・・・電子回路とアンテナを封入した絶対個品認識在庫管理電子タグ。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

 

■運営力・ブランド力・資本力のレバレッジ

 システム装備も資本レバレッジの一種だが、もっとストレートに資本のレバレッジを効かせるのが不動産投資のスキームだ。

 アパレル事業で不動産投資のレバレッジを効かせる典型的な手法はスーパーブランドによる不動産取得型路面出店だが、集客力あるテナントを核とした一括賃借(サブリース)という手法もある。前者ではブランド出店で不動産価値を高め、リートなどに売却して差益を手にした後、リースバックで営業を継続する。後者は商業施設の全体あるいは特定部分の運営を受託し、核テナントなどの集客力で一般テナントをサブリースするもので、リース料の差益を抜くか核テナントのリース料を破格の低コストに抑える。後者の場合も、開発投資して開業後にリートなどに売却して値上がり益を手にした後、一括賃借人あるいはプロパティマネジメント受託者として運営を継続する。

ドン・キホーテ(PPIH)は自店の集客力で少なからぬコンセ区画を運営し、営業利益の7割前後(年度による)に匹敵するリース収入を得ており、地代家賃負担を売上の3.0%(他に減価償却費1.7%)に抑えている。イオンモールとて、核テナントたるイオンスタイルストアの集客力?で多数のテナントを揃え、イオンスタイルストアの賃料を低額に抑えていると推察される。同じSCのテナント間でも、集客力・ブランド力ある準核テナントと一般テナントで家賃水準は十倍近い格差が生じるから、賃料にはそれなりに集客力やブランド力のレバレッジがかかっているようだ。

全館を運営するデベでなくても、特定のゾーンやカテゴリーの運営を受託してサブリースする事業者も、販売代行やFCなど運営力のレバレッジで有力ブランドを導入し収益を確保している。とりわけ、北海道や九州、四国など中央のチェーン事業者やブランド事業者が販売組織を確保しにくい、あるいはコストに合わない地域では、販売組織を擁するローカルの事業者が運営力でレバレッジを掛けてサブリースを担うケースが少なからず、運営力・ブランド力・資本力は互いのレバレッジで補い合っている。

 

■垂直統合から合理的な分担・同盟関係へ

 サプライにせよ店舗運営や販売にせよ、ひとつの事業者が全プロセスを担うやり方がベストかどうか、機動力やコスト競争力、運営力や資本力を考えれば合理的な分担を模索するべきかも知れない。長らく続いた平和なデフレ時代には教科書的な垂直統合もメリットがあったと思われるが、カントリーリスクでサプライや物流が分断され、想定外なコストインフレに振り回される混乱と分断の今日、リスクもコストも抱え込む垂直統合は見合わなくなったのではないか。

 サプライチェーンでは川中と川下の製販同盟やVMI、流通・販売ではオンラインとオフラインのOMOな連携が志向される中、運営力と資本力、労働価値と資本価値がレバレッジを掛け合うのは当然の戦略的選択と思われる。孤軍奮闘の報われぬ努力で消耗するより双方が手を組んで分担し、レバレッジの効いた成果を手にする方が賢明な選択ではなかろうか。アパレルビジネスを取り巻く時代の環境は一変してしまったと腹を括るべきだろう。

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