小島健輔の最新論文

商業界2001年10月号
『SCの明暗を分ける要件・・・イオンSCと他量販店系SCの差』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

大型SC開設ラッシュの後はどうなる

 昨年から今早春にかけて大店立地法適用前の駆け込み開設が相次ぎ、2000年度のSC開設数は過去最高の145に達した。SCの大型化も加速し、平均面積は前年から1,513ʄ拡大して20,677ʄと、ついに二万平米台に乗った。三万平米超の大型SCは前年の14から28と倍増、四万ʄ超の超大型SCはトピレックブラザ・コウトウ(79,050ʄ)、イオン岡崎SC(71,093ʄ)、イオン成田SC(64,966ʄ)、トキハわさだタウン(64,505ʄ)等の六万ʄ超級を筆頭に7から16と倍以上に増え、大型SC開設ラッシュを印象づけた。
 今二月以降のSC開設には大店立地法が適用されるが、三千平米以上の出店届け出数は昨年六月の大店立地法施行以降の一年間で147と、旧大店法の駆け込み申請が殺到した99年度の441の三分の一に過ぎず、大店法下で出店抑制措置が取られた80年代の水準(平均188)をも下回っている。生産の海外移転でSCに転換を計画する工場跡物件は枚挙に暇が無いから、大店立地法に対応する施設設計や環境対応をコストを押さえて実現するノウハウを、大半のデベロッパーはまだ確立できないでいるという事なのだろう。
 が、それ以上に出店届け出数を抑制している要因が量販店の業績悪化だ。多くはデフレと競争激化で既存店の売上が悪化しており、駆け込み開設した大型店の売上が予算を大幅に下回るケースも多く、店舗投資はひと休みしたいというのが本音だ。収益の悪化と借入金の肥大で破綻が危ぶまれる大手もあり、店舗新設どころではないのが量販店業界の実態だ。開発の主役を欠いては、大型SC開設はしばらく沈静化せざるを得ないのではないか。 

イオン系SC突出の理由

 量販店業界のSC開発が沈静化するなか、独走体制を確立したのがイオングループだ。大店立地法に対応する施設設計や環境対応のノウハウを逸早く確立し、最短でも一年と言われた大型SC開設の空白期間を半年に短縮。既にイオン新居浜SC(46,888ʄ、六月三十日開店)、ジャスコ明和SC(34,120ʄ、七月二十一日開店)、イオン東浦SC(56,334ʄ、七月二十四日開店)、イオン三川SC(37,706ʄ、八月三日開店)を開設し、来年以降もジャスコ本体や九州ジャスコ、イオンモール(イオン興産から社名変更)が少なからぬ大型SC開設を計画している。
 ライバルが失速する中、イオン系のSC開発だけが突出するに至ったには、試行錯誤を積んで磨き上げた独自のノウハウがある。そのポイントは、1)ドーナツ型広域商圏形成、2)低層モール建築とダイレクト・パーキング、3)非直線モールのレイアウト、の3点に尽きよう。
 1)ドーナツ型広域商圏形成
 “キツネやタヌキの出る所”と揶揄されるほどルーラルの都市間立地をねらったイオンSCだが、足下人口は極端に少ないものの車で二十分圏には二十万人前後が分布する。ルーラル都市間立地の地価の安さと車ライフスタイルを活用した広域型SCで、5Ɠ圏内売場占拠率は60%以上と極めて高く、販売効率は低いものの将来とも独占的な占拠率を期待できる。最近ではローカル都市間や大都市郊外の大型SCも多くなって来たが、ドーナツ型広域商圏形成という立地選定の基本スタンスは変わっていない。それが開発コストを低く抑えて低層のモール建築を成り立たせ、広域商圏を確保する必要条件だからだ。
 量販店他社は足下商圏密度を重視して高コスト立地を選定する体質が強く、ビル型の閉鎖的な中層建築になってモールを訴求できず、広域から客を呼べずに“大きな量販店”で終わってしまう例がほとんどだ。  2)低層モール建築とダイレクト・パーキング
 イオン系SCは両端にアンカーを配してモールで繋ぐ二核ワンモール型で、二〜三層の開放的な低層建築が特色だ。パーキングがSCを取り囲むように配置され(表側は平面式、裏側は立体自走式が多い)、アンカーやモールの入り口が幾つも開放されているから、行きたいお店や売場にダイレクトにアクセス出来る。
 一階ではファーストフード等の両向き店舗(外とモールを行き来出来る)を意識して配置し、モールも吹き抜けやガラス天井を多用して、限り無くオープンモールに近い開放感を演出している。外観もアンカーや有力テナントのサインをカラフルに並べ、賑わいと親しみが感じられる。
 これに対して他社のSCはアンカー売場をテナントやコンセで囲んだ大型量販店形態で、モールという独立した空間が存在しない例がほとんどだ。それが閉鎖的な中層の箱型建築の中に押し込められ、両向き店舗も限られるから、開放感は期待出来ない。中には耐震壁構造ビルになっていて窓も出入り口も限られ、まるで工場にしか見えないようなSCも実在する。パーキングも立体自走式が片側に隣接するレイアウトだから、ダイレクト・アクセスは困難だし、出入りにも時間がかかる。
 SCと称しても消費者から見ればデカい量販店にしか見えず、家族で週末に出かけたくなるような開放感も無いから、広域商圏は望むべくもない。  3)非直線モールのレイアウト
 イオンSCのモールも初期は直線だったが経験を積んで次第にカーブし、最新のケースではブーメランに近い形状になって来た。この方がモールのファサード長が長く取れるし、曲がった部分にパワーテナントを集積してモールのメイン入り口を配すれば、導線的には三核型のレイアウトが成り立つ。二核型では最も回遊性の高いレイアウトに近付きつつあると評価される。
 量販他社や百貨店系のSCはモール構造自体が欠落しているから、モール・レイアウトの適否を比較する次元にさえない。それほど、イオン系SCと他社SCの格差は開いてしまった。トキハわさだタウンなどは一見すればイオン系SCのような立地と建築レイアウトに見えるが、ドーナツ型ではなく足下も厚いサバーブのまっただ中だし、一核型を横延ばししただけで直線モールを二本平行させるなど回遊性は極端に悪く、ノウハウの稚拙さが露呈している。

