小島健輔の最新論文

マネー現代
『もう「GU」を超えた…
“日本で爆売れ”中国発「SHEIN」が抱える
「2つのヤバい大問題」』
(2022年11月30日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

「SHEIN」、日本での売り上げ1400億円突破…!?

「SHEIN」が日本向けECサイトを開設したのは2020年末。そこからわずか一年足らずの21年11月末で公式インスタグラムのフォロワー数は23万人に達し、直近では60万人に迫っている。

8000億円を売り上げた21年の米国のフォロワー数が141万人だったから、単純計算すれば日本向けECサイト開設からわずか一年で1400億円を売り上げたことになる。

フォロワー23万人で1400億円なら、フォロワー数が60万人に迫る22年は3600億円超に達する計算になるが、驚くほど急速な認知度の広がり、心斎橋の期間限定ショールームや原宿の常設ショールームに押し寄せた群衆の規模を見れば、あながち誇張されたものとも思えない。

すでに「GU」を超えた

H&Mの日本国内売上はコロナ禍もあって18年11月期の626億円から伸びておらず、店舗撤収が続くGAPやインディテックス(ZARAなど)はH&Mをかなり下回り、大手外資アパレルチェーンを合計しても1340億円(21年)ほどとピークだった16年の2670億円から半減している。

国内大手のGUとて2460億円(22年8月期)でしかないから、もはや「SHEIN」は外資アパレルチェーン合計もGUも上回る日本市場における最大のファストファッション事業者となったのは間違いあるまい(8102億円を売り上げた国内ユニクロは上質ベーシックファッションであってファストファッションとは言えない)。

そんな快挙が日本向けECサイト開設からたった2年で実現されてしまったのだから、「SHEIN」のビジネスモデルはH&Mやユニクロを超える画期的なものと認めざるを得ない。

全世界売上も20年の100億ドルから21年は157億ドル、22年は240億ドル(約3兆3600億円)と急速に膨張しており、ファーストリテイリングの2兆3011億円(22年8月期)はおろか、H&Mの1990億スウェーデンクローネ(21年11月期、約2兆5470億円)も追い抜き、インディテックスの277億1600万ユーロ(22年1月期、約3兆6140億円)に迫っている。

そんな世界売上の急膨張から察すれば、わずか2年で日本市場で3600億円獲得という白髪三千丈話も、それほどの誇張ではないだろう。

「SHEIN」の脅威的なビジネスモデル

「SHEIN」が劇的に売上を膨張させる秘密は、その単純明快かつ一方通行なビジネスモデルにある。「SHEIN」のビジネスモデルを箇条書きにすると、以下の7点に尽きる。

1)圧倒的な安さと鮮度、脅威的なバラエティ
2)DX(AI、CADCAM)駆使の超高速企画・仕様開発
3)広州産地インフラ活用の小ロット高速反復生産による需給一致
4)ローカルインフルエンサー(KOC)駆使のローカルマーケティング
5)消費国別の個人輸入税制を活用した関税・消費税の回避
6)低料金で追跡可能な国際郵便小包による生産地出荷
7)通常(SAL)便と特急(AIR)便を使い分けるタイムマシンマジック

圧倒的な安さと鮮度、脅威的なバラエティは消費者が実感しているものだが、それが成り立つ仕掛けが以下になる。

DX駆使と言うと大袈裟だが、3D・CADによるデザインと仕様が標準化されたプロトコル(PLM)で工場にオンライン伝達され、CAM機器で即座にマーキング・裁断され縫製に移れる。

企画段階ではマークした対象国のECサイトやSNSからクローラがトレンドを自動収集し、AIが販売動向もクロスして3D・CADデータベースからプロトデザインを提案し、それに基づいてデザインチームが数日でデザインを仕上げていると推察される。

「マイクロインフルエンサー」が拡散する

企画から初期ロット生産品の出荷まで1週間、既存企画の追加生産なら2〜3日で完結するが、別に驚くほどの神業ではない。

中国ではレッドカラー社によるパターンオーダースーツの7dayサプライが定着して日本にも波及しているから、遥かに工程数の少ないカジュアルウエアを百枚単位の小ロットで作るなら、広州産地では当たり前と言っても良いだろう。広州産地には機動力のある中小工場が密集しているし、現物流通する素材も潤沢だからだ。日本でも70年代までは似たような仕掛けが成り立っていた。

ローカル(マイクロ)インフルエンサーとはKOC(キー・オピニオン・コンシューマー)とも言われるもので、ブログや動画投稿がこなせて数千〜数万のフォロワーがいる積極的な消費者だ。

スター級のインフルエンサーには遠いが、消費者代表としてローカル顧客とのコミュニケーションが期待できる。「SHEIN」は各国のエージェントも使って大量のKOCを駆使しており、一般顧客にも商品をフリー提供してSNS投稿を呼びかけている。

ユーチューブに「SHEIN」が氾濫する様を見れば、なるほどと納得されるだろう。

関税も、消費税も、かからない!

個人輸入税制を活用した関税・消費税の回避は「SHEIN」の安さの一翼を担っており、米国では16年に800ドルまでの個人輸入が免税となって以来、爆発的に拡大した。

日本でも課税対象額1万円(商品代金で16,666円)以下は免税になるから、「SHEIN」の商品なら関税も消費税もかからない。そんな「SHEIN」に輸入関税(衣料品の98%は海外生産)も消費税も負担して対抗する国内販売品が価格で太刀打ちできるはずもない。

「SHEIN」は生産地の広州から安価な国際郵便小包で各国の消費者に直送しており、高コストな国内倉庫から高料金の宅急便で届ける国内EC事業者に比べれば、物流費も半分以下で済んでいる。安く売れるのも当然なのだ。

最後が通常便と特急便を使い分けるタイムマシンマジックで、サンプル商品をサイトに上げた初期の受注数(あるいはSNSのいいね数などからAI予測)で生産に仕掛かり、商品完成後に航空便で出荷すれば通常便より1週間の時差を稼ぎ、実質無在庫で販売することができる。

受注してから仕入れる無在庫販売は越境ECでは一般的な小細工であり、「SHEIN」はシステマティックに行なっていると推察される。

サステナブルじゃない無関税・無消費税の越境D2C

「SHEIN」については大量高速企画ゆえのデザイン盗用疑惑、小ロット高速生産ゆえの労働環境疑惑が指摘されているが、私は次の二点で容認すべきでないビジネスだと考える。

一つはH&Mなど従来のファストファッションなどとも共通する「使い捨て」懸念であり、手早く安価に作られた「SHEIN」の商品が長く愛顧されてリユースされていくとは到底思えない。

物性的にも感性的にも耐久性は期待できないから、短期に捨てられて大量の衣類ゴミとなっていく運命が見えている。それが地球環境の負荷となるのは言うまでもなく、アンチ・サステナブルとの誹りは免れない。

二つ目は関税も消費税も負担しないアンフェアなビジネスだということだ。

初期のアマゾンでも消費税と法人税が回避されているという指摘があったが、越境D2C(消費者直販)の「SHEIN」は日本国の法人税はもちろん、関税も消費税も回避している。

それゆえ安価で消費者を捉えているが、競争条件の不利な国内アパレル販売を圧迫しているし、国富が中国資本に流出していると言う事実に目を瞑るべきではない。

「亡国の迎合」

数十億円規模の越境EC事業者ならともかく、大手外資アパレルチェーン合計もGUも遥かに上回る3600億円という巨額に膨張した以上、関税も消費税も免税という不平等は放置すべきではない。

そんな「SHEIN」をミーハーに囃し立てるマスコミの様はまさに「亡国の迎合」だろう。

さらに連載記事『日本は「もう終わった国」なのか…H&M、GAPなどが“閉店続々&撤退ラッシュ”で、外資系アパレルチェーンに「日本が見限られた」!』では、日本のアパレル業界が直面する“現実”についてレポートしよう。

 

論文バックナンバーリスト