出店すべきSCの必要条件

 イオン系SCがひとつの成功モデルとなり、消費者に“モール・ショッピング”という購買慣習が定着してくると、量販店建築にテナントを入れ込んで水増ししただけのエセSCは集客力で対抗できなくなる。イトーヨーカドーの葛西リバーサイドモール(99年7月開設、29,900ʄ、テナント面積8,787ʄ)とイオンのトピレックプラザ・コウトウ(2000年11月開設、79,050ʄ、テナント面積7,720ʄ)の明暗は、その典型的な事例であろう。アンカーもともかく、テナント専門店の販売効率に少なからぬ格差が見られる。絶対規模やアミューズメント施設の充実度等の差もあるが、やはり消費者が“大きな量販店”と認識するか“モール”と認識するかの差が大きかった。
 “モール”型建築のSCと箱型建築の“大きな量販店”の明暗格差はイオン系SCの中でも出ており、同一テナントが両方のタイプに出ている場合、販売効率でも前年比でもはっきりと格差があるという。テナント専門店としてどちらのタイプに出るべきか、答えは明白であろう。となれば、テナント専門店にとって、SCという概念を考え直さなければならない。
 ターミナルの駅ビルやファッションビルは別として、郊外におけるSCの概念は以下の三タイプに定義し直すべきではないか。
 1)広域型モール
 <1>二核ワンモール、あるいはそれ以上の“モール”構造を持つ開放的な低層建築で、<2>モールのテナント面積(アンカー内テナントは含まない)が全SC面積の三分の一以上かつ三千坪以上、<3>SC各部にダイレクト・アクセス可能に配置された十分な駐車場を持つ、<4>都市郊外で5Ɠ圏、ローカル郊外なら10Ɠ圏まで商勢圏と出来る大型SC。
 2)生活圏型モール
 <1>GMSまたはスーパーセンターを含む二核ワンモール、あるいは一核だがアンカーと区分された“モール”構造を持つ低層建築で、<2>モールのテナント面積(アンカー内テナントは含まない)が全SC面積の三分の一以上かつ千坪以上、<3>SC各部にダイレクト・アクセス可能に配置された十分な駐車場を持つ、<4>都市郊外で2Ɠ圏、ローカル郊外なら5Ɠ圏まで商勢圏と出来る中規模SC。
3)コンビニエンスモール
 <1>前面道路と平行に配置された十分な平面駐車場に面して、<2>SSMやコンパクトHCかコンパクト・スーパーセンターと並列にパワーテナントが配置される、<3>軽量で開放的な一層(部分二層可)の独立建築列、または長家建築で、<4>都市郊外で2Ɠ圏、ローカル郊外なら5Ɠ圏まで商勢圏と出来るストリップモール。
 これら三タイプに当てはまらないSCも多いが、それらは競争に破れて消えていく運命にあるか、テナントの収益が見込めない、つまりお勧め出来ないSCと言うことになる。コンセかテナントか見分けがつかないようなアンカー一体型の“大きな量販店”は、特に願い下げたい。
 広域型モールと生活圏型モールはテナント契約または催事契約による出店となるが、コンビニエンスモールでは長家建築型を除いてロードサイド店式に個別のリースバック契約となる。その分、自在な店舗を造ることが出来るが小型店では運営コストが出ないから、独自集客力のある大型専門店に向いている。
 三タイプのいずれを選択するかはテナント側の狙いによるが、広域型モールと生活圏型モールでは、アンカーと同系列であっても専門デベロッパー会社が独立して“モール”の開発と運営にあたっているか否かが重要なポイントと考えられる。

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